〇◎ “命のことを知らずして、命の大切さは理解できない” ◎〇
= 探検的調査を実践する “探検昆虫学者” 西田賢司 =
【この企画はWebナショジオ_“「コスタリカ 昆虫中心生活」” に追記・補講し、転載した】
☠ 中米コスタリカで新種の昆虫を見つけまくる男! 「バックマン」 ☠
曰く 『昆虫は、僕たちに自然の変化を教えてくれる一番身近な存在です』
◇◆ =092= ピソちゃんが屋根の上で暮らし始めた ◆◇
日本からモンテベルデの家に戻ってきて、ひとつ大きく変わったことがある。この原稿を書いている寝室兼オフィスの天井から、頻繁に物音がするようになったのだ。 ガサゴソ、ドドドドドドド、ザザッ、ドスドス、ドスン! 留守中に大きなワトソンキノボリネズミ(第60回で紹介)たちが増えて、屋根裏を暴れ走り回っているのだろうと思っていたら、違っていた。
先日のお昼過ぎ、あまりにも大きな音が頭上で響くので、カメラを片手に外へ出た。シャワールームの横に立て掛けてあるハシゴを、静かに、でも急ぎ足で登る。ちなみにこのハシゴは、屋根の上で木々の枝葉などにいる昆虫たちを研究するためのもので、いつもここに立てかけてある。
ハシゴの上のほうからそ~っと体を伸ばして屋根の上を覗いてみると、そこには1頭のぽっちゃりとしたオスのピソちゃん(ハナジロハナグマ)がいた! 隣のラボの建物の突き出た屋根(軒)とぼくの住む部屋の屋根の隙間から、身構えるようにこちらを見つめている。
ピソちゃんがいる位置は、ぼくがパソコンの前に座って作業する場所のちょうど真上! 先日から頭の上で響いていた物音は、ピソちゃんだったのだろう。よく見ると、ピソちゃんのいる周りには落ち葉が楕円形に「敷き詰められている」・・・なるほど、寝床に使っているのか!
ぼくがハシゴを登りきって屋根へ降りると、ピソちゃんは慌てたように屋根の端へ行ってしゃがみこみ、大便をボトボトと落とし始めた。そして用を足し終えるや否や、ラボの広い屋根の方(次の写真右方向)へ、スタタタタタ!と駆けていった。身軽にしてからの移動か?
ぼくは急いでハシゴを降り、ピソちゃんが向かったラボの正面の方へと走った。すると、ちょうどピソちゃんは屋根から土手へとジャ~ンプ! そのままスタスタとどこかへ駆け去っていった。 ピソちゃんがジャンプした場所は、屋根と土手との距離が短くなっている。どうやらここを通路にしているらしい。
でも、よく考えてみると、屋根の上へはどうやって登るのだろうか? 屋根から土手へ飛び下りるのはわかるけど、比較的大きなピソちゃんが同じ場所から飛び上がるのはちょっと考えにくい。 まさかハシゴ? もしかしてもしかすると・・・怪しいので確認のためにシャワールーム横のハシゴの近くに定点センサーカメラを設置してみることにした。
翌朝、雨が降り始めてしばらくしたころ、また頭上から物音が聞こえてきた。ピソちゃんが戻ってきたのかもしれない。 ぼくはピソちゃんの寝床が見える土手から様子を伺ってみることにした。土手を登り、倒木の上を歩いてピソちゃんの寝床に目を向けると、いた!(上の写真) 雨宿りをしたり、寝床にしたり、このピソちゃんはどうやらこの屋根を自分の「住まい」にしているようだ。
その日の夜7時ごろ、今度はキュキュキュキュッ!!と喧嘩をしているような物凄い鳴き声とドタバタ音が頭上から聞こえてきた。いったい何が起こったのか? 外へ出て屋根を見上げると、ハシゴ辺りでウロウロとする少し小さくて、痩せた1匹のオスのピソちゃんがいた。慌てている様子だ。
この様子だと、あまり近づくと引っかかれたりされるかもしれないので、土手から屋根の上の様子を見ることにした。 屋根の上の「ねぐら」には、予想通り、住人であるぽっちゃりとしたピソちゃんがいた。もう1匹の痩せたピソちゃんは、仲間のニオイでも嗅ぎつけたのか、そこへとやって来て、寝床の取り合いになったのかもしれない。
痩せたピソちゃんは、その後すぐに屋根の上から森の土手の茂みの中へジャンプして、暗闇の中へと消えて行った。 翌日、仕掛けていた定点センサーカメラの動画データを確認してみると、ピソちゃんがハシゴを登っているではないか!! これには、思わず笑ってしまった。 今度はハシゴに定点センサーカメラを設置してみよう! オモシロ映像が撮れたら「今週のピソちゃん」のコーナーで紹介できたらと思う。
Ӂ 細長いツノゼミ、ポリグリプタ Ӂ
前回紹介した金平糖のようなアンティアンセツノゼミに次いで、最近モンテベルデでよく目にしているツノゼミを紹介しよう。ポリグリプタ属のツノゼミだ。 また、ポリグリプタの形態や生態について修士論文を手がけた後輩が、ちょうどモンテベルデにやって来たので、鳴き声のファイルを借りました。どうぞお聴きください。
ポリグリプタ属のツノゼミは中米から南米にかけて分布している。大きさはだいたい10ミリほどで、特徴は筋が入って前後が尖っている細長いツノだ。これまでに確認されている種のほとんどは黒いツノに黄色っぽい模様が入ったものだが、なかには青やエメラルドグリーンの模様をもつ種も見つかっている。ポリグリプタ属の分類は進んでおらず、専門家はまだまだ新種がたくさんいると言う。
ぼくはこれまでにコスタリカで約10種のポリグリプタを確認していて、その全てがキク科の木々の葉の裏側を「住処」にしている。メスが卵を抱いていたり、たくさんの幼虫たちや、なりたての成虫が群れていたりする。ただし、アンティアンセツノゼミのようにアリたちがツノゼミの排泄する甘露にやって来ているのは、ポリグリプタでは見たことがない。
さて、上の写真で紹介したポリグリプタの種が、首都サン・ホセ近郊にあるコスタリカ大学のキャンパス内の別のキク科の植物に住んでいる。この種を観察していて一つ興味深いことを見つけた。(鳴き声はこちら→コスタリカ大学キャンパスに住むポリグリプタのオスの鳴き声(Copyright 2016, by Emilia Triana))
それは幼虫の擬態についてだ。この種が住むキク科の葉は比較的大きくて薄く、よくマダラテントウムシ(草食性)の仲間にスケスケになる感じにかじり食べられている。このポリグリプタの幼虫たちは、なんとその食べ痕に紛れ込むように住んでいるのだ。幼虫の色と模様は、食べ痕そっくり! ほかの虫がかじった後の葉が好みなのだろう。
これまで12年近く撮りためてきたポリグリプタ属のツノゼミの写真の一部をご覧ください。
・・・・・つづく
_ Corcovado Costa Rica _
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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