○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 世界中を飛び回り、恐竜の姿を求める / 小林快次 ○
◇◆ 第一回 恐竜化石は”歩いて探す” =2/2= ◇◆
私はこの時、なぜ見つかるのは遊離した歯や骨だけなのかと、自分に問い続けていた。 一緒に参加している研究者の動きを思い返してみると、みんなは歩きやすい平坦な砂岩の上をひたすら探していた。
ここにある砂岩の層は、平坦で確かに歩きやすい。 断片的なものではあるが、たくさんの歯や骨の化石も見つかる。 2メートルごとくらいに、キレイな肉食恐竜の歯や指の骨が落ちている。 これは歩いていて楽しい。 しかし、これではいつまで経っても、全身骨格は見つからない。
そこで、目の前の露頭(※)をよく見ると、平たい砂岩層の上に高さ10メートルくらいの泥岩層からなる急な斜面があり、人が歩いた形跡がほとんどない。 斜面が急で、足場が悪いからだ。
泥岩の地層は、砂岩の地層と違い、水の流れが遅い所で積もったものだ。 みんなが探している砂岩は、比較的水の流れが速いところで堆積した砂からできている。 そこに残る恐竜化石は水に流されてきているため、どうしても断片的になりがちだ。
一方、泥岩の地層は水の流れが遅いところで堆積した泥からできていて、もし恐竜の死骸があれば、1体分丸ごと残っている可能性がある。恐竜の全身骨格を探すなら、ここを探す価値はあるだろう。確率はかなり低くなるが、見つかれば全身骨格の可能性がある。
そこで私は、この泥岩の急な斜面を歩いてみることにした。
この斜面は、泥岩が風化してできたもの。細かく壊れた泥岩は、砂場を歩いているようで、歩くと足を取られてしまう。しかも急な斜面なので、3歩上がっても、2歩分くらい下がってしまう。 歩いているとすぐに足ががくがくし始めた。
さらに最悪なことに、化石の出る雰囲気がない。 みんなが探している砂岩とは大違いだ。
怪しい「白い砂」
午前中は何とか頑張って、この斜面を歩き続けた。 さすがの「ウォークマン」も足腰が疲れてきた。 ハンマーで斜面をお尻の形に掘り、重力に従い、そこに腰を下ろした。 少し潰れたサンドイッチと温かい缶ビールをバックパックから取り出した。
目の前の美しい渓谷を見ながらランチを食べ始めたところで、私は後悔した。 キャンプまではまだ遠い。 ここで足腰を使ってしまうと、帰る体力が無くなってしまうかもしれない。 持ってきた水の消費も思ったより早く、このままではキャンプまで持たないかもしれないと不安がよぎる。
GPSユニットを見ると、キャンプまでまだ15キロ以上ある。 ずいぶん歩いたと思ったが、まだ7キロほどしか歩いていない。 それもそのはず、7キロは直線距離で、斜面を上がったり降りたりし、砂丘の中も歩いたりしたから、思った以上に疲れているのだ。 水を3リットル持ってきたが、半分は残すことを決め、立ち上がった。
取り敢えず、水があれば大丈夫。残り15キロと言っても、キャンプに近づけば慣れた道だから、それまでの辛抱だ、と自分に言い聞かせる。 ランチをとり終え、バックパックを肩に担ぐ。お昼の分が無くなっているから軽くなっているはずなのに、なぜかさっきよりも重く感じる。
これまでの泥岩の地層よりも少し下に下がって、斜面を歩いた。 同じような急な斜面だが、さらさらとした黄色っぽい砂が広がっている。 ずっと泥岩の風化したところを歩いていたと思っていたが、ここは砂岩の地層だ。 でも、みんなが遊離した歯や骨を見つけている砂岩層よりも、砂の粒が細かい。
よく見ると、その黄色い砂の中に、今まで見たことのないものがある。 白い砂だ。
少しずつその白い砂に目を近づけていくと、砂ではなく、風化して細かくなった骨のようだった。 手のひらに載せ、ルーペで見てみる。 間違いなく骨だ! この時は1人でうなった。 なぜこんなところに骨があるんだろう。
取り敢えず掘ってみようと、ハンマーとピック、ブラシをバックパックから取り出す。 砂と化した骨の周りをブラシで掃いてみると、さらに砂状の骨が出てくる。 そして次第に骨の粒の大きさが大きくなり、やがて骨の固まりが出てきた。 しかもその骨はどんどん大きくなっていく。 周りの石は軟らかく、簡単に掘り込むことができた。
1時間ほど掘り続けると、形があらわになっていく。 長細く、大きく湾曲している。掘り出した部分だけでも、長さ70センチ、幅5センチを超える。 それが恐竜の肋骨であることは簡単にわかった。
時計を見ると、午後2時を回っていた。 もうキャンプに戻らないとまずい。 取り敢えずこの場所をGPSユニットに登録して、更なる発掘は明日にしようと心に決めた。
埋め戻す前にもう1度、大きな肋骨を見つめる。 これまでの遊離した歯や骨とは様子が違う。 より流れが遅いところで保存された肋骨。 続きがあるかもしれないと、淡い期待が湧いてくる。 長居もできないので、さっさと道具をバックパックにしまい、肩に担ぐ。 同じバックパックが、さっきよりも軽く感じた。
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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