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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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めくるめく知のフロンティア・学究達 =156= / 堀川大樹(08/11)

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ちょっと間抜けで憎めない、いや、愛すべき容貌をしたクマムシ

低温にも負けず、高圧にも負けず、乾燥にも放射線の照射にも負けず

2700メートルの海底から標高5000メートルくらいの山まで、頑健丈夫な体で生き抜く

華の都パリでそんな“かわいいけど最強”の生物・クマムシを研究する栃本武良

【この企画はWebナショジオ_“日本のエキスプローラ”/研究室にいって来た”を基調に編纂】

(文=川端裕人/写真=川端裕人・堀川大樹 & イラスト・史料編纂=涯 如水)

◇◆ クマムシ/堀川大樹 : 第4回 宇宙生物学のためにNASAへ!そして、パリへ!=1/2= ◆◇

  アストロバイオロジー(宇宙生物学)というのは、一般には馴染みのない研究領域かもしれない。決して宇宙人を探そうという話ではなく(もちろん宇宙人が目の前にいれば、アストロバイオロジストは研究対象にしたがるだろうが)、生命の起源を知るため、地球の枠を外した探究をする一連の研究、というイメージか。興味のある方は、横浜国立大学の小林憲正教授による『アストロバイオロジー・宇宙が語る“生命の起源”』(岩波 科学ライブラリー)をお奨めする。堀川さんも同意見。

 ちなみに、アストロバイオロジーという研究の枠組みを提唱したのはアメリカのNASAで、1995年のことだという。いわく「地球、および地球外での生命の起源・進化・分布・未来、を研究する学問領域」。クマムシは、十中八九、というかほぼ100%、地球起源でありながら、極限状態の宇宙に「分布」可能かもしれない耐性を持った動物の筆頭として、アストロバイオロジーの興味の対象なのだ。

 というわけで、ヨコヅナクマムシの飼育系・系統を確立した堀川さんは、NASAにとっても非常に魅力的な人材と映ったらしい。2年間の予定で、フェローシップを与え、カリフォルニアのエイムズ研究センターに招聘、ということになった。

「アストロバイオロジーで、地球の生き物を宇宙に持ち出してみる研究は、それまでバクテリアみたいなものしか扱ってなかったんです。高等生物であるクマムシを入れたら面白いんじゃないかというのが最初のアイデアです」

 クマムシは、小さいとはいえ、れっきとした「動物」だ。高真空、低温、強烈な放射線、といった究極の極限環境である宇宙環境にクマムシが耐えられるか、というのはたしかに興味がある。

 2007年、科学実験衛星での実験で、宇宙の真空に晒されても、クマムシが10日間は乾眠の状態で耐えられることが分かった。これは堀川さんのアストロバイオロジーでの最初の成果……なのではないか、と実は誤解していた。

  「実は、スウェーデンとドイツの研究者がやりました。一応私のライバル(笑)。クマムシの極限環境耐性って狭い研究のフィールドで競合する人は世界で数人しかいなくて、やろうとしてることがいつも一緒なんですよ。前に出したクマムシの放射線耐性の論文も、1年前にスウェーデンの研究者が同じような研究を出してるんですね。彼はリヒテルス・コロニファーっていう体長が1ミリもある世界最大のクマムシを使うんですが、それは飼えないんです。放射線を当てて、その後ただ餌も何も与えず水の中にボーッと置いて、その後にどのぐらい卵産んだかとか、生きたかっていうのを調べた。先行研究は一応あるんですが1964年で、結局40年も誰も研究をしてなかったのに、2005年、2006年と彼と私が立て続けに論文を出した。で、私がやろうと思っていたアストロバイオジーのテーマを、彼がESA(ヨーロッパ宇宙機関)と共同して、やってしまった。私、NASAに移ったばかりだったので凹みました」

 なるほど、あれは、堀川さんの研究ではなかったのか。ということは、今年(2011年)5月から6月にかけてのスペースシャトル・エンデバーのラストフライトで、搭載されていたクマムシが、堀川さんのもの……と思ったら、それも違った。

「あれは……イタリアのグループが。なぜクマムシは宇宙空間に耐えられるのか、という謎を解明する目的で、地球に帰還後のクマムシのDNAに傷がついていないか、細胞の形がどうなっているのか、といったことを調べるはずですが、まだ論文は出ていません。イタリアのグループのクマムシは一応飼えるそうなんですけど、あんまり安定してなくて弱い種類みたいですね」

