地球に生息するアザラシから、チョウザメ、ウナギ、ワニ、ペンギン
つまり 北極圏―中国深部―マレーシア―フロリダ―南極まで
インディ・ジョーンズばりに世界の極地を飛び回り、兵器“データロガー”で野生動物を狙う
驚くべきデータを次々に発表する / 大型捕食動物の生理生態学者・渡辺佑基
【この企画はWebナショジオ_“日本のエキスプローラ”/バイオロギングで海洋動物の真の姿に迫る”を基調に編纂】
(文/写真=渡辺佑基= & イラスト・史料編纂=涯 如水)
◇◆ マグロとホホジロザメに共通する進化の秘密を発見! =3/3= ◆◇
魚の多くは1年間の周期で回遊している。たとえば日本近海のサンマは、夏は北海道の沖まで北上し、冬は四国、九州あたりまで南下してくる。それは季節的な水温の変化や局所的なエサの増減などの影響を、自らが移動することよって和らげるためである。
でもひょっとしたら、サンマはもっと広い範囲を回遊したいのかもしれない。回遊範囲が広がれば、季節的、局所的な環境の変化に対してより柔軟に対応でき、生存上のメリットは大きいだろう。たとえばエサの豊富な、遠く離れた複数の海域を順番に訪れることもできる。それにもかかわらず、サンマの回遊距離が日本列島の長さほどに限られているのは、サンマは体温の高くない普通の魚であり、遊泳スピードが遅いので、物理的にそこまでしか行けないからではないか。
だとすれば、速い巡航速度をもつ体温の高い魚は、ずっと広範囲を回遊できるはずだ。そう考えてみれば、体温の高いマグロ類や一部のサメは、サンマとは比べ物にならないほどダイナミックな回遊をしているように、少なくとも感覚的には思えた。クロマグロは1年のうちに日本沿岸から広大な太平洋を横断し、カリフォルニアの沖まで行ったりするし、ネズミザメは夏にアラスカの湾内に集まり、冬はハワイの近くの海にまで南下したりする。
これはいけるかもしれないと私の胸は高鳴った。本当に体温の高い魚が、そうでない魚に比べてより広い範囲を回遊するかどうか、網羅的に調べてみればいい。幸いにして近年、様々な魚に記録計(あるいは発信器)が取り付けられ、回遊の軌跡が論文として公表されている。そこで早速、それらのデータを集められるだけ集め、1年間の回遊の軌跡の端から端までの距離を「グーグルアース」で測定してみた(下図参照:図2)。
結果ははっきりと現れた。体温の高い魚は、そうでない魚に比べて回遊距離が長かった。同じ体重で比較すると、体温の高い魚はそうでない魚に比べて2.5倍も回遊距離が長かった。驚いたことに、遊泳スピードと同様、体温の高い魚の回遊距離は恒温動物(ペンギン、アザラシ、クジラなど)のそれに近かった。
さらに、回遊距離のデータと遊泳スピードのデータとを合わせてみると、速いスピードで巡航する魚ほど長距離を回遊する傾向があることがわかった(下図参照:図3)。この結果は、魚の回遊距離が巡航速度によって制限されているという私のアイデアをはっきりと裏付けていた。
ここに至って、マグロ類やホホジロザメにとっての高い体温のメリットが明らかになった。体温の高い魚は持久系の運動を支える赤筋の出力が高いために、普通の魚に比べて速いスピードで巡航することができる。速い巡航スピードは、普通の魚には不可能な地球規模の大回遊を可能にし、そのため体温の高い魚は季節的、局所的な環境変化に対してより柔軟に対応することができる。エサの豊富な場所、産卵に適した場所などを、季節に合わせて広大な海の中から自由に選択することができる。そのようなメリットが、多くのエネルギーを消費するというデメリットを上回ったからこそ、体温の高い魚という不思議なグループが進化したのだと考えられた。
それからもう1つ。今回の研究では、体温の高い魚は遊泳スピードにおいても、年間の回遊距離においても、普通の魚のレベルを超えており、むしろ海生哺乳類(クジラ、アザラシなど)や海鳥(ペンギンなど)といった恒温動物に近いことがわかった。つまり魚類、鳥類、哺乳類などの分類群の枠を越えて、体温というシンプルな値が地球上の動物の動きを説明するという、驚くべき自然の法則が明らかになった。
次回“ヒラシュモクザメに関する奇想天外な仮説”に続く・・・・
■□参考資料:バイオロギングで探る海洋動物の行動・生態 (2/6) □■
国立極地研究所・総合研究大学院大学複合科学研究科 / 高橋 晃周
研究の手法 バイオロギングによる研究の成果を紹介する前に, まず手法について簡単に説明しておこう。バイオロ ギングによる研究では,動物に装置を取りつけ,それを後から回収することでデータを得るため,動物を2度捕まえる必要がある。海鳥は,卵を温めたりひなを育てたりする繁殖期間中,えさを取るために海にあるえさ場と巣の間の移動を何度も繰り返す。
したがって,親鳥が海へ出て行く直前に記録計を装 着し,巣に戻って来たところで回収することが可能で,バイオロギング手法を使ううえで非常に好都合である。アザラシも,子育てや換毛のために決まった上陸場に戻ってくる種が多く,海鳥と同じやり方が使える。
バイオロギングを使用する際の注意点は,動物の自然な行動を阻害しないために,十分に小型の記録計を用いることである。バイオロギングの歴史は装置の小型化との闘いであるともいえる。国立極地研究所を中心とした日本の研究チームでは,記録計の小型化に過去30年近くにわたって取り組んで来た。
耐圧のケースに入った記録計は,スペースを最大限 活用するために,データ記録用のメモリ,センサー, 電池などがびっしりと詰めこまれている。高 度な小型電子技術を生かした日本のバイオロギング技術の評価は高く,世界各国の研究者たちが日本製の記録計を用いている。
バイオロギングで得られる情報は,記録計にどんなセンサーを搭載するかによって変わる。移動に関しては,GPS(全地球測位システム)で動物の位置が, 圧力センサーで潜水深度が計測できる。また,加速度センサーで動物の 体の振動が記録でき, 体の振動パターンから,歩行,飛翔,ひ れの動きなどの行動を読み取ることができる。
プロペラの回転数を記録すれば,遊泳速度が計測できる。また,生理状態に関しては, 温度センサーで体温を,体の電位計測で心拍数を記録できる。カメラの映像から,動物周辺の環境の情 報を得ることもできる。小型で電力消費の少ないセンサーの登場が,バイオロギングの発展に大きく貢献している。
・・・・・・明日に続く
◆ バイオロギング ◆
・・・https://youtu.be/f-UaCRc0SCo?list=PLw3QxSAmxbO08nPTUdZcf5cx_mRmcw6l2・・・
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
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