○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
探検家になるために必要な資質は、臆病者であることです =植村直己=
= Webナショジオ_“河江肖剰-新たなピラミッド像を追って”より転載・補講 =
☠ 自分が主役になるよりは常にメンバーを影でサポートするような立場でいたい ☠
◇◆ マッキンリーの氷雪に消えた _終章_ =1/5= ◇◆1984年2月、植村直己は冬期のマッキンリーに単独登頂したのち、帰らなかった。 この遭難を追跡する前に、1983年の植村について語りたい。
82年12月、アルゼンチン軍部から、南極横断旅行には協力できないと通告された。ほぼ1年間、南極のアルゼンチン基地で待機した末に、南極横断を断念しなければならない結果になった。 彼が長いあいだそれにかけてきた執念を思えば、あまりに苛酷な断念を強いられたのだった。
83年3月、植村は帰国した。会ってみると、いつも通りの植村に戻っているようにも見えた。 「いやあ、みなさんの期待にこたえることができなくて、すみません。残念です」 という植村を、私個人としては慰める言葉をもっていなかった。 何か発言することで、重い気持ちが軽減されるわけではなかった。
しかし、植村は大きな痛手を受けながら、南極を単独で横断する夢をまだ捨ててはいなかった。 フォークランド戦争でアルゼンチン軍部が大混乱したのは、予想外の事故だった。 もう2、3年かけて、もう一度アルゼンチンの支援を得るか、別な国の援助を考えるかして、単独横断をやりとげたい。
植村はそうはっきりと語った。 別の国の援助というとき、アメリカ合衆国が第一に頭に浮かんでいるはずだったが、アメリカ政府、軍部ともにその壁は厚い。 もちろん彼は痛いほどそれを承知していた。 今年の後半、アメリカに渡って、交渉の糸口を見つけたい、といった。 私は賛成したが、しかし有力な糸口をどのように見つけるのか、これだという方法を相談するまでには至っていなかった。
植村直己との個人的なつきあいについて、できるだけそれが話の中心にならないようにおさえてきたつもりである。 しかし、この83年については、個人的なつきあいをあるていど語っておく必要があるように感じられる。というのも、次のステップに足をかけるまで、少しはゆるやかな時間が与えられたようなことになったから、わりとよく植村と会うようになっていた。私としてはフィルムで見た植村の「暗い顔」がどうしても気にかかっていたということもある。
5月8日と9日、植村と一緒に千曲川上流部でキャンプした。 かねて知り合いだった雑誌「ビーパル」編集部の依頼で、キャンプしながらのインタビューを行なったのである。 ゆっくり昔の話でもすることで、少しは気分転換になるかもしれない、と考えた。 植村にとってはとてもキャンプの部類には入らないことは承知していたが、山菜をとり、野外料理をつくり、同じテントで眠ることは、私にとってはいい体験になるはずだったし、事実そうなった。
日が暮れた頃、テントから少し離れた下の谷川で、養魚場で買った10匹ほどのイワナを植村が腹出ししてくれた。 処理したイワナをバケツに入れて戻ってきた植村が、妙に緊張した顔をしていた。
何かあったのかと尋ねると、「イヤ、イワナのお化けが出そうで」と短く答えた。 北極圏で孤独な犬橇旅行を続けた大冒険家が、谷川に夜が下りてくるのを怖がったのである。 私は頬笑みながらも、植村のなかにある繊細な感受性を思わずにいられなかった。
冒険旅行での食べ物、とくにアザラシの生肉について。 犬橇のこと。 厳しい旅のさなか、テントで風の音を聞きながら思うこと。 そんな話題が、とりとめもなく、思いだすままにくりひろげられた。
私はインタビューアーとして、何かを系統立てて聞き出そうとはしなかった。 キャンプ・ファイアーの炎を見ながら植村が話し、私がポツリポツリ聞く。インタビューというより雑談のようになった。 その記録は一部が「ビーパル」に載ったし、のちに1冊の本にもなった(『植村直己と山で一泊』小学館文庫)。
=補講・資料=
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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