〇◎ “命のことを知らずして、命の大切さは理解できない” ◎〇
= 探検的調査を実践する “探検昆虫学者” 西田賢司 =
【この企画はWebナショジオ_“「コスタリカ 昆虫中心生活」” に追記・補講し、転載した】
☠ 中米コスタリカで新種の昆虫を見つけまくる男! 「バックマン」 ☠
曰く 『昆虫は、僕たちに自然の変化を教えてくれる一番身近な存在です』
◇◆ =096= 生きたツノゼミを食い破ってハチが出てきた! ◆◇
研究のため、ぼくは以前より頻繁にツノゼミの幼虫を飼育している。今回は、そんななか起きたある驚愕の事件を紹介しよう。 2016年12月21日、バラノトゲツノゼミの1種ウンボニア・アタリバ(Umbonia ataliba)の幼虫を採集し、飼育を始めて5日目のことだ。羽化して成虫になる様子を撮影しようと、部屋(寝室兼ラボ)で簡易撮影スタジオを組み、幼虫たちの観察を始めた。こんな感じだ。
ツノゼミの幼虫たちがいる枝をビンに挿し、羽化しそうな幼虫にカメラを向ける。羽化する手前の幼虫(終齢幼虫)もいれば、さらにその手前の幼虫(亜終齢幼虫)もいて、周りでウロウロしていたりじっとしていたり。 撮影を始めてしばらくすると、小さな異変が起きた。茶色い小さなハチの仲間が枝の上をシャシャシャ、スルスルスル~と歩き回り始めたのだ。
ん~、部屋の中にいたものが照明に引き寄せられやって来たのだろうと思っていると、そのハチは1匹、もう1匹とどんどん増えていく。よく見ると、それはトビコバチという寄生バチの仲間のようだ。 いきなり現れた何匹もの寄生バチ・・・単に明かりに集まってきたのではなさそうだ。このハチが寄生していた昆虫の死骸がどこかにあるかもしれないと、枝葉のあちこちを確認してみる。しかし、死骸どころか、枝にもそれらしき穴は見当たらない。
ツノゼミの幼虫に寄生するトビコバチがいることは知っているが、ここにいる幼虫たちはみんな元気に枝の上を歩いていたり、かたまっていたりと、寄生バチにやられて死んでいる(ミイラのようになっている)ものは1匹もいない。 そんなことを考えている間にも、また1匹、2匹とハチが枝の上を歩き始めた。どこからわいてくるのか? まさか生きているツノゼミの幼虫から?
昆虫を飼育していると、生きた幼虫から寄生バチの幼虫が出てくることや、死んだ幼虫から寄生バチの成虫が出てくることは、「ごくふつう」にある。でも、生きた幼虫から寄生バチの成虫が出てくることはこれまでなかったし、聞いたこともない。しかも、寄生バチが出てきてからも、寄生されていた幼虫は「元気よく」生きているのだ。
これは摩訶不思議!ということで、ツノゼミの羽化の撮影を終わらせ、「昆虫探偵ニシダ」は、この寄生バチの謎を探ってみることにした。 ツノゼミの幼虫たちが集まった枝を、終齢幼虫や亜終齢幼虫などそれぞれの塊(集まり)ごとに切り分け、透明のプラスチック容器に別々に入れていく。隔離作戦だ。
そして数十分後、容器に目をやると、ある容器の中にせわしなく動く寄生バチが出現していた! 亜終齢幼虫たちが入った容器だ! これはもう、ツノゼミの幼虫から出てきたとしか考えられない。でも幼虫たちは元気そうにしていて、見た目も全く変化がない。
こうなったら詳細に調べるしかない。幼虫を1匹ずつ枝から外し、実体顕微鏡で見てみることにした。すると、1匹目の幼虫のお腹(腹部の腹側)に筋のような穴が開いているではないか! これは寄生バチが食い破って出てきた穴に違いない。すべて確認すると、17匹中15匹に同様の穴があった。2匹には穴はなく、中央の黒く細長い部分が膨らんでいる。ハチのサナギが入っていそうだ!
