〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇
= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =
☠ 青春を深海に掛けて=高井研= ☠ 12p黄色
ᴂ 第3話 JAMSTECへの道 後編 ᴂ
◇◆ その4 タカイ君、騙されてるんちゃうやろな? =3/3= ◆◇
ボクの博士課程最終年、27歳になったボクは無事博士号を取得した。デート・ケンカ・仲直りを繰り返した女性がボクの妻となった。そして晴れて日本学術振興会のポスドクとして、1997年の4月からプロの研究者としての第1歩を京都大学の研究室でスタートさせることになった。
京都大学でプロの研究者としてキャリアをスタートさせたボクだったけれども、その5月に3つのポスドク研究員の申請書を書いた。一つは日本学術振興会の海外研究員の申請書。一つは理化学研究所の基礎科学特別研究員の申請書。そしてもう一つは、忌まわしき記憶も生々しいJAMSTECを対象にした科学技術振興事業団の科学技術特別研究員の申請書だった。
京都大学での日本学術振興会のポスドクの職が不満だったワケではなかった。研究自体は、うまくいっていて、アメリカの学会で突如思い立った「そうだ、分子生態学的手法による熱水微生物多様性研究をやろう!」を、まずは日本の浅い海の底の熱水活動やイエローストーン国立公園とはいろんな条件が異なる多様な日本の温泉で始めていた。そして、結構シメシメな結果が出始めていた。
しかしその一方で、やっぱり6年間も過ごした同じ研究室にずっといるのはどうかという気がしていた。もう一つ、やっぱり何となく、研究室の先生達に「行き遅れ」的印象を持たれていると少しばかり感じていたんだ。
そんなわけで、できることなら京都大学の出身研究室を出ようという気持ちがあったのが、その申請書ラッシュの理由だ。
そして調子に乗って書いた3つの申請書は、ほぼ同じぐらいの早い時期に、一次審査合格の報がきた。ボクは「もしかして申請書書きのテンサイ降臨?」と有頂天になっていた。日本学術振興会の特別研究員の申請書から数えて、4連続審査突破を果たしたのだから、多少いい気になるのは仕方がないだろう。しかし後年、ずいぶんおっさんになったボクが、それらの申請書を読み返した時、「うわ、ダサッ!めちゃくちゃへたくそやん」と思って、かなり凹んでしまったことも事実だった。
ボクは3つの申請書の次のステップに向けて動き出した。理化学研究所の基礎科学特別研究員の面接が行われるのに合わせて、理化学研究所の希望研究室の訪問を行い、続いて、JAMSTECへ科学技術振興事業団の科学技術特別研究員の面接に行く旅程を一つにまとめて、関東制覇遠征計画を立てた。
一方、日本学術振興会の海外研究員の希望先は、ボクの憧れるスーパースター微生物学者、エドワード・デロング(通称:エド様)の研究室だった。理化学研究所とJAMSTECの面接を前にして、日本学術振興会の海外研究員の二次審査の準備のために、いろいろ相談や見学、そして新婚旅行を兼ねて、カリフォルニア大学サンタバーバラ校訪問を含めたアメリカ西海岸10日間の旅へと出発した。
= 物事を究極に成し遂げたいなら、他人をいいわけにするな (5/6)=
「信託」が物事をうまく回す
深海・地殻内生物圏研究分野/ 分野長 高井 研
いまの日本は、ヒトや社会に対する漠然とした「信頼」がなくなっていますよね。政治にしても何にしてもプロフェッショナルがいるはずなのですが、誰を信頼していいかがわからないために、プロでない一般の人がインターネット等の溢れる情報に踊らされ、パニックになったり騒ぎ立てたりしている。「一億総情報収集」時代で情報過多になってしまっています。
僕は「信頼して任せる」ことを「信託」と言っています。信頼し、任せることが大切ではないかなと。政治や社会の矛盾も、逐一ロジカルに追究すればなくなる。本当でしょうか?勿論良くなる方向に持っていけるかもしれませんが、追究には手間暇や時間がかかってお金の無駄にもつながり、結果として状況が悪くなってしまうこともあるのでは?誰かがやることを信頼して任せることでうまくいっていた部分があるのに、今の世の中は行動をつまびらかにしすぎることで物事がうまく行かなくなったことも多いのではないでしょうか。
人間はみんながロジックで動くわけでありませんから、一から百までキッチリ管理したら動かなくなってしまいます。仕事もそう。上司にも部下にも信頼して任せることで、うまく回る部分は大きいと思いますよ。
僕は研究者という職業柄、「利己」や「自分の利益(お金)」を切実に求める人と仕事したことがありません。僕らのスタンスは、「お金は幸せにつながらない」。何に一番幸せを感じるかというと、「やりたいことをやれること」。ある意味究極の自己満足ですね。
そもそも、博士号所得者(ドクター)は人よりも長い社会人デビューの助走期間を持っています。27〜30歳まで世間からも一人前とは認められません。けれど、自分が好きなことができたらいいなという気持ちで研究を続ける人生を選択する人が多いので、実際お金を稼げるようになっても、お金を稼ぐことに人生の幸せを感じないのではないでしょうか。それがある意味当たり前の世界なので、僕はむしろ、お金が欲しい人に聞いてみたいです。「自分の懐にお金があることの何が幸せなのか」と。
・・・・・・・・つづく・・・・・・・
動画 : 高井研先生「地球生命誕生物語」
https://youtu.be/h7_KLGsZaJ0?list=PLIChpw_UiCfAZs1PKv6m_yDYVm69aulot
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