〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇
= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =
☠ 青春を深海に掛けて=高井研= ☠
ᴂ 第4話 JAMSTEC新人ポスドクびんびん物語 ᴂ
◇◆ 最後の「むかつくんですよ!」はよく覚えている =2/3= ◆◇
乗船できずとも1997年の秋に採取された「沖縄トラフ伊平屋凹地熱水フィールド」の新鮮なサンプル、1998年の春に行われる「伊豆・小笠原明神海丘熱水フィールド」の新鮮なサンプルを分けて貰えることになった。
ヨッシャー。とりあえずこれで、なんとか「思てた研究」ができそうだと目処がついてボクはすこし安堵した。しかし、冷静になって考えてみると、その研究に着手し、ある程度まとまった結果が得られるのは、まだ半年以上先のことだ。その研究以外に、まだJAMSTECで「誰? あのうるさい関西人?」としてしか見られていないボクが、ナニモノかであることを示す必要があると感じていたんだ。
そんなある日、ボクはJAMSTECの食堂で昼食を食べようと席を探した。微生物研究系のグループに所属する若い女性研究者達の隣が空いていたので、その場に座り、いろいろおしゃべりをして場になじもうとした。ワタシの記憶が正しければ・・・、決して「キミ、きゃわうぃーねー!」的なノリで話したつもりは一切ない。
なのに、その女性達はみんな反応が異様に冷たく、表情がぎこちなく、むしろ困惑しているのだ。まるでキャッチセールスのセールスマンにつかまったかのように。当時その現場にいた女性研究者の一人は、現在もボクの同僚として働いているが、彼女に当時の真相を追究すると、「なんか、ギトギト来る感じがうざかった」と証言する。真実はともかく、ボクはそのランチタイムに直感した。
「これか? やっと来たか? これが本当の関東人による関西人いじめか? オレの隠しても隠しきれない京都人のはんなりさがジャンジャンと五月蠅い神奈川県民に鼻持ちならないのか?」と。
それは全く違うぞ。
としても、やはりポスドク研究者というのは、できうる限りソッコーに自らの「できるヤツ」ぶりをアピールしなければならないとボクは感じていた。人間というのは多かれ少なかれ先入観に縛られる生きものよ、という面がある以上、ある程度最初にハッタリをかましておくと、しばらくの間、かなりの自由度やポジションで立ち回れるというのは、ヤンキー社会における鉄則だ。とヤンキー友達から学んで知っていた。
何か「深海熱水環境の微生物の多様性」以外の研究を早急に立ち上げなければ。
ボクはその日から徹夜で策を練り始めた。そして、これまでのJAMSTECの研究の中に、水深約1万1000mの世界最深部のマリアナ海溝の冷たい泥の中には、思いがけず50℃ぐらいの温度で増殖する好熱菌が多いという論文があるのを見つけた。しかも、その中にはかなり系統的に珍しい好熱菌が含まれていた。
当時、世界最深部マリアナ海溝の研究は、まさしくボクがアメリカ留学時代にニューヨークタイムズ紙の記事で見かけたように、1万1000m級無人潜水機を開発したJAMSTECの独壇場だった。もし、極めて低温の世界最深部の泥に、超好熱菌が生きていたら? こりゃ、それなりの研究ネタになるなとボクは思った。
ちょうどその頃、超好熱菌の研究の世界では、次のような研究が報告されていた。海底下の無酸素の高温環境で生息していた超好熱菌は、海底火山の噴火に伴って酸素に満ちた海に放出されると本来ならすぐ死ぬはず。なのに、海水が低温の場合はかなり長期間生き残るというのだ。
一方、世界中の様々な地域の海底熱水環境は、それぞれ地理的には隔絶しているにも関わらず、同じような超好熱菌が生息していることが知られていた。この現象を説明するためには、海の中で何らかの超好熱菌の運搬(伝播)メカニズムが存在している必要があるのだが、それが海底火山噴火と海水による超好熱菌の運搬ではないかと議論されていた。
もし、世界最深部マリアナ海溝の泥にも超好熱菌が生きて残っていたら、それは海水による超好熱菌の運搬の一つの例証になるかもしれない。ボクはそう考えた。そして、JAMSTECでは前年にマリアナ海溝チャレンジャー海淵から泥を採取し、そのサンプルを液体窒素の中で保存していていることも分かった。
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= 生命は海から?陸から?宇宙から?—高井研さんに聞く・後段 -3/7- =
世界中の深海に潜り、誰よりも生命の起源を探ってきた男、高井研さんインタビュー。「生命の起源を解明するには地球だけを研究していたのではダメ。宇宙に行かないと!」と高井さんが力説したのに、その後は感動ポイントを逃さないように、しぶとく質問を続けるうち話題は太陽系の果てへ、さらに地球最後の秘境「超深海ゾーン」へと広がっていく。思いっきり熱いトークを聞くうちに、いつしか気持ちも解き放たれ、宇宙や深海探査の魅力にぐいぐい引き込まれていく。
エンセラダスの海の再現実験ができるのは、世界でJAMSTECだけ
—- 実際にはどういう経緯でJAMSTECの研究者さんが研究に関わったんですか?
高井: 最初にエンセラダスのシリカに注目したのは、東大の関根康人さん(准教授)です。彼は惑星科学が専門で元々は観測屋さん。観測屋さんはふつう、実験しようとは思わない。
—- 再現実験までやらないと?
高井: しません。ところが関根さんは東大の地球惑星科学で学んで、実験しているところもちゃんと見てきたし、地球の地質学もよく理解している。だから観測したデータをどういう現象に当てはめるのかという方法論をよく知っていたわけです。エンセラダスからシリカが出ていることを知った時、彼のアンテナに「あ、シリカが生まれるということは熱水と岩石が関係しているはず。それなら熱水実験をやっているのはJAMSTECの渋谷岳造君だ」と引っかかった。で、一緒にやりましょうという話がここに来たわけです。
—- シリカは地球上ではありふれている物質だそうですが、シリカの微粒子があることで、エンセラダスに過去の地球と同じような海洋があることがわかるんですか?
高井: たとえば砂糖を100度のお湯に入れたらとけますが、4度に冷やしたら砂糖の粒が析出しますよね。温度による溶解度の違いで、粒子が出る。どのくらいの温度でどのくらい冷えると、この大きさの粒子が出てくるかわかってくる。そこにpHも関わってきます。計算でもわかりますが、重要なのは「実際にこういうものができる」と実験できること。今回はエンセラダスの海を再現して、エンセラダスに90度以上のアルカリ性の熱水があって微粒子ができると実証した。そんな実験ができるのは世界でほとんどない。JAMSTECぐらいです。 ・・・・・・続く※
・・・・・・・・つづく・・・・・・・
動画 : ちきゅうTV Vol.8 熱水海底下生命圏を調査!
https://youtu.be/s0uDHHxFFc4?list=PL97pirzgh57Ms7dQy4rBYdXdGFoAdqmXY
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