『ナショナル ジオグラフィック』は直訳すれば「米国地理学雑誌」か
それなのに、ちっとも地理学誌らしくない記事を掲載 でも、そもそも地理学ってなんだろう
そんな疑問をたずさえて、世界で活躍する地理学研究者であると同時に
“ナショジオ”全巻の蔵書を誇り “ナショジオ”にまつわる展示会まで開催した堀信行
【この企画はWebナショジオ_“日本のエキスプローラ”/研究室にいって来た”を基調に編纂】
(文=川端裕人/写真=的野弘路、堀信行 & イラスト・史料編纂=涯 如水)
◇◆ 堀 信行 : 第二回 ライバルはチャールズ・ダーウィン!! =3/3= ◆◇
堀さんが立てた仮説を大づかみに述べる。
サンゴ礁は、氷河期から現在(間氷期)に向けて、地球が暖かくなり、水温も上がり、同時に海水面もあがっていく過程で広がった。サンゴ礁ができるためには最低18度の表面海水温が必要なので、氷河期にこの条件をクリアした温かな海では、当時陸地だった大陸棚の外縁部からサンゴ礁が発達した。現在それは「深い」サンゴ礁となっている。その後、間氷期に向けて海が温かくなり、海面も上昇してからサンゴ礁が発達しはじめた場所が、北緯南緯それぞれ20度から30度あたりに分布し、一般に緯度が高いほどサンゴ礁が立ち上がる深度は浅く、サンゴ礁をつくる「礁石灰岩」は薄くなっていく。つまり、サンゴ礁の分布域の周辺に近いほど(緯度が高くなるほど)、できた時代が新しいことになる。
「ダーウィンが乗った測量船ビーグル号の航海などでできたイギリスのアドミラル・チャート(海軍海図)というのがありまして、ダーウィンは帰国後それらを使って、環礁、堡礁、裾礁と、3つのタイプを識別し、それらの分布を世界地図に塗り分けました。それが、唯一のサンゴ礁の世界分布図だったんですね。私はそれを受け継ぐ形で、離礁、エプロン礁といったサンゴ礁のタイプも加え、氷河期にサンゴ礁ができたところと、間氷期になってからサンゴ礁ができたところと分けて描いたわけです。
すると、環礁、堡礁は、見事に氷河時代にサンゴ礁ができていたゾーン核心域に集中し、裾礁やエプロン礁は間氷期に入ってからサンゴ礁ができた周辺地域に集中してるんです。ダーウィンは、サンゴ礁の形成について、海底が沈んでいく沈降説を唱えました。長期的な考え方として沈降説は再評価できるんですが、現在のサンゴ礁のタイプと分布については、氷河期からの海水温変化や海水面上昇が効いていると──」
先行研究はチャールズ・ダーウィン! そして、それを拡張し、乗り越えたといえる。
それほど大きな地球規模のグランドセオリーだ。
もっとも、ことサンゴ礁にかんしては、海図をもとにした仮説には限界がある。なぜか──
「海図は、船で航海するためにつくるわけです。そうすると、航海者にとっては、サンゴ礁がある場所は危険地帯ですからあまり近づきません。というわけで、海図はサンゴ礁のあたりでは水深の情報が粗いんです。本当にわたしが考える通りに調べるには、自分でサンゴ礁のところへ行って測深しないといけないということでして──」
堀さんは、琉球列島の奄美・沖縄での実測に加えて、まずはアフリカのケニア、さらにポナペ、ハワイ、フィジー、トンガ、ラロトンガ、タヒチ、パラオ、ニューカレドニア、インドネシアのスマトラ島のインド洋側や、紅海でも測深調査を行い、自説の礁形成モデルと整合することを確かめた。そして、目下、一般的な理論として受け入れられているという。
実にスケールの大きな研究で、まさに「地理学」と思える。堀さんの研究はさらに続く。
つづく、次回は“アフリカの熱帯雨林でも大発見”に続く・・・・
■□ 参考資料: 大重監督との記憶 (3/3) □■
the Earth of Free Green : 「神の島」に寄せた熱い心
―大重潤一郎監督との記憶を辿る
さてここで、「久高オデッセイ第三章 風章」の映像に戻り、大重監督との記憶の終章へと向かいたい。映像の中で、サンゴ礁の内海である礁湖(または礁池)を「イノウ」という表現を使っての説明が出てきたときは、初めて出会った日に監督に説明した会話が懐かしく思い出された。一通り撮影が終わった後、港近くのお店で、早速杯を酌み交わした。飲むほどに監督との波長が合い、心地よい。久高島のことから沖縄の自然観や文化論へと話題は尽きなかった。
その中で私は聞きたかった疑問を監督にぶつけた。「なぜ久高島なのですか」と。監督は、この島に人生を奉げ、貴重な記録写真を残した比嘉康雄氏のことを述べ、そして12年ごとに行われてきた島社会の根幹にある祭祀「イザイホー」が途絶えて久しいことを挙げた。「だから、この島がこれからどのように生きていくのか、また新たに何が生まれるのか、再生する久高島を見届けたい。」と、大重監督は力を込めて、熱っぽく語った。人間が人生をかけて決意し、そのために生きる気高さを感じ、私は感銘を受けた。大重監督には、人ともにある場所(地域)の総体が生き物のように見えていることを実感し、地理屋としての私の心情も同じだ、と述べて共感しあった。
「久高オデッセイ第三部 風章」の最後の場面で、祭祀の最重要な施設、カミアシャゲの中でノロが泣きながら祈る姿が、微かな音声とともに、映し出されている光景は衝撃的である。その映像を受けて監督自身、いやそれだけでなく監督の心の中で消えることのない比嘉康雄の声も重なって、ゆっくりと絞り出すような口調で、「12年間待っていた島の姿を確認した。」と語った瞬間、私の目頭は熱くなり、思わず声に出そうになりながら心の中で呟いた。
「監督、願いが叶いましたね。久高島は息づいていましたね。まことにご苦労様でした。よくぞこの瞬間を映像として記録していただき、それを私たちに伝えてくださいました。凄いです。長年の監督の思いがこの一瞬の映像に結実しましたね。本当にありがとうございます。」と。
私自身も16年前の監督の言葉を思い出しながら、納得し、久高島への思いが、沖縄をはじめ南の島々への思いとして広がり、そして我々の文化の基層に流れ続けている水脈をこの映像が見せてくれているのだと実感し、身震いすら覚えた。この作品の完成後まもなくお亡くなりになった監督は、この映像の瞬間を一つの「命」の区切りとして納得されてニライ・カナイへと旅立たれたのだと思えた。 合掌。
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◆ サンゴ(珊瑚) ◆
・・・ https://youtu.be/Jn1F9la2FkQ ・・・
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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