 いずれにしても、NASAでの2年間で、堀川さんが関わっていて不思議でない実験に、ヨコヅナクマムシが使われなかったのは、意外であった。その間、堀川さんは何をしていたか、というと、まず第一に「苦労していた」らしい。

……明日に続く……

■□参考資料: 遺伝子が明かす、最強生物クマムシの強さと進化の道筋 (2/3) □■

乾燥耐性の決め手は、遺伝子の発現

 研究チームによる詳細なゲノム解析の結果、意外にもヨコヅナクマムシとドゥジャルダンヤマクマムシがもつ遺伝子は、ほとんど同じであることが分かった。具体的には、細胞を乾燥から守るためのクマムシ特有の多数の遺伝子や、抗酸化作用に関連する遺伝子、細胞ストレスセンサーの遺伝子欠損など、乾燥耐性に関わる遺伝子セットがどちらのクマムシにもしっかりと備わっていた。

 では、乾燥耐性の違いはどこから生まれるのだろう? 研究チームがこれらの遺伝子の発現※3について調べると、興味深い結果が得られた。乾燥耐性の強いヨコヅナクマムシは、乾眠に必要なこれらの遺伝子を常にオンの状態にしており、乾燥耐性の弱いドゥジャルダンヤマクマムシは、乾眠状態のときだけ、必要な遺伝子をオンにしていたのだ。(イラスト参照)

それにしても、同じクマムシなのに遺伝子のオン/オフの違いだけで、乾眠までの時間の長さがそれほど変わるものだろうか。研究チームの荒川さんは、いくつかの要因が重なって大きな差が生まれるのではないかと考える。まず、遺伝子の発現をオフからオンへと切り替えるための負荷について考えねばならない。乾眠関連の遺伝子は非常に高発現※4で、大量のタンパク質の合成には通常数時間を要する。また、乾燥させると体内の水分量も減少し、細胞内の酵素活性が落ちると想定される。さらに、ゆっくり乾燥するという湿度条件では、水分を完全に乾燥させるだけでも12〜24時間はかかる。こういったことが合わさり、ドゥジャルダンヤマクマムシが乾眠に入るのに24〜48時間かかるのではないかということだ。

※3・4 発現・高発現/タンパク質合成を支持するための遺伝子のスイッチがオンになること。ゲノムに書き込まれた遺伝子は、全てが常に使われているわけではなく、必要に応じて「オン(=発現)」の状態に切り替えられる。高発現とは、発現する量が多いこと。

医療やバイオテクノロジーに貢献か

 クマムシの極限環境耐性が私たちの生活に役立つかについてうかがうと、「細胞ストレス・ダメージの限界を知ることができるので、老化やがん研究に役立つ知見が多数ある」と荒川さんは話す。細胞の放射線耐性という意味ではクマムシもヒトのがん細胞も似た仕組みを使うことがあるため、クマムシにおける放射線耐性の知見は、例えばがん細胞の耐性の理解に役立ちうる。また、クマムシの酸化ストレス耐性は、酸化ストレスの影響が大きいと考えられる老化メカニズムのさらなる理解に有用な知見を与えうるという。

 バイオテクノロジーにも新たな道を切り拓きそうだ。例えば、クマムシの乾燥耐性を応用して有機物を乾燥保存できれば、現在、液体窒素での低温保存・輸送が必要な酵素やワクチンなどの保存と輸送が劇的に便利になる可能性がある。いずれは、iPS細胞や臓器の乾燥保存などへの応用も期待される。

 実際に応用研究が進んでいるクマムシ特有の遺伝子もある。「Dsup (Damage suppressor)」と呼ばれる放射線耐性遺伝子だ。この遺伝子のDNAを、ヒト培養細胞(ヒトの細胞を取りだして実験的に育てた細胞)に人為的に入れ放射線を照射すると、ヒト培養細胞のDNAダメージが半減したという報告もある(→参考:東京大学プレスリリース「ヒト培養細胞の放射線耐性を向上させる新規タンパク質をクマムシのゲノムから発見」)。

◆ Microscopic Water Bear Does Something Never Witnessed Before! ◆

動画のURL: https://youtu.be/EoMPs9MilQM 

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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