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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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現代の探検家《小林快次》 =06=

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○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○ 

○ 世界中を飛び回り、恐竜の姿を求める / 小林快次 ○

◇◆ 第3回 急斜面から2トンの化石を運び出すには =1/2= ◇◆

 私が掘り当てた皿状のものはヨロイ竜の上顎の「くちばし」の部分で、ユン(調査隊を率いる、韓国地質資源研究院のイ・ユンナム)が見つけた三角錐の部分は、頭の後ろの方にある突起だった。
 私たちはハイタッチをし、子どものように飛び跳ね、抱き合った。「こんなことなんてあるの? 尻尾も頭骨も、腰の骨の中にある空間に入っているなんて!」

 

 少し冷静になった私たちは、お互いに疑問を投げかけた。
 目の前にあるヨロイ竜の腰の骨は、大きな「かご」のようになっている。 岩を見ると、このヨロイ竜が生きていた当時の川は、頭の方から尻尾の方にかけて流れていたことがわかる。

 私たちの見解は次の通りだ。

 川辺で死んだヨロイ竜。肉の腐敗は進み、骨が露出していく。手や足の骨は少しずつバラバラになり、下流へと流されていってしまう。 頭や残された骨格は1つの大きな岩石のようにまとまった状態で、次第に川の流れに従い、少しずつ下流へと流される。

 しかし、尻尾の先にある「こぶ」が、船のいかりのように川底に引っかかる。腰の骨が水の流れに押されつづけるうちに、引っかかったこぶを軸にして、尻尾が根元で折れる。 さらに水が腰の骨を押しつづけるが、こぶが重りになって、流されずにいる。そこに上流から頭骨が流されてきて、幸運にも、かごのような腰の骨の中に収まる。 そのうち土砂が次々と流れてきて、ヨロイ竜の骨格をゆっくりと埋めていった・・・。

 通常、全身骨格の発掘は、多少分散している骨を収集するために、広い面積を発掘するケースが多いが、今回はその逆だった。 運良く、大事な骨がすべて腰の「かご」に収まった状態なのだ。

 喜んだのもつかの間、次の問題が出てきた。

 「大事な尻尾と頭骨を犠牲にすることはできない。この大きな固まりを二分しようと思ったが、できなくなった。こうなったら、これを1つの固まりのまま、ジャケットにして持っていくしかない」

巨大な化石をひっくり返す

 ジャケットとは、化石を取り囲む母岩(ぼがん)から露出した骨化石を、壊さずに運び出すために作るものだ。
 母岩の外側から骨に向かって掘り込む。ある程度掘り込んだら、準備完了。 まず、露出した骨にトイレットペーパーを掛ける。 次にかける石膏を後ではがす際に剥離剤として作用し、骨に石膏がくっつかずに済むからだ。

 次に、バケツに水を入れ、石膏を溶かす。 帯状に切った麻布を石膏に浸し、母岩ごと骨を覆っていく。骨折したときなどにする、ギプスの要領だ。 石膏に浸した麻布を何重かに巻いたら、石膏が固まるまで待つ。 乾いたらひっくり返して、反対側も同様に麻布で覆う。

 こうしてできた、石膏に覆われた固まり全体を「ジャケット」と呼ぶ。

 私たちは巨大なジャケットを作り始めた。 かなり大きいため、ジャケットがゆがみにくくなるように、2×4(ツーバイフォ)の板を這わす。 板ごと石膏で覆い、強度を高める。 かなりの石膏を使った。 直径1.5メートルほどの、円盤状の巨大なジャケットの上側が完成した。 推定2トンくらいはあるだろうか・・・。

 乾くのを待ちながら、とんでもないジャケットを作ってしまったことを後悔する。 ジャケットを完成させるには、ひっくり返して下半分も石膏で覆わなくてはならない。 しかしここには重機が無い。 あっても入れるような場所ではない。

 トラックは化石を発掘した急斜面の50メートルほど上に停めてある。 この崖の中腹までトラックを持ってこられるはずもない。 巨大なジャケットの上半分が乾いたところで、どうやってひっくり返せばいいのだろう。

モンゴル人スタッフの妙案

 私たちが英語で話しているそばで、モンゴル人たちがモンゴル語で話し始めた。 先進国出身の私たちは、技術に頼りすぎて、知恵が乏しい。 一方、モンゴルの人たちは、道具が無い状態でも何とかしてしまう、知恵の塊のような人たちだ。

 しばらく話し合ったと思ったら、彼らはどこかへ消えてしまった。 そして、10分もしないうちに戻ってきた。 その手には、ジャッキが2個、土のう袋、けん引ロープ、分厚い板が握られていた。

 彼らが説明を始める。 計画はこうだ。

 発掘の際に出た大量の砂を袋に入れ、土のうをたくさん用意する。 ハンマーでジャケットの下を掘り込み、十分な隙間ができたら、ジャッキを噛ます。 これは、下を掘り込んでも、ジャケットが落ちてきて怪我をしないため。 そして、ジャケットそのものを持ち上げるためだ。

 ジャッキで少しずつジャケットを持ち上げ、隙間に土のうを噛ます。 安定させたら分厚い板を土台にし、そこにジャッキを入れ、さらに持ち上げて隙間に土のうを噛ます。 これを繰り返してジャケットを角度45度くらいまで傾けたら、けん引ロープをジャケットに掛けて、垂直になるまでゆっくりと引っ張る。

 続いて、垂直に立ったジャケットを倒す方に、土のうを大量に積む。 勢いよく倒すと、ジャケットの中の化石が衝撃で壊れてしまうので、そっと倒さなければならない。 そこで、ジャケットを土のう側に押す人と、けん引ロープで倒す反対側から引く人に分かれ、力を調整しながら作業する。

 ジャケットが土のうに届いたら、あと1歩。 ここからは、さっきの逆をやればいい。 ジャッキを噛ませ、土のうを抜く。 ジャッキを降ろし、土のうを抜く、という風にだ。

 感心しながら、モンゴル人の指示に従う。 すると、時間はかかったが、不思議なくらいうまく、巨大なジャケットをひっくり返すことができた。 人間っていうのは、こうやって知恵を使い、自然を味方につければ、不可能に思えることも可能にすることができるのだ。

 

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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