〇◎ “命のことを知らずして、命の大切さは理解できない” ◎〇
= 探検的調査を実践する “探検昆虫学者” 西田賢司 =
【この企画はWebナショジオ_“「コスタリカ 昆虫中心生活」” に追記・補講し、転載した】
☠ 中米コスタリカで新種の昆虫を見つけまくる男! 「バックマン」 ☠
曰く 『昆虫は、僕たちに自然の変化を教えてくれる一番身近な存在です』
◇◆ =087= ツノゼミの不思議なかたちの意味を考えた ◆◇
最近、空気に厚みが増してきた。雨季に入って湿度がグッと上がったのだ。そして昆虫たちがせわしなく動き始め、それに合わせてぼくのほうも毎日飛び回るような生活が始まった。 午前中、晴れて気温が上がると、家の周りの茂みでは5種ほどのツノゼミたちがビュンビュンブンブン飛び回る。その中でよく見かけるのがミカヅキツノゼミだ。
ミカヅキツノゼミは、クラドノータ(Cladonota)という属に分類されるツノゼミで、その名の通りツノのかたちが三日月のように弓なりになっているものが多い。ぼくはこれまでにコスタリカで、約10種のミカヅキツノゼミを確認している。第1回で紹介したクラドノータ・インフラトゥスと第28回で紹介した種もミカヅキツノゼミの仲間だ。専門家によると、熱帯アメリカには記載されていない(新種で学名が付いていない)ミカヅキツノゼミがまだまだたくさんいるそうだ。
今回紹介するのは、クラドノータ・ゼレドニ(Cladonota cf. zeledoni)という種(おそらくこの種だが、まだ完全に同定はできていない)。この種、茂みの葉から葉へと飛ぶ姿もよく見かけるけれど、ヒルガオ科の植物のツル(蔓)にとまって汁を吸っているところもよく目にする。
最初にこのツノゼミに出会ったとき、ここの茂みには形の違う2種のミカヅキツノゼミがいるものとぼくは思っていた。でもあるとき、その「2種」が隣り合わせにいるところを見かけた。たまたま一緒にいるだけとも思ったが、もしかするとツノのかたちが違うオスとメスなのかもしれないと思い直し、このツノゼミたちを採集することにした。
そうして交尾器のかたちをよく調べてみると、ツノの先が風船のように大きく膨らんでいるのがオスで、ツノがくねくね細長く伸びているのがメスだということが判明。見かけたのは、たまたま隣り合わせにいたのではなく、交尾をしているところだったのだ。これまでに見てきた別のミカヅキツノゼミは、オスメスでこれだけの差がなかったのでビックリさせられた。
ツノの先端が大きく膨らみ、全体が黒くて太いオスと、茶色っぽくて細身のメス。ツノの伸び具合や膨らみ具合には個体差があるものの、このミカヅキツノゼミはなぜここまでオスとメスでツノのかたちが違うだろうか? 文献を調べたり、行動をじっくり観察したりして、ぼくは以下の三つの理由を推測した。
1 オスのツノは飛び回るのに向いている
オスはメスと違ってよく飛び回る。ぼくが近づくと、オスはすぐにシューっと飛んで逃げたりするが、メスはあまり逃げない。じっとしているメスに出会うために飛び回っているのだろう。オスのツノは、こうした行動に適したかたちなのではないか。
2 オスのツノは求愛の唄を増幅させる
ツノゼミは一般的に、オスがメスへ求愛する。その際、オスは体を振動させ、その振動(鳴き声)を、植物を介してメスへと届かせる。先が大きく膨らんだオスのツノは、ステレオなどのスピーカーのエンクロージャー(箱)のように、振動を増幅させる効果をもつのではないか。雨風の強いモンテベルデでは、大きく膨らんだツノは効果をより発揮するのかもしれない。
3 メスのツノは擬態効果を高めている
メスは茎の上でじっとしていることが多い。ツノの横幅が生活場所であるヒルガオの茎の幅と同じで、形状は少し枯れた茎や枯れた新芽に見える。枯れて乾燥したこのヒルガオの茎を顕微鏡で拡大して、メスのツノの質感や色と比べてみると、これまたそっくり。オスよりも鳴く必要性が少なく、メスのツノは「擬態優先」のためのかたちなのではないか。
本当の理由は上の1つだけかもしれないし、3つ全部の可能性もある。これからも気を付けて観察し続けていくと、もっとヒントが得られて、また違ったことが見えてくるかもしれない。 数年前に、このミカヅキツノゼミの幼虫を見つけて写真を撮った記憶が鮮明に残っている。ところが、撮った時期を思い出せない。みなさんに幼虫を紹介したいけれど、パソコン内にある膨大な枚数の写真の中から探し出すのは困難を極める。
ならば撮り直そう。今、成虫がこれだけいるのだから幼虫もたくさんいるはず。スグに見つかるだろうと判断した。 翌日の朝から幼虫を探してみる。成虫は、「これでもか!」というほど見つかるのだが、幼虫が見つからない。ようやく1匹見つかったのが雨雲が広がってきた午後1時のことだった。
「おった~!」・・・でも小さい。よく見ると終齢幼虫ではなく(ツノと翅になる部分が形成されていない)、そのひとつ手前の亜終齢幼虫だった。終齢幼虫のほうがより多くの特徴がふつう見られる。以前撮影したものも終齢幼虫だった。「う~ん、これではあかん。終齢幼虫を見つけな!」
午後1時半、雨がポツポツ。午後1時40分、2匹目の幼虫を見つけ確認してみる・・・「よっしゃ~終齢幼虫!」、でも同時に「これは来た~っ!」 ザザザザ、ザ~~と、土砂降りのスコールがやって来た。 幼虫が大きな雨粒に当たって落ちないように、ぼくが前かがみになって雨よけになりながら、剪定バサミで茎をそ~っと切る。幼虫のついた茎をお腹の前に持って、雨がかからないようにして屋根の下へ避難。
