生態がほとんどわかっていなかったオオサンショウウオ
驚くべきは国の特別天然記念物でありながら、その生態は謎だらけ
勤務する水族館でよく聞かれた素朴な疑問に答えようと研究をはじめた
子供たちに答えようと、ついには「日本ハンザキ研究所」を作ってしまった栃本武良
【この企画はWebナショジオ_“日本のエキスプローラ”/研究室にいって来た”を基調に編纂】
(文=川端裕人/写真=的野弘路、堀信行 & イラスト・史料編纂=涯 如水)
◇◆ 番外編3 チュウゴクオオサンショウウオの保護に日本の技術を活かす =2/2= ◆◇
さて、そんな寒さのせいなのか、この土地の人たちは、とても強い酒を飲む。
少しでも公的な機関と一緒に動くと、中国では必ずついてくる「夜の打合せ」(接待、というのとはまたイメージが違う気がする)の場には、大量のお酒が運び込まれていた。
いわゆる習酒。コウリャンから作られた蒸留酒で、アルコール度数は軽く50度オーバーだ。持ち込まれたボトルをすべてあけないと帰れない、という習慣があって、何人たりとも逃れられない雰囲気が満ち満ちていた。
郷に入らば郷に従えというのは、旅の基本。今後現地でオオサンショウウオの保護を行っていくためには、こういう場が必要だとも言い含められていた。しかし、アルコール度数と量は、命に関わる水準で、勧められてもなんとか誤魔化してやり過ごすしかなかった。魏教授がかわりに飲んでくれたり、ソフトドリンクの缶にこっそり移し替えたり、その場しのぎを繰り返した。自分はともかく、田口さんは1滴も飲めない体質なので、危機感は相当高かった。本当に、ここの人たちは酒に強い! と思いきや、トイレに行くと、先に来た人の吐瀉物の臭いに満ちているのである。本当に、誰が得してるんだろう、と思う習慣であった。
やっとお開きになって(誰かがすべてのお酒を飲み干した、ということだ)、店のメニューが書かれた窓ガラスを見た。そこにはしっかりとこのような文字があった。
娃娃魚 888元/斤
中国の1斤は、500グラムだそうだ。ここは産地なのに、北京での価格980元よりも、1割ばかり安いだけ。換金価値の高い商品が乏しい土地で、オオサンショウウオ養殖が重く見られる所以だった。
◇◆ 番外編4 ヨウスコウカワイルカの二の舞を防げ =1/2= ◆◇
「わたしの1日は24時間ではない。28時間くらいある」と言うベッキーは、本当にハードワーカーだ。絶大なリーダーシップを発揮し、チームを牽引した。
今回、田口さんの予定をアレンジし、魏教授らも呼んだのは彼女である。彼女と魏教授が行政と話を続け、許可が降りた瞬間、なにもかもが凄い勢いで動き始めた。
銅仁市内の江口地区での養殖場めぐりをした後、次は苗族が多く住んでいる松桃苗族自治区へと向かった。そこでも、頭の中で記憶が溶けてしまうほど、めまぐるしく作業をして回ったのだが、その中でひとつ謎が解けたかもしれない。
「幼生とか小さいのがいませんよね」と田口さんも疑問を口にしていたことだ。
最初にまわった養殖場では、20センチ以上はありそうな若い個体はいたが、数センチから10センチ前後の子どもは見なかった。ましてや、卵を孵化させて、ゼロから大きくしている痕跡が見当たらなかったのである。
それが、松桃の養殖場では、まさにそれが行われていた。まだ鰓を持っている、つまり、アホロートル状態の幼生もいた。こういうところでしっかりと繁殖させて、他の養殖場に供給しているのかもしれない。貴州省銅仁市界隈だけの事情かもしれないが、まだ中国のオオサンショウオやその養殖についての情報はきわめて少ないので、ここで報告しておくと何かの参考になる人もいるかもしれない。
◆ 後足と尾の組織のサンプル採集 ◆
動画のURL: https://youtu.be/OQvKKqq5_YM
さて、結局、合計6つの養殖場をまわり、19頭のCGSにタグを打ち、つぶさに観察した。
飼育状況、繁殖状況について、田口さんはどう見ただろう。
「正直、日本のオオサンショウオの飼育から考えると、あまり分かっていないなあというところが多いです。病気で口の中が充血しているのを見ましたよね。ああいうのは、よくない。繁殖にしても、野生の繁殖生態を理解してやっているというよりも、たまたまうまくいく個体や施設があって、そこでだけ偶発的に成功しているのかなあと思います。あと、異様に太っている個体が多かったですね。これも繁殖には不適な気がしますね」
こと繁殖に関する限り、野生での状態を知らずに飼育するなら「たまたま」に期待するしかない。松桃苗族自治区で訪ねた養殖場のひとつに1980年代創業の、業界の草分け的なところがあり、よりよく繁殖させるために「半自然型」と名付けた繁殖施設を新設していた。これまで、屋内の生け簀で飼っていたものを、人工的な水路と人工巣穴で繁殖させるというものだ。水路が並行に設置され、その間を人工巣穴を埋設したあぜ道で仕切る。
実際に成果があがっていると聞いたが、田口さんはさらによくする方法があるのではないかという。
「ひとつの水路に4つ巣穴があって、オスメス1頭ずつで8頭って言ってましたよね。野外では、強い、いいオスのところに複数のメスがやってきます。飼育下で繁殖させようとすると、いいオスがいないと、どうやらメスは産卵しようとしないみたいなんです。オスメス1頭ずつにするんじゃなくて、日本の広島市安佐動物公園の繁殖施設でやっているように複数のオスメスを一緒にしたほうが成功率はさらに上がるはず」
どうやら、日本での飼育・繁殖の実績から、伝えるべきことはたくさんありそうなのである。
養殖場めぐりを終えた翌日、銅仁の大学で「オオサンショウウオ保護国際研究会」なるものが開かれた。
細長いロの字型のテーブルに、やけに立派な黒い椅子。それらが立派すぎてモノリスのように見え、エヴァンゲリオンの「ゼーレ」の会議か! というくらいだった。実際、大学の副学長が出席したり、かなりハイクラスな人たちが集まる場であったようだ。
田口さんは講師で、最前列。日本のオオサンショウウオ保全活動や、自身の研究を語り、実に1時間半、堂々とレクチャーした。
さらに、ぼくも……なぜか、ネームプレート付きの席を与えられ、つい最近、雑誌掲載されたばかりの「オオサンショウウオ小説」について紹介した。オーガナイザーであるベッキーの意向だった。最初はなぜ? と思ったが、「日本ではオオサンショウウオが、幅広い文化になっている。それを伝えたい」というのである。たしかに、誰もが知っている井伏鱒二から始まって、日本のオオサンショウウオは、幅広い文化として浸透しているかもしれない。例えば、Amazonのサイトで、オオサンショウウオと打ち込めば、書籍だけでなくぬいぐるみや手ぬぐいやペンケースまで100件ほどの商品がヒットする。愛好家が確実にいるのである。そして、愛着を持たれる生き物は、保護されやすい。
・・・・・・明日に続く・・・
◆ 標識の埋め込み ◆
動画のURL: https://youtu.be/lhpXjDXq1B0
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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