〇◎ “命のことを知らずして、命の大切さは理解できない” ◎〇
= 探検的調査を実践する “探検昆虫学者” 西田賢司 =
【この企画はWebナショジオ_“「コスタリカ 昆虫中心生活」” に追記・補講し、転載した】
☠ 中米コスタリカで新種の昆虫を見つけまくる男! 「バックマン」 ☠
曰く 『昆虫は、僕たちに自然の変化を教えてくれる一番身近な存在です』
◇◆ =090= ワニおじさんの衝撃パフォーマンス ◆◇
コスタリカの太平洋側の低地にあるタルコレス川は、野鳥やアメリカワニが見られる名所になっている。そんな生きものたちを見学できるボートツアーが人気で、今から5年前、2011年9月に参加したことがある。
ぼくたちを乗せたボートは、川をさかのぼって行く。あちこちに出没する水辺の鳥たちを観察していると、あるときボートが砂地になった岸に近づいていき、案内人のおじさんがなぜか岸へ飛び降りた。右手に鶏肉を持ち、下流の方を眺めている・・・何をやっているのか?
おじさんの視線の先を見ると・・・何かがこちらに向かってくる。 ワニだ! 大きい。 ワニは岸に近づくと、ダダタダダ!とおじさんが持つ鶏肉めがけて突進! おじさんはひらりとかわすようにしながら、全身を現したワニに、巧みに鶏肉を与えている。これがこのツアーの名物「ワニおじさんの餌やりパフォーマンス」なのだ。
おじさん、そんなことをやっていて大丈夫なのか? 次々とワニがやって来て、おじさんを囲んでいく。おじさんは、なんとか笑顔をキープしながら餌を与えていく。スゴいパフォーマンスだ! 餌やりが終わると、ワニのしっぽをつかんで持ち上げ、ニコリ。 「野生のワニ相手にようやるわ!」真剣ながら笑顔のおじさんだった。
アメリカワニは、コスタリカに生息する2種のワニのうちの1種。クロコダイル科に分類されていて、北米南部から南米北部まで生息している(南米のアマゾンには生息していないようだ)。川や海の河口付近、沼地などにいて、魚やカニ、小型の哺乳類や鳥などを捕食する。水に1時間以上も潜っていられるそうで、泳ぎも上手だ。
前回紹介したメガネカイマンより大きく、体長が7メートル近く、体重が1トン近くになるものがいる。でもコスタリカで見かけられるほとんどのものは3メートルほど。口の先のほう、鼻先辺りが細長く伸びているのが特徴のひとつで、そこを比較すると前回紹介したメガネカイマンと区別がつく。
最近、この「ワニに餌を直接与えるというパフォーマンス」について再び耳にする機会があった。あの餌やりおじさんが、ワニにガブリとかまれたというのだ。 さいわい、おじさんは無事だったそうだが、このことがきっかけで「ワニの餌やり」がコスタリカ政府の環境エネルギー通信省(MINAET)により禁止されることになった。
観光客にとったら興奮させられるパフォーマンスで楽しむことができたが、よく考えてみると、それはコスタリカの大自然の光景ではなく、ワニにとってもありがた迷惑だったと思う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 今週のピソちゃん ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
Ӂ 恋の歌を歌うツノゼミ Ӂ
9月から10月は、日本でスズメバチの仲間が活発に子育てをし、周囲に敏感になる時期だ。ヒトは不用意に巣に近づかないようにしないといけない。 今回は、そんなスズメバチやアシナガバチ(スズメバチ科)に擬態しているツノゼミを紹介しよう。ヘテロノトゥス・トゥリノドスス(Heteronotus trinodosus)という種だ。
ヘテロノトゥス属のツノゼミは、コスタリカを含む熱帯アメリカに生息していて、これまでに40種ほど記載されている。ツノゼミの中でも大きめの種が多い。属名のヘテロノトゥスは「かたちの異なるツノ」といった意味で、この属のオスとメスでツノのかたちが少々異なることにたぶん由来するのだろう。メスに比べてオスのツノは、後方が少し大きく膨らんでいる。
このヘテロノトゥス属40種にはいろんなタイプがいて、アリっぽいものや、蛍光色の色鮮やかなものもいる。今回紹介するヘテロノトゥス・トゥリノドススのように、ハチに擬態しているものもそこそこいる。 このツノゼミは、複雑にくびれたツノがハチの胴体を思わせるほか、透明な翅や、やや長めの脚もハチそっくり。さらに、せわしなく葉や枝の上を飛んでは歩きまわる様子など、見た目だけでなく、動きもハチに似ているのだ。
求愛の季節になると、1本の木にオスとメスがたくさん現れ、オスはメスを求めて木々のあちこちをちょこまかと移動する。飛ぶときの羽音もハチそっくり!
そしてオスはメスを追いかけ、メスの周りに集まって、「恋の歌」を奏で始めるのだ。胴部とツノを上下に激しく震わせ、その振動を枝を介してメスに伝えるのである。鳴き声や鳴くときの行動はそれぞれのツノゼミの種や状況で違うけれども、ツノゼミは「恋の歌を歌う」のである。ヘテロノトゥス・トゥリノドススのオスの鳴き声は、フーポッ!フーポッ! や、ゥルルポポトトトッ!ゥルルポポトトトッ! と、SF映画の宇宙人から届く信号のようだ。
NHKの『ダーウィンが来た!』の取材班やツノゼミの鳴き声を研究しているDr. Rex Cocroftが記録に成功している。言葉では表現しにくいので、実際録音されたものをこちらからどうぞ:「ヘテロノトゥス属のツノゼミの鳴き声」(Copyright 2008, by Reginald B. Cocroft)
脱皮して成虫へと羽化する前のツノゼミの幼虫は、その特徴であるツノを外骨格内にしまっている。複雑で長いツノを格納したヘテロノトゥスの幼虫は、いったいどんな姿をしているのか。気になったので、求愛活動現場となっていたマメ科の木を別の時期に探してみることにした。
枝や葉をくまなく探すと、それらしき幼虫の抜け殻が見つかった。頭の後ろ、胸部の上の部分が盛り上がり、少し後方へと伸びている。ここに「ツノがしまわれていた」ようだ。 さらに探すと、オオアリたちが集まっている場所があった。よく見てみると、そこには小さなツノゼミの幼虫たちが6匹固まっていた。アリたちがいても、そこに幼虫がいることがわからないぐらい上手く木の表面と一体化している。
いつの日か、ヘテロノトゥスの幼虫たちが羽化する瞬間に立ち会って、ツノを伸ばしてオオアリより大きくなる姿を見てみたいものだ。
・・・・・つづく
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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