〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇
= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =
☠ 宇宙・深海・地殻、生物の根源を求める学究=高井研 ☠◇◆ インタビュー:まだ見ぬ生命を深海・宇宙に求めて =2/5= ◆◇
──生命が存在する条件とは何なのでしょう?
生命誕生に必要なのは、まずエネルギーです。次に必要なのは体を作る材料で、例えば人の体を構成する主要元素は、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄、リンです。我々はモノを吐き出しながら、再生しながら生きていますので、エネルギーだけでなく材料も取り込まないといけません。食べ物にはその両方が含まれているわけですね。つまり、生命にとって必要なのは、生きるための最低限のエネルギーと、体を構成する元素が絶えず供給されていることです。逆に言うと、それが可能な環境であれば、生命が存在できるということを意味します。
ただ、その環境を一瞬だけ、惑星の1ヵ所にだけしか持っていないとしたら、生命は永く、大量に存在することはできません。時間的、空間的な要素も必要で、地球がすごいのは、46億年もの間、全球的にその環境が保たれているところです。だからこそ非常に多くの生命が生きているのです。
──生命の存在にはいろいろな条件が重なっているんですね。水がある所には生命がいる可能性が高い、というイメージがありますが。
水の存在は生命存在の有力な条件ではあるけれど、水があることと生命がいることは全然イコールではありません。今NASAの火星探査機「キュリオシティ」が火星で有機物を探していますが、有機物イコール生命でもありません。先程お話した、エネルギーと元素供給がないと生命は存在し得ないのです。また天体望遠鏡で、植物があるかのような緑色の惑星、あるいは水に加えて酸素のある惑星を探そうとする研究がありますけど、生命が存在できる惑星のなかでもそういう特徴を持った惑星はすごく稀だと思います。
つまりこれは、多くの生命存在の可能性を見逃しているとも言えます。もちろん、宝くじを買って当たるのを期待するような一発でゴールを決める方法は成功すればすごい事です。でもそれ以上に、生命が存在しているというのはどういうことかをしっかり様々な観点から理解した上で、徐々に生命存在惑星候補を追い詰めてゆくような地球外生命探査をやることが、宇宙生命探査を科学として広げてゆくには良い方法だと思っています。
──JAXAの研究者と一緒に土星の衛星エンケラドゥス探査計画を進めているそうですね。
まだアイデアレベルですが、小惑星探査機「はやぶさ」のサンプル回収を担当した矢野創さんたちと一緒に、エンケラドゥスへ探査機を飛ばして地球外生命探査を行うという計画を進めています。エンケラドゥスは土星の衛星で、NASAの探査機「カッシーニ」によって、その表面から海水が噴き出しているのが確認されています。その海水のサンプルを地球に持ち帰ることができれば、その海の組成が、生命が存在する条件をクリアしているかどうか調べることができます。
計画通りに進めば、30年後にはエンケラドゥスの海水の研究を始められます。その時、僕はもう70歳ですから、実際に研究する人は、今はまだ生まれてもいないかもしれません。自分たちが積み上げてきたものが、そのように次の世代の人たちに引き継がれていく。それがサイエンスの素晴らしいところですよね。
──地球外生命が見つかったら、何かが変わると思いますか?
多くの人の生活には何の影響もないでしょう(笑)。ただ、はっきりと言えるのは、生物学が初めて真の学問になるということです。
──生物学が真の学問になるとはどういうことですか?
物理学や化学は地球だろうと宇宙だろうとどこにでも当てはめられる学問です。でも今の生物学は、地球の生物に限っての学問なのです。地球外の生物を知ることによって、地球の生物が宇宙共通のものなのか、特別なものなのかが分かる。これは、2600年の歴史を持つ生物学に革命を起こす、すごく劇的な瞬間になると思います。そういう意味では、地球に近い火星には地球の生命と共通の歴史がある可能性が考えられるので、エンケラドゥスで生命を見つける方がより大事だと思います。もちろんエンケラドゥスの方が、生命が存在している可能性が圧倒的に高いということも重要なポイントです。
──それを実現させるためにも、JAXAは「はやぶさ2」でサンプルリターンを成功させなければなりませんね。
「はやぶさ2」は生命の前駆物質を見つけに行くというミッションですよね。これによって太陽系の起源物質を知り、どのようにして生命が生まれたのか、生命が何なのかを、JAXAが組織として真剣に考えてほしいなと思っています。残念ながら、JAXAの研究者から、生命とは何かという「JAXAならではの生命観」を聞いたことがないので、「君たちは本当に生命について真剣に考えたことあるのか!」と言いたくなる時があります。生命のことをきちんと知らなければ、宇宙の生命を科学的に探すことは不可能です。たぶん僕は誰よりも生命の本質を真剣に考えているので、ぜひJAXAは僕を宇宙生命探査のキャプテンに任命する事をお薦めします(笑)。
=補講・資料=
スキル(技術)の誇示では、人を納得させられない
サイエンスは実力主義で結果がすべての世界なので、どんなにコミュニケーションが苦手でも、立派な仕事をすれば勝てます。しかし、プロジェクトの運営は、そうはいきません。研究者といえども、人間力、コミュニケーション能力を磨かなければ。スキル(技術)だけで人を納得させることはできないのです。
僕の考える「人間力」の重要な要素として、2つ挙げる事ができます。ひとつは、「この人は自分にないものをもっている」と意識しながら相手を見ること。自分にはない、飛び抜けた能力やプロフェッショナリティに対して敬意を払うことが、相手を信頼することにつながっていきます。
もうひとつ僕が心がけているのは、「誰に対しても裏表が無く、フェアに接する」こと。要するに、小学生でも大臣でも初対面では同じように接しようとしています。それは心で決めた僕のポリシー。人を地位で判断せず、どんな人でもフラットに対応して自分の中で好きだと思ったら付き合う、嫌いだと思ったらやめる。
研究者の間で、研究に必要な総合能力を「腕力」という言い方をするのですが、ガキ大将のように、腕力が強くてフェアであるのが僕の理想。接する側の人間にしてみれば、相手を読みやすいので付き合いやすいと思いますよ。
「人間力」、特にフェアであることについて考え始めたのは、子どもの頃です。僕自身片親でしたし、豊かな家庭とは言えませんでした。似たような環境の友人もたくさんいます。そういう環境で育った子どもは差別されがちで、人間関係に対してとてもセンシティブな感覚を持つようになるんです。友人が差別されているのを見ていつも感じていた憤りが、「人は人間性で判断すべき」という考えにつながっていきました。
・・・・・つづく・・・・・
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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