〇◎ “命のことを知らずして、命の大切さは理解できない” ◎〇
= 探検的調査を実践する “探検昆虫学者” 西田賢司 =
【この企画はWebナショジオ_“「コスタリカ 昆虫中心生活」” に追記・補講し、転載した】
☠ 中米コスタリカで新種の昆虫を見つけまくる男! 「バックマン」 ☠
曰く 『昆虫は、僕たちに自然の変化を教えてくれる一番身近な存在です』
◇◆ =097= ツノゼミの立派なツノが出てくる瞬間 ◆◇
前回は、ツノに4つのコブがあるヨツコブツノゼミの成虫を紹介した。ただし、その立派なツノは、生まれたときからあるわけではない。羽化して成虫になって初めて『タケコプター』を頭に載せたような姿になる。では幼虫はどんな姿をしているのだろうか?
今回は、ヨツコブツノゼミが幼虫から成虫になるまで、そしてツノが出てくる瞬間を、写真や動画で紹介する。さらに、どうしてツノがあんなかたちをしているのか、「昆虫探偵ニシダ」の考察を綴ってみよう。
生まれてすぐは平べったい
まずは、生まれてそれほどたっていないだろうヨツコブツノゼミの若齢幼虫。体長は1~2ミリほどで、体が比較的平らなことに気づく。
その後、数回の脱皮を繰り返し、3~4ミリほどの亜終齢から終齢幼虫になると、体の中でツノの準備をしているのだろう、頭の上が盛り上がって三角形、もしくは「少しおにぎり形」になってくる。幼虫たちの居場所は、成虫と同じく葉の裏側。ただし成虫が太い葉脈のあちこちにいるのに対して、幼虫は葉の付け根の脈と脈の隙間にいることが多い。
幼虫の殻が割れてツノがニョキニョキ
終齢幼虫が脱皮すれば、いよいよあのツノをもつ成虫のお出ましとなる。羽化の瞬間を観察・撮影するため、幼虫たちを採集してきて飼育することにした。毎日のように幼虫たちの様子をうかがう。「元気にしているか~? 植物(餌の状態)は大丈夫か?」
ヨツコブツノゼミは、夜中から早朝にかけて羽化することが多い。寝る間も惜しんで幼虫たちと向き合っていたある夜、その瞬間は訪れた。午前2時過ぎのことだ。
幼虫が、垂れ下がった葉の中央辺りへと移動し、じっとしていたかと思うと、モゾモゾと体全体を波打たせるように動かし始めた。続けて観察していると、頭の上の膨らんだ部分がさらに膨らみ、幼虫の殻が割れてツノがニョキニョキと出てきた・・・ 羽化の様子を真横から見るとこんな感じだ。
この後、幼虫は脚を伸ばして自分の抜け殻につかまり、ツノを膨らませ、翅を伸ばしていく。色はしばらくの間、透明のきらきらシルバーだったが、だんだんと黒っぽくなっていき、体も硬くなっていった。
ツノのかたちの意味を考えてみた
ところでヨツコブツノゼミはどうしてこんなツノをしているのだろう?
一般にツノゼミのツノには、いくつかの役割があると考えられている。ひとつは体を保護する鎧(よろい)のような働き、もうひとつはコミュニケーションを取るために鳴き声(振動音)を増幅する働き、そして植物の一部や他の生きものに擬態するモノマネの働きがありそうだということだ。
ほかにもヨツコブツノゼミならではの役割があるのだろうか。昆虫探偵ニシダがじっくり観察し、推理してみた。 まず、思いついたのがアリと「会話」するためではないかということ。
ヨツコブツノゼミの居場所をアリが訪れているのをたま~に見かける。アリが成虫のツノと向き合ったり、触れたりしているのだ。これを見て最初、アンテナのようなツノでアリとのコミュニケーションを図っているのかも?と推測した。アリも振動音を出してコミュニケーションを取ることが知られているからだ。
しかし、ヨツコブツノゼミは常にアリと一緒にいるというわけではない。観察していると、ヨツコブツノゼミとアリとの関係は、他のツノゼミの種とアリたちとの関係ほど密接でない感じだ。 葉の裏にいるヨツコブツノゼミをさらにジ~ッと眺めていると、今度は別の考えが浮かんできた。上に突き出したツノがなんとなくアリに似ているというか、そんな雰囲気をかもしだしているかもと思い始めたのだ。
緑の葉の裏にいるヨツコブツノゼミは、黒い影に見える。そのシルエットを見ているうち、ボディー部分とツノ部分がそれぞれ独立しているように感じはじめ、さらには小さな黒い昆虫(ボディー部分)にアリ(ツノ部分)が覆いかぶさっているか、たかっているかのようにも見えてきたのである。言わば、『タケコプター』のように飛びだしたツノの部分がアリで、ボディー部分が小さな黒っぽい昆虫というわけだ。