ハチの成虫が今すぐ出てきてもおかしくない。急いでツノゼミの幼虫をひっくり返して撮影を開始! すると5分もしないうちに腹部の腹側がモゾモゾと動きだし、ハチのアゴらしきものが見え始めた。羽化しようとする寄生バチが幼虫のお腹を切り裂き始めたのだ。
切り進むスピードはさほど速くない・・・約40分後、ハチの頭のほぼ全体が見えたかと思うと、スルーっと滑るように寄生バチがツノゼミの幼虫から飛び出し、あっという間にそこから離れていった。 寄生バチが出ていった後の幼虫の腹部には、ぽっかりと大きな穴が開いていた。元気ではないと思うのだが、案外「元気に」している。
撮影後、仲間の元へと戻したが、以前と変わりない様子。他の幼虫たちも採集したときのように枝の上で集まって、あまり動かずにいた。しかし、2日、3日、4日と経つにつれ、ポトポトと少しずつ枝から落ちて息絶えていった。寄生バチが出てきた幼虫はそれ以上成長することはなかった。
生きた幼虫に寄生し、生きた幼虫の中でサナギになり、成虫となって生きた幼虫から出てくる寄生バチ。寄生バチが出ていった後も、しばらく生きているツノゼミの幼虫・・・。こんなことがあるのか?とトビコバチの世界的権威、大英自然史博物館のジョン・ノイズ博士(Dr. John Noyes)にメールで尋ねてみた。
すると、あるトビコバチのグループでこういった記録があること、でも今回の観察記録をどこかで発表する価値は十分あるとの返事をいただいた。さらに、生きた幼虫内のトビコバチのサナギは、幼虫の気管系と接合して呼吸をするといった情報も教えてくれた。スゴく興味深いので、寄生されていそうな「怪しい」ツノゼミの幼虫たちを今度見つけたら解剖してみようと思う。
Ӂ 『タケコプター』を付けた不思議なツノゼミ Ӂ
一体全体、何のかたちをしているのだろう・・・? ジメジメ、ムシムシな熱帯雨林の薄暗~いジャングルの中にひっそりと暮らす不思議な風貌のツノゼミ。その小さな姿かたちをとくとご覧あれ~ということで、今回紹介するのは、ヨツコブツノゼミ(Bocydium属)の1種。まだ名前が付いていない未記載種だ。現在ヨツコブツノゼミ専門の研究者と共に新種発表に向けてデータをまとめたりしているところなのだが、先駆けてみなさんに生きざまの一部を見てもらいたい!
ヨツコブツノゼミの仲間は、中米南部から南米にかけて広く生息していて、コスタリカでは、降雨量の多い熱帯雨林の薄暗い森の中で見かける。 今回のヨツコブツノゼミが見つかるのはたいてい葉の裏側で、緑の葉に浮かび上がる黒い影絵のよう。た~まに葉の表側を歩いているのを見かけるが、裏側の太い葉脈上にいることが多い。
このツノゼミを正面からみると、ツノが『タケコプター』かアンテナのように頭の上にのっかっているように見える。見た目のインパクトが強いので、見たい、撮影したいという人は多いが、実際に見てもらってみんなが驚くのはその大きさ。体長4ミリ程度と、「予想以上に小さい!」のである(ぼくは、もっと小さなツノゼミたちを見てきているので、それほど小さいとは思わない)。
奇妙で不思議なかたちをしたツノには、名前の通り4つのコブ(膨らんだ部分)がある。このツノのかたちは何なのか? 以前から問われているこの疑問・・・ 現在もなお、謎のままだ。 これまでにも紹介してきたが、一般にツノゼミのツノにはモノマネ(擬態)や体を保護するヘルメットのような役割以外に、鳴く音(振動音)を増幅させて出来るだけ効果的に周りの仲間に伝えるという大切な役割があると考えられる(第127回、第131回)。例えばオスがメスを探したり、求愛するときに鳴く。
セミのオスと同様、ツノゼミにはオスメス共に、腹部から胸部にかけて音を出すための筋肉と膜がある。鳴いているときは、たいてい腹部(とツノ)を小刻みに動かしている。次の動画をご覧いただくとその様子がうかがえる。 ツノゼミの求愛と言えば、鳴き声での求愛が知られているのだが、あるとき想定外の場面を目撃することになった。なんとオスがメスの真横で翅を広げたり閉じたりしているではないか! しかもよく見ると、オスの方がわずかながらカラフルだ(次の写真)。
オスはメスの隣で翅を瞬時に広げ、自分の「美しさ」を披露し、メスに何かを語りかけているようだった。「ヨツコさん、君にゾッコンだよ~」しばらくすると翅を閉じてメスの反応をうかがい、また翅を広げ次の口説き文句を投げ掛けているようだった。「ぼくっておしゃれじゃな~い?」 交尾の前に鳴き声(振動音)以外で求愛するツノゼミって見たことも聞いたこともなかったので、この行動を目撃した瞬間からドキドキ・・・撮影中は、唾(つばき)を何回ものみ込んでいた。ゴクリ!
観察や撮影が終わるころ、熱帯雨林ならではの大粒雨の午後のスコールが降り始めた。 すると、ヨツコブツノゼミたちは中央の葉脈で整列をし始めた。葉に当たる雨の勢いの影響を一番受けにくい場所なのだろう。 次回は、このヨツコブツノゼミの生態の続きです。幼虫たちや羽化の様子、さらには「昆虫探偵ニシダ」の考察を交え、この奇妙で不思議なツノの謎の真相に少しでも迫りたいと思います。
・・・・・つづく
_ Manuel Antonio Costa Rica _
・・・・・・ https://youtu.be/zBrDVQ0WNjg ・・・・・・
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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