ちょっと間抜けで憎めない、いや、愛すべき容貌をしたクマムシ
低温にも負けず、高圧にも負けず、乾燥にも放射線の照射にも負けず
2700メートルの海底から標高5000メートルくらいの山まで、頑健丈夫な体で生き抜く
華の都パリでそんな“かわいいけど最強”の生物・クマムシを研究する栃本武良
【この企画はWebナショジオ_“日本のエキスプローラ”/研究室にいって来た”を基調に編纂】
(文=川端裕人/写真=川端裕人・堀川大樹 & イラスト・史料編纂=涯 如水)
◇◆ クマムシ/堀川大樹 : 第4回 宇宙生物学のためにNASAへ!そして、パリへ!=2/2= ◆◇
「日本で使っていたクロレラは、いわば賞味期限があって20日間しか保たないんですね。それを1回1回輸送するとものすごい研究費もかかりますので、別のクロレラを培養して使ってみたら、それが全然駄目なんですよ。びっくりして調べたら、日本で使っていたのは特別な方法で培養されていて、栄養素成分の配合とかが違うらしいんですよ。培養方法は企業秘密で教えてくれないんですが。それで、藻類の文献を見たり、専門家に話を聞いたりして、色々試したんですけど、やはり全然駄目で。やってもやってもクマムシがバタバタ死んでいく。それで1年以上費やしてですね(笑)。結局、イギリスの会社で販売している藻類で、それなりにいい感じで育つことがわかったので実験出来るようになったんですが」
なんともどこに落とし穴があるか分からない研究生活!
もっとも、堀川さんがたまたまこの会社のクロレラを最初に手にしていなければ、ヨコヅナクマムシの系統確立もおぼつかなかったかもしれず、その意味で、幸運だったことは間違いないのだ。海外に出て1年超の遠回りを余儀なくされたことと見合うかどうかは、今後の成果次第、というところか。
ちなみに、堀川さんのNASA時代で、一番「アストロバイオロジー」の香りがする研究は、こんなふう。
「火星を想定した環境でのクマムシの耐性研究、特にUV、紫外線に関する耐性を研究しました。火星だと地球じゃあり得ないような紫外線をバンバン浴びるわけで、クマムシがそれでも生きてられるんだったら、他の惑星で紫外線がたくさん届くようなところでも生き物がいてもおかしくないよねって言いたかったんです。火星シミュレーションチャンバーといって、火星の環境を再現したところにクマムシを突っ込んでですね、生きられるかどうか調べたんですけど、まあ、ほとんど生きてました。インディアナ大学との共同研究で、もう論文になっています」
同時に、地上での真空曝露実験も行っており(未発表)、これまでの放射線、紫外線、乾燥、低温などを含め、様々な耐性への研究を、網羅してきたことになる。そこで、堀川さんの興味の対象は、クマムシの極限環境での耐性の有無やその程度、といったことから、防御機構そのものへ移ってきた。北海道大学の大学院では動物生態学からスタートし、「クマムシ」という興味の尽きない生き物に導かれて、どんどんジャンルを横断している印象だ。
パリ第5大学での研究は、その防御機構に焦点をあてたものになっているという。
もう一度おさらいしておこう。
クマムシの極限環境での耐性について。
乾燥に強い。体から水分が失われても、樽型に変形し、乾眠という方法で切り抜ける。 放射線に耐える。7000グレイのガンマ線、8000グレイの「ヘリウム重イオンビーム照射」を浴びても生きのびる。紫外線にも強い。 マイナス200度以下の極低温や150度の高温。真空に近い低圧や7万5000気圧もの高圧に耐える。 アルコールなどの化学物質への耐性を持つ。よく誤解される点があるので、注釈。
樽型の乾眠の状態になって耐性が発揮されると理解されていることが多いが、実はそうでもないことがある。低温ストレス、凍結への耐性は、前にも述べたように、樽型にならない活動状態でも発揮されるし、放射線に関しては、なんと樽型よりも、活動中の平時の方が強いというのだ。もっとも、紫外線には、樽型の乾眠状態の方が強いというからややこしい。