ツノゼミの天敵、例えば鳥や捕食性の昆虫たちの多くは、アリやハチの「不快な味や攻撃性」を嫌がり避ける傾向がある。薄暗い森の中、葉の裏にいる小さな昆虫にアリが訪れているように見えるとなれば、天敵に襲われにくくなる。すなわち、アリがやって来ていなくても、やって来ているように見せかけられるということだ。しかもこのツノゼミが何匹か同じ葉にいれば、アリがたかっている効果が強調されるだろう。
ツノの部分だけを観察すると、それほどアリには似ていないかもしれない。でも、アリはよく動き、体勢も色々と変える。このツノゼミと直接関係のないアリだって周辺でウロウロしている。なので、ツノは「ある程度」アリに似てさえいれば、ツノゼミは捕食されにくくなるとぼくは考えるのだ。
この仮説に対する実験や観察は行っていないので、科学的に証明できたわけではない。でも、こうした「気づき」をきっかけに、ツノゼミの不思議なかたちの研究が進んでいくといいと思う。ほんの数ミリの小さな昆虫たちだが、そこにはまだまだ知られていない大きな世界が広がっているのだから。
Ӂ 雨季を告げる雨、森は黄金色に染まった Ӂ
みなさま、ご無沙汰しております。新年度が始まり、テレビ取材や蝶の調査などでバタバタバタフライ状態でしたが、おかげさまでコスタリカ昆虫中心生活の連載は7年目を迎えることができました。今年度もどうぞヨロシクお願いいたします! 今回は、雨季を告げる雨とともに出会った昆虫たちと、その日の印象的な色の光景をご覧ください。
4月19日、スコールのような強い雨が、今年初めてドーッと降った。乾いて土ぼこりが舞っていた地面は一気に潤い、森の新緑がこちらに迫って来るような「勢い」に満ちる。それと同時に、名も知れぬ小さな昆虫たちがいっせいに飛び交い始めた。たくさんの昆虫たちを目にすると心が弾む。
雨季の始まりは、風の強い乾季と打って変わって、風のないムッとした空気が漂ってくる。コスタリカの4月は年中で一番気温が高いのである。数日前の夜、太平洋側で入道雲が現れ、イナズマが走っていたので、雨季が近づいているのだろうと思っていた矢先の強烈な雨だった。
2時間ほどすると雨はやみ、日が差し込んだ。雨粒に飾られた宝石のようなキラキラ昆虫たちが目に付く。しっとり軟らかくなった朽木からは、甲虫たちが目覚めてくる。雨と気温の上昇が、植物の成長と腐敗を活性化させ、それらを求める昆虫たちを活発にさせる。
その日の夕方、6時ごろだったろうか・・・夕食の支度を始めたぼくは、外の雰囲気がおかしいことに気が付いた。いつもより黄色っぽく、明るいのだ。ぼくはさっそくカメラをもって、本棟の2階のバルコニーへと走った。 森が黄金色に染まっていた! 連載第25回で紹介した「モンテベルデの恋しい色」とはまた一味も二味も違う色。雨季と乾季の狭間がもたらしたであろう、これまでに感じたことのない色がそこにあった。
森と空の色は、時間とともに次々と展開していった(上の写真)。ぼくは、ぼーっと無心になり、呼吸をするのを忘れるぐらいの状態になった。 いつもとは違う不思議な色の空間は、あまりにも印象的だったので、真っ暗になった夜中も、ぼくは、色に酔いしれていた。 初雨の夜なら、昆虫たちも騒がしく活動しているにちがいない。懐中電灯を持って家の周りを1周してみることにした。
リリリリリリ~ン、チチッチチッなど、キンヒバリやキリギリスなどの鳴く虫たちの歌声や合唱が、雨が降る前に比べていっそう力強く響いて来る。木製の家の壁をたくさんのザトウムシやハサミムシがウロウロしている。 お! 茂みから飛び出した1本の植物の葉の裏、目線の高さに、羽化し終えたばかりのツノゼミがいた! 黄緑色に赤い線が入っている。新緑の季節らしく、若葉っぽい装いだ。
さっそく採集して写真を撮り、ツノゼミの専門家でSmilinae亜科に詳しいマケイミー博士(Dr. S. Mckamey)とウォレス博士(Dr. M. Wallace)にメールで送ってみた。すると返事では、どの属のものなのかハッキリしない「なぞ」のツノゼミだという。ぼくが研究用に羽化殻も保存しておいたことを博士らは喜んでおられた。2017年度の「昆虫ミステリー」のひとつになった。解決されるのが楽しみだ。
今年度は、モンテベルデバイオロジカルステーションを拠点に、コスタリカの自然からどんなことを受信し、発信できるのだろうか?
・・・・・つづく
_ おもろい姿のツノゼミたち _
・・・・・・ https://youtu.be/p0I2966Ioek ・・・・・・
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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