〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇
= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =
☠ 青春を深海に掛けて=高井研= ☠
ᴂ 第3話 JAMSTECへの道 後編 ᴂ
◇◆ その3 この研究を深海熱水でやりたい!! =1/3= ◆◇
博士課程3年の夏、高井研は国際学会「Thermophiles(好熱菌)’96」に参加するため米国ジョージア州を訪れていた。「日本人研究者のアッシー君となって、将来の保険も」などと、木下藤吉郎ばりの秘策も用意しつつ・・・。
Thermophiles’96は、ボクにとっての最初の本格的な国際学会だった。そして、ボクにとってはある意味、夢のような時間だった。それまで論文でしか知らなかった有名研究者が、ゾロゾロ出てきて発表していた。
「あの人のプレゼン、カッケーなあ」とか「うわー、もうそこまで研究進んでんのー!」とか、いちいち感動しながら、時には手を挙げてつたない英語で質問したり、発表後に話しかけに行ったり、とにかく積極的だった。今の自分から見ても、あのときのボクはホントに素晴らしいガッツだったと褒めてあげたくなる。
もちろん木下藤吉郎作戦もずばりはまっていた。将来のキャリアパスの取引の保険になったかどうかは分からないが、多くのジャパニーズ研究者と(少なからず大物研究者とも)仲良くなれた。
もちろん口頭発表だけじゃなく、ポスター発表も全部見た。多くの発表は、その時ボクが研究していた超好熱菌に関するモノだった。可愛い女の子の発表なぞ、意味もなく絡んだりして、国際的若手研究者っぽい気分を味わっていた。自己投資してよかったー。
そんなとき、あるポスターの前に人だかりができていた。そのポスターの題名は、「Some more like it cold(お熱いのがお好き)」。発表していたのはクリスタ・シュレパーという若いドイツ人女性だった。
それまで温泉とか深海熱水のような高温環境に生息する超好熱菌のグループしか知られていなかった古細菌(アーキア)の一部が、実はカリフォルニア沖の沿岸海水とか、北極や南極海とか、深海とかにかなりたくさん生息していることを、1990年代の初め頃、エドワード・デロングというスーパースターをはじめとする微生物生態学者が分子生態学的手法という新しい方法論を導入することによって発見し、いくつかの論文が『Nature』誌に発表されていた。つまり、古細菌は熱い環境だけが好きなヤツラだけじゃなく、冷たい環境も好きなヤツラもいる。ということで、Some like it coldというタイトルの解説記事が結構有名だった。
その後、ノーマン・ペースという大物微生物生態学者が、イエローストーン国立公園の温泉で同じような手法で、生息する古細菌の多様性を調べたところ、それまで知られていた超好熱菌とは全然違う、めちゃくちゃ多様な、ヘンな、そして起源の古そうな、古細菌がわんさかいることを見つけていた。その論文の解説記事のタイトルはSome more like it hot。
そして目の前にあるポスターは、冷たい海だけでなくて、冷たい湖にもそういうタイプの新しい古細菌がいるということを発表するモノだった。だからSome more like it cold。
もちろんボクは、そういう当時流行しはじめた微生物生態学的研究について、よく知っていた。しかし、当時のボクは「ヘッ、何が分子生態学だよ、遺伝子の配列だけで何がわかるっちゅうんだよ。微生物は機能が重要なんだよ。遺伝子配列みたいな血の通ってない結果なぞ、誰も興味持たんワイ! ヘッ、ナメンなよ!」という好戦的タイドで接していたのだ。
そしてクリスタ・シュレパーにもつたない英語で同じような内容の事(「ヘッ、ナメンなよ!」は英語で表現できる能力がなかった)を言って、ケンカを売ったんだ。
クリスタ・シュレパーは、ひどいドイツ語なまりの英語で「ワタシは学生時代ずっと超好熱菌の生化学の研究をしていたの。そして今、ノーマン・ペースの下でポスドクをしながら、こういう研究をしているの。だから、アナタの言うことはよく分かるわ。でもケン、こういう未知の古細菌が、そこら中にいっぱいいるのって楽しくならない? まだまだたくさん明らかにすべき、ワタシ達のための古細菌がいるのよ」と言った。彼女の言葉は、ボクのなかの何か敏感なところにズシンと響いた。
= “あきらめたら、そこで試合終了ですよ” (公演 2/2) =
深海・地殻内生物圏研究分野/ 分野長 高井 研
その思いはJAMSTECの憲法とも言える長期ビジョンに謳われている「生命の進化と海洋地球生命史の探求」が照らし出す未来への道筋と重なっています。我々は来る5年に、「ちきゅう」や「フルデプスROV」、あるいはJAMSTECの有するあらゆるマルチ海洋探査プラットフォームを駆使した遠隔探査・その場計測-観察・サンプルリターンによる未到極限環境生命圏の探査を行い、その場での生態系機能の解明に挑みます。
今できる最高の探査と同時に、さらに次の5年を見据えたその場計測—観察・サンプルリターン・モニタリングプラットフォームの革新技術の開発も並行して行っていきます。 そして、我々の研究のもう一つの武器は、実験室内に極限環境の条件を再現し、その条件下で未知微生物や化学合成生物を長期飼育・培養することによって、極限環境条件下での生物機能や相互作用を実際に検証することができることです。
これらの研究の先には、新しい技術革新によるより高次かつ広範囲、高精度な探査と再現実験による実証が可能になるでしょう。 そして近い将来、フルデプス有人潜水船を含めた「有人探査・遠隔探査・その場計測—観察・サンプルリターン」を統合した探査により、地球の生命限界や存在条件への直接証明が可能になるとともに、「JAMSTECの研究により地球にフロンティアはなくなった」と結論づけられるような究極的な地球生命観の創造を目指したいと思っています。
・・・・・・・・つづく・・・・・・・
動画 : 深海VR (JAMSTEC) https://youtu.be/XZv-KkWVBr0
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