午後1時44分、屋根の下でしゃがみ込んで、幼虫の撮影開始! 幼虫は元いた場所から移動してしまったが700枚ほど撮ったところで、ある程度満足できる写真(上の最初の写真)が得られたので、午後2時20分撮影を終えた。
雨の勢いが少し弱まったので再び幼虫を探してみるものの、見つからず。半日以上かかって、終齢幼虫を1匹見つけたという結果だった。幼虫探しは、そう甘くなかった。 パソコン内のどこかにある幼虫の写真を探していた方が早かったのか? 分からないが、幼虫を無事に見つけて撮影することができたので、ホッと一息だ。
Ӂ 魔女の顔に見える? ツノゼミ写真館 Ӂ
今回もミカヅキツノゼミの仲間を、全部で5種紹介しよう。 その前に一つ補足。 前回、おそらくクラドノータ・ゼレドニ(Cladonota zeledoni)だろうと紹介したミカヅキツノゼミ(下)について、専門家のフリン博士(Dr. Dawn Flynn)から連絡が入った。
写真はメスだが、これがもしクラドノータ・ゼレドニであれば、オスと同様にツノが風船のように膨らんでいて、こんな風にくねくねしてはいないと言う。前回紹介したツノゼミは、おそらく新種であろうとのことだった。 この写真を使って、ツノゼミの体のつくりを少し説明しておこう。
写真の右下、くねくねとしたツノの下にあるのが頭部。そのすぐ後ろ、胸部から前脚と中脚が見える。翅は左右に広がっていて、前翅が茶色く、後翅は透明で脈が見えやすい。そして胴部の上から後ろ(左上方向)へ真っすぐ伸びているものもツノだ。くねくね伸びる部分と後方へ伸びる部分の全体が、前胸背(ぜんきょうはい)と呼ばれていて、すなわちツノということになる。この後、もっと「ヘン」なツノも登場するので、ここでの説明が役に立てばと思う。
次にご覧いただきたいのが、下の幼虫。コスタリカのカリブ海側の低地の熱帯雨林、ハメリア(Hamelia)というアカネ科の花の付け根にいた。植物に赤い部分があるのと同じように、体に赤い部分が見られる。この植物で暮らすことに特化しているのだろうか? この幼虫を飼育してみると、冒頭の写真のミカヅキツノゼミに変身した。連載の第28回でも紹介したツノゼミだ。眼の色が赤く、ツノの形もほかの種とは微妙に違っている。ぼくがコスタリカで見てきた三日月形の種のなかで眼が赤いのはこの種だけだ。
下の写真は幼虫の抜け殻。どのツノゼミも、幼虫にはそれぞれ特徴があるので、幼虫や幼虫の抜け殻を標本にすれば、分類や種の特定に大変役立つ。また、幼虫が生活している植物や幼虫の行動などを記録していくと、成虫が似ていても幼虫の特徴によって別種であると確認できることもある。
次は、ぼくがコスタリカに来て初めて出会ったミカヅキツノゼミ。首都サン・ホセ近郊にあるコスタリカ大学のキャンパスに生息している。この種は、幼虫と成虫をキク科のモンタノア(Montanoa)という植物でよく見かける。終齢幼虫は白っぽい緑色をしていて、葉の新芽の横でじっとしていることが多い。 ところが、終齢幼虫のひとつ手前の亜終齢幼虫には、黒い模様が入っていて、植物の先端の小さな若葉の間にいることがわかった。先端の若葉にも少し黒くなった部分があって、上手に紛れ込んでいる。
今度は、専門家もビックリの「色」がついたミカヅキツノゼミをご覧いただこう。 ぼくも最初に出会ったときは、ビックリだった。エメラルドグリーン色の模様が入っていたからだ。 これまでに見てきたミカヅキツノゼミのツノの色はどれも薄茶から黒の地味な色で、それ以外の色が入っているものを見たことがなかった。専門家に写真を送ってみたところ、こんな色の入ったミカヅキツノゼミは見たことがないし、聞いたこともないという。
出会いは、NHKの自然番組の撮影で、灯火採集をしていたときだった。雨の中、ライトに照らされた白いシーツに集まってくる昆虫たちを確認していく・・・と、突然これまでに見たことのない小さなミカヅキツノゼミが現れた。
このツノゼミをガラス容器に入れ、顕微鏡で観察していたら、飛び立つ瞬間にメタリックレインボーに輝く後翅が一瞬見えた。これまた見たことのない輝き。ツノのエメラルドグリーンと言い、メタリックレインボーな後翅と言い、このミカヅキツノゼミが色鮮やかさには、きっと何か理由があるにちがいない。
最後に紹介するのが、ツノが「ヘン」で不思議な雰囲気をかもし出すミカヅキツノゼミ、クラドノータ・ビクラヴァタという種だ。 特徴は、「背中」の中央から太く、長く、塔のように伸びるツノ。調べてみると、種名の「ビクラヴァタ」は、「2本のクラブ(こん棒)」という意味らしい。
友人にこのツノゼミの写真を見てもらうと、「縦方向にするとオモシロい」というので、やってみた。なんと顔に見えるではないか! それは、ホウキにのっていそうな魔女のおばあさんのような顔。このミカヅキツノゼミの不思議な雰囲気は、この「顔」にあるのかもしれない。
・・・・・つづく
_ 宇宙人!?奇妙過ぎる姿のツノゼミたち _
・・・・・・ https://youtu.be/cZDlS04rqlE ・・・・・・
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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