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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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未知なる深海へ 高井 研 =014=

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〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇

= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =

☠  青春を深海に掛けて=高井研=  ☠

ᴂ 第一話 実録! 有人潜水艇による深海熱水調査の真実 ᴂ 

◇◆ その2 マリンスノーってきれいなんですか? =3/3= ◆◇ 

目の前の「よこすか」のスクリューがゆっくりと回転し、「よこすか」が微速前進しながら、しんかい6500着水作業を進めていることがわかる。そのスローモーションのようなスクリューの動きと「よこすか」が作り出す白い無数の泡が見えなければ、一体ボクらは今どこにいるのかもわからない「果てのないコバルトブルー」が延々と続いている。

そして約30分後、イイジマさんの「ベントオープン、潜航開始!」の声と共に、ボクらをのせたしんかい6500は、一瞬ガクンと落下する感覚を残して深い海へと旅立つ。

潜水が始まると、目の前のコバルトブルーは、ゆっくりその光を失いながら、暗色へと変わってゆく。しかし不思議なことに、暗く濃紺に変わっていくのにその透明感はまったく失われない。とくに水深50mから100mぐらいの深さの海の景色に、ボクは何かとてつもない美しさを感じる。それは色を失ってゆく中にも確かにエネルギーに満ち溢れた光の存在を感じさせる瞬間だからだろうか。

よく潜航するときに「マリンスノーってきれいなんですか」と聞かれることが多い。でも実は、ボクは「マリンスノーをきれい」と感じたことはない。むしろ、30回近い潜航(しんかい2000としんかい6500の潜航調査を合計するとそれぐらい潜っているらしい。えーもうそんなおっさんになったのか…)を通じて、いつもこの光が失われてゆく海の光景に強く惹かれる。

アレだね。そのぐらいの深さの海の美しさはフリーダイバーとして有名な「ジャック・マイヨール」の自伝的映画「グラン・ブルー」の世界なんだ。それ「しんかい6500いらんやん!」と突っ込みを受けそう。でもまあ、あくまで深海底に到着するまでの美しさ・楽しさという意味だ。それに、ボクらはイルカでもないし、ジャック・マイヨールのような超人でもないし、しんかい6500のおかげでその世界が体感できるのだ。

今日の目的地は水深2600mの海底。片道1時間半ぐらいの潜水時間。直径2mのコックピットに男3人くんずほぐれつのこの時間は、はやりの女子会ならぬ男子会ターイム。コパイロットのイイジマさんはボクと同い年。そしてボクが最初にしんかい6500でインド洋に潜航調査したときのパイロットだった。ヤナギタニさんは、その次の年、しんかい6500オペレーションチームに入ってきた新人さんだったっけ。ヤナギタニさんに彼女ができないことなどをイジリながら、徐々に緊張感を高めてゆく。

ちなみにここで気を付けないといけないことがある。しんかい6500のコックピットの会話はすべて、船外のカメラ映像とともにバッチリ録音されている。恐るべき管理社会。時々、この事実を忘れて、いっしょに乗船している研究者の悪態などつくと、それは後でもう気まずいムードに包まれることになる。もうひとつ気を付けないといけないのは、コックピットには男3人なので、ついつい「下ネタ」解禁になってしまいがちなのだが、あとで、女性研究者にビデオでそれを聞かれた日には、もう二度と口をきいてもらえないかもよ。

つづく(次回、いよいよ深海へ)

=補講・資料= 

高井研・深海で生命の起源を探る(6/9)

──子どもの時から深海や微生物に興味がありましたか?

 いいえ。僕は小さい頃は、文筆業に興味がありました。僕は母親に「何者かになれ」と教えられて育ったので、オリジナルな世界を築く人にならなければならないという意識が強かったんです。でも早い時期に文筆の才能がないことが分かったので諦めました。もともと生物には興味があって、小さい頃は、川や湖に水中メガネをつけて潜って、水の中で動く魚とかを見たり採ったりするのが子ども人生最大の楽しみでしたね。

 それで生物系の研究者になるのもいいなあと思って京都大学農学部に入学しました。分子生物学でノーベル賞をほしいと野望を抱いた時期もありました(笑)。でも大学4年生で研究テーマを選ぶ時に、分子生物学より生命の起源を探ることの方が、まだ誰も解決したことがないから面白いと思ったんです。そちらの方が価値あることだと思いましたね。人類にとって最大の命題に近づきたかったのだと思います。

 ──研究を進める上で大切していることはありますか?

 世界で歴史上最も発行された漫画を知っていますか? 週刊少年ジャンプに連載中の冒険海賊漫画「ONE PIECE(ワンピース)」です。この漫画のように、誰もが知らない場所へ行って、その世界を初めて知ることほど楽しいことはありません。それにそれは人がいろんな意味で成長することと強く結びついているのです。「ウワー!楽しい!」と純粋に感動すること。僕がいつも目指しているのはそれです。そして、その感動を共有することで、人の役に立つことになればいいなあと願っています。

──感動を共有することが人の役に立つ、というのは?

 お金を稼ぐとか短絡的な利益を求めることだけではなく、若い世代に「将来こういう職業になりたいな」とか、JAXAやJAMSTECで言えば「将来絶対この研究所で働きたい!」と思ってもらうこともとても大事な事だと思います。例えば、最近一番感動したというか、励まされたことがあったんです。今年の1月から3月にかけて行われた「しんかい6500」の世界一周航海「QUELLE2013」で、インド洋からスケーリーフットという貝を持ち帰って、それを生きたまま一般公開しました。

 小学生や中学生の子どもがいっぱい来て、彼らはスケーリーフットに直接触れ、研究者に話を聞いてとても楽しそうにしていました。そして、「将来私たちもJAMSTECで働きたい」と言ってくれたんです。これこそが、お金で計ることのできない価値ですし、大きな意味で言えば国家としての財産だと僕は思います。「JAMSTECがやっていることは、ワクワクすることなんだ」と思ってもらうことが重要で、そのワクワクを共感できることが、僕らを研究調査に駆り立てる一番の原動力だと思っています。

・・・・つづく・・・

動画 : 深層海流二千年の大航海

 https://youtu.be/pc8EXsF6ld4

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