乾眠の研究だけなら、アルテミア(いわゆるシーモンキー、1970年代に子ども時代を過ごした人はすごく懐かしいはず)の卵、ネムリユスリカの幼虫(日本の農業生物資源研究所で、集中的な研究が行われている)、そして、線虫、といったものの方が、体が大きかったり、飼育自体も扱いやすかったり、便利な面がある。ところが、これらの生き物は、すべて乾眠中の方が、放射線に強い。クマムシだけ、特殊な機構をもっているのだろうか、と想像が膨らむ。
次回は“第5回 いつも心にクマムシ愛”に続く……
■□参考資料: 遺伝子が明かす、最強生物クマムシの強さと進化の道筋 (3/3) □■
カンブリア紀の生物進化に関する新たな証拠も発見
クマムシの属する緩歩動物は、線形動物や節足動物に近いと前述したが、どちらにより近いかはこれまで議論が続いていた。そこで研究チームは、クマムシの遺伝子の塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列を、線形動物や節足動物と比べることで、進化的な道筋の解析(系統解析)を行い、長年の議論の決着につながるデータを提示した。
下の図は、ゲノム解析によって得られた生物の進化やその分かれた道筋を、枝分かれで表す系統樹だ。詳細は割愛するが、この解析結果から、緩歩動物に一番近いのは線形動物、その次に節足動物に近いことが明らかになった。
研究チームによれば、緩歩動物、線形動物、節足動物が枝分かれしたカンブリア紀の頃の生物進化の解明が進み、地球上の生物の多様性がどのように生まれたかを知る手がかりにもなりそうだという。ただし、これまでは真クマムシ綱と呼ばれる比較的新しい種類のクマムシの研究が中心だったが、より祖先型に近いと考えられている種類の研究や、まだ研究が進んでいない他の脱皮動物の解析が進めば、今回の結果が覆される可能性も十分ある。
クマムシ研究を通して、生命とは何かを追求する
これほど見どころが多く興味深い生物であるのに、クマムシの研究は難しく、実はほとんど進んでいないという。例えば、マウスやショウジョウバエなどいわゆる「モデル生物※5」は、飼育系や実験系※6、ゲノム情報など、基盤が整った上で、かつ確立された方法で解析することができるが、クマムシは未知の部分が多すぎるため、何から何まで研究者自らがやらねばならない。例えば、飼育するにも、温度や餌、培地の組成に関して情報がなく、全て手探りで調べる必要がある。それは、例えて言うなら「原始時代に戻って文明を立て直すような大変さ」、と荒川さんは話す。
※5 モデル生物/実験や観察の目的となる生命現象を観察しやすい生物。入手や飼育が容易、扱いやすいサイズ、成長が早い、世代交代が早いなど、研究に好都合な条件をもつものが多い。
※6 実験系/研究の目的を達成するための実験の一連の手法
それほど大変な労力をかけて研究を続ける原動力について、荒川さんは、発生学の研究で線虫に注目したノーベル賞受賞者のシドニー・ブレンナー博士に自身の姿を重ねる。ブレンナー博士も、線虫の飼育・実験系の確立を自ら行いながら、生物の個体発生(卵から個体になるプロセスや、その過程で何が起きるか)のさまざまな発見をした。荒川さんは、「クマムシ研究は、『生命とは何か』という究極の問いを解く上で最適」と語り、ブレンナー博士のように苦労しつつも研究を成し遂げようとしている。「通常の生き物では、殺して生きている状態を止めることしかできないが、クマムシなら生きていない“モノ”の状態から、動態が生まれ、生命活動が生じる過程を観察できる。ここから“生命とは何か”を数式などの数学的言葉で定義したい」と自身への使命のように語ってくれた。
荒川さんの研究室では、多種類のクマムシのゲノムプロジェクトが進行中だ。クマムシ研究の基盤が整えば、参入する研究者も増えるだろう。並々ならぬ努力と苦労の末に導き出される今後の成果に、ぜひ注目していきたい。 (サイエンスライター 丸山 恵)
◆ Immortal Creatures Living in Florida Crater?! ◆
動画のURL: https://youtu.be/qYp3jvkiP_4
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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