地球に生息するアザラシから、チョウザメ、ウナギ、ワニ、ペンギン
つまり 北極圏―中国深部―マレーシア―フロリダ―南極まで
インディ・ジョーンズばりに世界の極地を飛び回り、兵器“データロガー”で野生動物を狙う
驚くべきデータを次々に発表する / 大型捕食動物の生理生態学者・渡辺佑基
【この企画はWebナショジオ_“日本のエキスプローラ”/バイオロギングで海洋動物の真の姿に迫る”を基調に編纂】
(文/写真=渡辺佑基= & イラスト・史料編纂=涯 如水)
◇◆ オーストラリアのサメ調査は1勝2敗 =3/3= ◆◇
2日後。レモンザメとヒラシュモクザメの両方から、機器が切り離される予定の日である。正常に機器が切り離され、海面に浮上すれば、人工衛星を介してインターネット上に位置情報が送られてくるはずである。いっぽう、もしも何かトラブルが起こり、位置情報が送られてこなければ、データが手に入らないだけでなく、高価な機器が海の藻屑と消えることになる。私はこの「切り離し回収」の調査方法をかれこれ10年以上も続けているけれど、切り離しの当日だけは、いまだに慣れることなく緊張する。
レモンザメの切り離し予定時刻。位置情報はインターネット上にアップされない。そわそわと落ち着かない気持ちで1時間待ち、2時間待ったが、一向に情報は入らない。
そのうちにヒラシュモクザメの切り離し予定時刻が来た。こちらは少しのタイムラグで、正常に位置情報が入ってきたので、ほっと胸をなで下ろす。
レモンザメのほうはどうしようもないので、とりあえずヒラシュモクザメの機器の回収に向かった。調査船から小型のボートに乗り換えて、インターネットで確認した緯度、経度を目指す。この日は海は大荒れで、ひとつひとつの高波がジャンプ台であった。3秒おきにボートがふわりと宙に舞い、ガツンと激しく着水してしぶきが上がり、大量の海水が顔面を叩きつけた。風は冷たく、海はグレーで、ここが本当にグレート・バリア・リーフなのかと疑うほど体が冷えてぶるぶると震えた。
けれども海面に浮かぶオレンジ色の浮力体を見つけ、回収したときには、今度はうれしさで体が震えた。ヒラシュモクザメから世界初のバイオロギングデータを取得した瞬間である。
結局、その後もレモンザメの機器からは位置情報が送られてこなかった。なお悪いことに、ヒラシュモクザメからデータを取得した翌日、もう1匹レモンザメが釣れ、機器を取り付けたのだが、こちらも信号が入らず、行方不明になってしまった。
何が起こったのかは神のみぞ知るところだが、ひょっとしたらこのサメはサンゴ礁の下に潜り込む性質があって、切り離された機器がサンゴ礁に引っかかり、浮上しないのかもしれない。いずれにせよもうレモンザメはこりごりだ。
というわけで、今回のオーストラリアの調査は1勝2敗。憎きレモンザメを相手に高価な機器を2セットも失ってしまった悔しさと、愛すべきヒラシュモクザメから貴重なデータがとれたうれしさとが入り混じる、なんともいえない結果になった。
え、ヒラシュモクザメからはどんなデータがとれたかって? それはもう、予想もしなかったようなとびきり面白いデータがとれた。言いたいけれど、またそれは次回以降に。
次回“マグロとホホジロザメに共通する進化の秘密を発見!”に続く・・・・
◇渡辺佑基▽生物学界のインディ・ジョーンズが持つ世界初の映像が満載◇
・・・https://youtu.be/xEaVb1krLAM?list=PLw3QxSAmxbO08nPTUdZcf5cx_mRmcw6l2・・・
■□参考資料:動物の知られざる生態に迫るバイオロギング (2/3) □■
動物の知られざる生態に迫るバイオロギング|東京大学 / 取材・文:小竹朝子
成功に至るまでの失敗の数々
佐藤先生は、データロガーの進歩とともに業績を上げてきましたが、ここまでの道のりは平坦ではありませんでした。
1990年、京都大学農学部の卒業論文で、内藤先生が開発したロガーを使った実験についてまとめましたが、これが佐藤先生にとって初めてのバイオロギング体験でした。
当時、徳島県の浜辺で、2頭のウミガメに深度計と水温計が入った装置を甲羅に取り付け、体内の温度を調べるため温度計を飲み込ませました。ところが、一頭のロガーは5日後に近くの定置網に引っかかって戻ってきました。もう一頭とロガーは戻ってきませんでした。
「そこで失敗したので意地になりました」と佐藤先生は振り返ります。
修士課程に入り、今度は和歌山県にフィールドを移して、再度2頭のウミガメにロガーを取り付けましたが、そのうちの一頭はまたもや戻って来ず、もう一頭は胃の中の温度計を吐き出してしまい、いいデータが取れませんでした。
「そのとき、今までのロガーの取り付け方が亀にストレスを与えていて、そのせいで戻ってこなかったかもしれない、と考えました」と佐藤先生は言います。
そこで、より負担の少ない方法を考え、ウミガメの甲羅に寄生するフジツボに似た台座をつけて、その上に機器を固定しました。2年間の試行錯誤を経て、ロガーを取り付けた4頭全てから良いデータを取れるようになりました。
「失敗して、工夫して、また失敗して、また工夫したらうまくいった、というプチ成功体験を繰り返したおかげでのめり込んでいきました」。
現在、佐藤先生によると、バイオロギングは世界中の数百人の研究者によって使われていて、日本にも20人以上の研究者がいます。しかし、まだメジャーな手法であるとは言えません。一つの動物種を何十年も研究している学者達からは「邪道」と見なされることも多いといいます。
哺乳類、カメから鳥類までを一つの研究室で
それでも佐藤先生はバイオロギングにこだわります。2004年、大気海洋研究所の教員として岩手県大槌町の国際沿岸海洋研究センターに着任し、現在は10人の学生、5人のポスドク、二人の教員を柏キャンパスの研究室に抱えます。研究室では哺乳類、海鳥、ウミガメから大型魚に至るまで、ありとあらゆる動物をバイオロギングを使って研究しています。
青木かがり助教(38)はクジラ、イルカ、アザラシを研究しています。青木先生は大学の時、ホエールウオッチングツアーで訪れた小笠原諸島でクジラの巨大な姿に魅せられてクジラを研究する決心をしたと言います。
「クジラがいったん潜ってしまったら何をしているのかは解明されていません。人間が追尾することはできないからです」と青木先生は話します。「バイオロギングができるまではどれぐらい速く泳げるのかもわかってなかったんです。いろんな深さに潜るクジラがいて、時間をかけてそれぞれの生存戦略を身につけたのだろうと思われます。私はそれぞれのクジラがどんな戦略を持っているんだろう、ということに興味を持って研究してきました」。
・・・・・・明日に続く
◆ OCEARCH video: Tagging Mary Lee ◆
・・・https://youtu.be/WdHtlvHIcGE・・・
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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