○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 世界中を飛び回り、恐竜の姿を求める / 小林快次 ○
◇◆ 第3回 急斜面から2トンの化石を運び出すには =1/2= ◇◆
私が掘り当てた皿状のものはヨロイ竜の上顎の「くちばし」の部分で、ユン(調査隊を率いる、韓国地質資源研究院のイ・ユンナム)が見つけた三角錐の部分は、頭の後ろの方にある突起だった。
私たちはハイタッチをし、子どものように飛び跳ね、抱き合った。「こんなことなんてあるの? 尻尾も頭骨も、腰の骨の中にある空間に入っているなんて!」
少し冷静になった私たちは、お互いに疑問を投げかけた。
目の前にあるヨロイ竜の腰の骨は、大きな「かご」のようになっている。 岩を見ると、このヨロイ竜が生きていた当時の川は、頭の方から尻尾の方にかけて流れていたことがわかる。
私たちの見解は次の通りだ。
川辺で死んだヨロイ竜。肉の腐敗は進み、骨が露出していく。手や足の骨は少しずつバラバラになり、下流へと流されていってしまう。 頭や残された骨格は1つの大きな岩石のようにまとまった状態で、次第に川の流れに従い、少しずつ下流へと流される。
しかし、尻尾の先にある「こぶ」が、船のいかりのように川底に引っかかる。腰の骨が水の流れに押されつづけるうちに、引っかかったこぶを軸にして、尻尾が根元で折れる。 さらに水が腰の骨を押しつづけるが、こぶが重りになって、流されずにいる。そこに上流から頭骨が流されてきて、幸運にも、かごのような腰の骨の中に収まる。 そのうち土砂が次々と流れてきて、ヨロイ竜の骨格をゆっくりと埋めていった・・・。
通常、全身骨格の発掘は、多少分散している骨を収集するために、広い面積を発掘するケースが多いが、今回はその逆だった。 運良く、大事な骨がすべて腰の「かご」に収まった状態なのだ。
喜んだのもつかの間、次の問題が出てきた。
「大事な尻尾と頭骨を犠牲にすることはできない。この大きな固まりを二分しようと思ったが、できなくなった。こうなったら、これを1つの固まりのまま、ジャケットにして持っていくしかない」
巨大な化石をひっくり返す
ジャケットとは、化石を取り囲む母岩(ぼがん)から露出した骨化石を、壊さずに運び出すために作るものだ。
母岩の外側から骨に向かって掘り込む。ある程度掘り込んだら、準備完了。 まず、露出した骨にトイレットペーパーを掛ける。 次にかける石膏を後ではがす際に剥離剤として作用し、骨に石膏がくっつかずに済むからだ。
次に、バケツに水を入れ、石膏を溶かす。 帯状に切った麻布を石膏に浸し、母岩ごと骨を覆っていく。骨折したときなどにする、ギプスの要領だ。 石膏に浸した麻布を何重かに巻いたら、石膏が固まるまで待つ。 乾いたらひっくり返して、反対側も同様に麻布で覆う。
こうしてできた、石膏に覆われた固まり全体を「ジャケット」と呼ぶ。
私たちは巨大なジャケットを作り始めた。 かなり大きいため、ジャケットがゆがみにくくなるように、2×4(ツーバイフォ)の板を這わす。 板ごと石膏で覆い、強度を高める。 かなりの石膏を使った。 直径1.5メートルほどの、円盤状の巨大なジャケットの上側が完成した。 推定2トンくらいはあるだろうか・・・。
乾くのを待ちながら、とんでもないジャケットを作ってしまったことを後悔する。 ジャケットを完成させるには、ひっくり返して下半分も石膏で覆わなくてはならない。 しかしここには重機が無い。 あっても入れるような場所ではない。
トラックは化石を発掘した急斜面の50メートルほど上に停めてある。 この崖の中腹までトラックを持ってこられるはずもない。 巨大なジャケットの上半分が乾いたところで、どうやってひっくり返せばいいのだろう。
モンゴル人スタッフの妙案
私たちが英語で話しているそばで、モンゴル人たちがモンゴル語で話し始めた。 先進国出身の私たちは、技術に頼りすぎて、知恵が乏しい。 一方、モンゴルの人たちは、道具が無い状態でも何とかしてしまう、知恵の塊のような人たちだ。
しばらく話し合ったと思ったら、彼らはどこかへ消えてしまった。 そして、10分もしないうちに戻ってきた。 その手には、ジャッキが2個、土のう袋、けん引ロープ、分厚い板が握られていた。
彼らが説明を始める。 計画はこうだ。
発掘の際に出た大量の砂を袋に入れ、土のうをたくさん用意する。 ハンマーでジャケットの下を掘り込み、十分な隙間ができたら、ジャッキを噛ます。 これは、下を掘り込んでも、ジャケットが落ちてきて怪我をしないため。 そして、ジャケットそのものを持ち上げるためだ。
ジャッキで少しずつジャケットを持ち上げ、隙間に土のうを噛ます。 安定させたら分厚い板を土台にし、そこにジャッキを入れ、さらに持ち上げて隙間に土のうを噛ます。 これを繰り返してジャケットを角度45度くらいまで傾けたら、けん引ロープをジャケットに掛けて、垂直になるまでゆっくりと引っ張る。
続いて、垂直に立ったジャケットを倒す方に、土のうを大量に積む。 勢いよく倒すと、ジャケットの中の化石が衝撃で壊れてしまうので、そっと倒さなければならない。 そこで、ジャケットを土のう側に押す人と、けん引ロープで倒す反対側から引く人に分かれ、力を調整しながら作業する。
ジャケットが土のうに届いたら、あと1歩。 ここからは、さっきの逆をやればいい。 ジャッキを噛ませ、土のうを抜く。 ジャッキを降ろし、土のうを抜く、という風にだ。
感心しながら、モンゴル人の指示に従う。 すると、時間はかかったが、不思議なくらいうまく、巨大なジャケットをひっくり返すことができた。 人間っていうのは、こうやって知恵を使い、自然を味方につければ、不可能に思えることも可能にすることができるのだ。
前節へ移行 : http://blog.goo.ne.jp/bothukemon/e/ef8697721372fab305eca15b719c27962
後節へ移行 : http://blog.goo._not-yet////
----------下記の姉妹ブログ 一度 ご訪問下さい--------------
【壺公夢想;如水総覧】 :http://thubokou.wordpress.com
【浪漫孤鴻;時事自講】 :http://plaza.rakuten.co.jp/bogoda5445/
【疑心暗鬼;如水創作】 :http://bogoda.jugem.jp/
下線色違いの文字をクリックにて詳細説明が表示されます=ウィキペディア=に移行
================================================
・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
================================================