宇宙にも天気予報があることを知っている人は少ないのでは
天気予報を知る人でも、宇宙天気予報がないと困る人たちが、たくさんいる
日々予報を発表し、「太陽嵐」によるさまざまなキケンから人類の安全と安心を守る
華やかな宇宙開発の影で宇宙気象の研究にいそしむ長妻 努
【この企画はWebナショジオ_“日本のエキスプローラ”/研究室にいって来た”を基調に編纂】
(文=川端裕人/写真=藤谷清美 & イラスト・史料編纂=涯 如水)
◇◆ 長妻 努(06) / 情報通信研究機構 宇宙天気予報 ◆◇
◆ 第3回 太陽嵐で大規模停電が起きるわけ =2/2= ◆
実際に1989年3月、カナダのケベック州で、地磁気の乱れによる誘導電流で大停電が起きた。600万世帯が影響を受け、完全復旧には何カ月もかかったというから相当な規模だ。
またパイプラインに誘導電流が流れると、どうなるか。
火花が散って、引火するのではないかと、ぼくは直観的に思ったのだが、それは今のところ報告はないという。
「むしろ、誘導電流が流れることによって、金属のパイプが腐食するんですね。要は耐久寿命が短くなることが、懸念されているそうです。太陽活動が活発な時期には、パイプの交換のサイクルをもう少し短めにするだとか、色々対策しなければならないようですよ」
かくもはた迷惑な、磁気嵐なのだが、まさにそれが荒れ狂う時、高緯度地域でオーロラがとても綺麗に見えていることが多い。
「オーロラが非常に明るく見える状態というのは、極域で強い電流が流れている状態でもあります。オーロラだけを見ていると非常にきれいでいいなと思うんですけども、宇宙環境としては荒れている状態なわけです。特に地磁気の乱れが非常に大きくなって、例えば日本の北海道でもオーロラが見えるような状態になると、それはもうかなり大きな磁気嵐なんです」
というわけで、美しいオーロラを伴いつつ、インフラにとっては非常に危険なのが地磁気のじょう乱というわけだ。そのことは、次第にはっきりと認識されるようになっており、アメリカでは、様々な検討が始まっているという。
「現状ですと、極めて大きな太陽の活動があった時、社会インフラにどれぐらいの影響が出そうか定量的に検討しはじめていますね。経済的な損失が何兆円という水準になるかもしれない、と。送電線でも、スマートグリッドですとか、情報技術を駆使したものはむしろ、宇宙環境のじょう乱の影響を強く受けるのではないかと言われていまして、すると、思わぬ所まで被害が波及するのではないかと……日本は、北米やヨーロッパよりも磁気的な緯度が低いので、送電線への影響は相対的に小さいと考えられていますが、万が一に備えて今後きちんと考えていこうという雰囲気になってきた段階です」
なお、アメリカで近年、特にこの議論が活発になっているのは、来年5月に、太陽の活動が極大期を迎えるという予測があるからだ。これはそもそも、ぼくが太陽の活動を見つめ続ける「宇宙天気予報士」、長妻さんを訪ねようとしたきっかけでもあった。
次回は“第4回 太陽活動は活発化? それとも沈静化?”に続く・・・
■□参考資料: 太陽嵐 (2/2) □■
影響と対策
最初に到達するのが電磁波で、これは光速度で伝わるためわずか8分程度で到達する。 これは主に電波障害を起こし、多くの通信システムが使用できなくなってしまう。 次に来るのが放射線で、これは数時間で到達する。宇宙飛行士などは放射線を遮蔽できるような施設内に避難しないと被爆してしまう。
最後に来るのがCME(コロナガス噴出、コロナ質量放出)と呼ばれるもので、2-3日後に到達する。この影響が最も危険であり、これに伴って磁気圏内に生成される電気エネルギーが原因となって発生した誘導電流が送電線に混入すると電流が乱れ、停電、電力システムの破壊を招く。これを防止するには、発電所などを停止して送電をストップし、強制停電を行うことが必要になると考えられている。大都市を中心に世界的に電力供給に影響が出ることが見込まれ、復旧に莫大な資金がかかり、経済的な損失を招くことになる。
はじめの電磁波到達を乗り切れれば、本体の太陽風の到達までに情報を発信して必要な措置を取ることができるため、主な対策として人工衛星による常時監視が挙げられる。これを担当している衛星として、NASAのACE がある。この衛星は地球と太陽のラグランジュ点付近で太陽嵐の常時監視をしており、太陽嵐の到達1時間前に太陽嵐を感知することができる。
炭素14同位体の濃度が上がり、年代測定に誤差が出る。
今後発生が予想されている太陽嵐
地球上の海水が熱塩循環という大循環をしているように、太陽内部でも、磁気を帯びたガスがベルトコンベヤーのように循環をしていると考えられている。この循環は40年程度で太陽内部を一巡するが、この長さが約30年-50年程度と前後する場合がある。速くなっている場合は、多くの磁力線が閉じてエネルギーが蓄積されていることを意味し、近い将来磁力線が開いてエネルギーを解放する可能性が高いと考えられている。この解放の周期は約50年周期とされ、かつ、太陽磁場が反転して磁力線が大きく動く極大期(11年周期)に合わせて発生する。
近年循環が早かったのは1986年-1996年であり、その直後の200年の極大期には解放されなかったため、次の極大期に太陽嵐が発生する可能性があるとされていた。前述のように、2012年7月23日に発生していた太陽嵐は1859年の太陽嵐に匹敵する威力であり、地球の傍をかすめていたことが明らかとなっている。
もし太陽嵐が発生すれば、これまでに被害が現れた1859年や1958年などと比べても、人工衛星が格段に増え、電気製品や電子機器があらゆるところに利用され電力システムが生活を支えている現代社会において、生活の末端から社会全般までの様々な場所に影響が及ぶ可能性がある。被害については未知数な点が多いが、仮に1859年と同レベルの太陽嵐が発生し地球に直撃すれば、広範囲で停電が発生し、現代社会における電力やGPSに依存する機能、水道などのライフラインが破壊され、全世界で2兆ドル規模の被害が発生するとの試算がある(全米研究評議会 (NRC) 、2008年)。
◆ 宇宙天気予報 =NICT= ◆
動画のURL: https://youtu.be/PqbNGIXqc9M
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
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