○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 世界中を飛び回り、恐竜の姿を求める / 小林快次 ○
◇◆ 第3回 急斜面から2トンの化石を運び出すには =2/2= ◇◆
ひっくり返したジャケット。裏側を見ても、その巨大さは変わらない。私たちは黙々と、反対の面に石膏を浸した麻布を掛けていく。1時間もしないうちに、巨大な白い固まりが完成した。
ジャケットを完成させてはみたものの、これをどうやってトラックへ運ぶのか。 ここは急斜面の中腹。トラックが入れそうな下へも上にも、標高差30メートルはある。考えている振りはしたが、何の名案も無い。
「(何か良いアイディアよろしく・・・)」と声に出さず願い、モンゴル人の方をチラチラ見る。しかし、今度ばかりは、モンゴル人もお手上げのようだった。 何せ重量が2トン。ひっくり返すのがやっとだった。
平坦な土地だったらまだしも、目の前にあるのは急斜面だ。斜面の下に車を持ってくればよいとも思ったが、こんな峡谷の底に車を持ってくるのは自殺行為そのものだと言う。 仮に車を斜面の下に持ってくることができたとしても、2トンのジャケットを積んだ車は、そのまま身動きが取れなくなる。
トラックには、長いワイヤーがついたウインチ(巻き上げ機)があった。伸ばしてみると予想以上に長く、もう少しでジャケットに届くことがわかった。 距離にして10メートル。高さの違いが3メートルほどだろうか。けん引ロープをジャケットに巻いてワイヤーにつなげれば、何とか届く!
ウインチで上まで引っ張れば、ジャケットを崖の上まで持っていけそうだ。
2トンのジャケットと格闘
すぐにけん引ロープを巻き、準備をした。 あとは上から引っ張り上げてもらうだけだ。トラックのエンジンを掛け、ウインチでワイヤーを巻く。 間もなくして、ワイヤーもけん引ロープも、ピンと伸びていく。
私たちは固唾をのんで、その様子を眺めていた。 ウインチの力がジャケットにゆっくりと伝わり、ジリっとジャケットがずれたのがわかった。 その途端だった。 けん引ロープがジャケットの重さに耐えきれずに、轟音(ごうおん)を発して切れた。 渓谷中に音が響きわたる。
誰もが声を失った瞬間だった。
これではうまくいかない。 けん引ロープを二重に巻けば何とかなるかもしれないが、二重にすると長さが短くなり、ジャケットまで届かない・・・。
二重にしたけん引ロープをワイヤーにつなぎ、どこまでジャケットを移動すれば届くか考えた。横に5メートル、上に1メートル動かせば、何とか届きそうだ。 大した距離には聞こえないが、何せ相手は2トンのジャケットだ。
ジャケットをひっくり返す要領で、横へと移動させていく。 ここまでは問題ない。 問題は、高さ1メートルの移動だ。
横に移動させたのと同じ要領で、斜面の上に向かってジャケットをひっくり返してみたが、高さはあまり稼げなかった。 ジャケット自身の重みで下にずれ、砂に埋もれてしまうのだ。高低差にしてやっと30センチくらい上がっただろうか。 めげずに再度やってみる。 さらに30センチ上がったような気がする。
クタクタになった私たちは、崖すれすれに停めてあったトラックをもっとギリギリまで近づけられないかと、運転手に頼んでみる。 反応は良くなかったが、何とか了承してくれた。 浮かない顔をした運転手は、数センチ単位で慎重にトラックを前に出す。 しかし1メートルも前に出さないうちに、これが限界とサインを送ってきた。
斜面を駆け足で降り、ジャケットの元へと戻る。 ワイヤーを引っ張り、けん引ロープをジャケットの方へ持っていくと、何とか届いた!
ウインチをゆっくりと巻いていくと、ついにジャケットが動き出した。
ズルッ、ズルッ、と音を立てながら、ジャケットが少しずつ斜面を上っていく。 斜面を滑るというよりも、削っている。 ジャケットの重さが溝の深さからもわかる。私たちは「ゆっくり、ゆっくり」と大声を上げながら、ジャケットを見つめる。これまでの苦労が嘘のようだ。数分もしないうちに、巨大ジャケットは斜面の上に上がっていた。
さて、最後の作業だ。この巨大ジャケットをトラックに積み込まなければいけない。 地面とトラックの荷台の高低差は、1.2メートルほど。みなさんならどのようにして、この巨大ジャケットをトラックの荷台に乗せるだろうか?
私たちが出した答えは、次の通りだ。
深さ1.2メートルほどの大きな穴を2つ掘る。穴の間隔は、トラックのタイヤの間隔。 トラックの後輪を穴に入れる。もう気づいただろうか? ジャケットを上げるのではなく、トラックの荷台の高さを下げればよいのだ。
地面と荷台を渡す板を2枚敷く。 ジープにあるウインチを使い、トラックの荷台の隙間からワイヤーを通す。 ワイヤーをジャケットに引っ掛けてウインチを巻けば、2枚の板の上をジャケットが滑り、荷台へを導かれていく。
自然と拍手が沸いた。
* * *
調査後、巨大ジャケットは韓国の施設へと運ばれ、「クリーニング作業」が進められた。 クリーニング作業とは、骨化石を岩から取り出す作業だ。周りの岩を慎重に削っていく。 この化石を発見した際に期待していたとおり、美しい頭骨が残り、こぶ付きの立派な尻尾も掘り出された。 このヨロイ竜がどんな恐竜だったのか、詳細は現在、研究中だ。
現在、このヨロイ竜は骨格が組み上げられ、韓国南西部にある華城(ファソン)市の市役所で展示されている。 この化石の産地からはティラノサウルスの仲間であるタルボサウルスの歯も見つかっていることから、このヨロイ竜の遺骸はタルボサウルスに食べられた可能性がある。 その様子を再現して、隣にはタルボサウルスの復元骨格を並べている。
華城市では現在、恐竜博物館の建設が計画されていて、完成すればそちらに展示される予定だ。
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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