○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
探検家になるために必要な資質は、臆病者であることです =植村直己=
= Webナショジオ_“河江肖剰-新たなピラミッド像を追って”より転載・補講 =
☠ 自分が主役になるよりは常にメンバーを影でサポートするような立場でいたい ☠
◇◆ 南極の夢 =4/4= ◇◆フォークランド戦争が、中止の直接的な理由になった。フォークランド諸島(アルゼンチンにとってはマルビナス諸島)の帰属をめぐっての紛争を、その経緯も含めてどう評価するかは、ここでは語らない。 ただ腑に落ちないことがある。 3月19日に戦争が始まり、6月14日にアルゼンチン軍の降伏によって終結している。アルゼンチンとイギリス両国の間に条約も交わされた。 戦争だから南極の冒険どころではない、というのなら、なにも12月まで待たなくてもわかっていたことではないか。
戦争の後で、アルゼンチンの政権が交替し、軍部の人事にも大きな変化があった。 国民にとって、何ら益することのなかった戦争というので、批判が大きかったのである。 サンマルティン基地で待ちつづけている植村にとっては、軍の勢力図が大きく変わったのが痛かった。頼りにしていた軍幹部が多かれ少なかれ傷つき、現場(サンマルティン基地)に指令する系統が乱れた。アルゼンチン当局の責任を軽々にうんぬんしても仕方がないとしても。
フォークランド戦争が原因だったのか。あるいは、どのようなかたちでそれが原因になったのか。私にはよくわからない。ただ、6月14日に戦争が終結した後、ほぼ半年後の12月になって、軍当局は援助中止を通告してきた。 そして痛ましい植村が残った。 その理由はどうであれ、植村がこれまでとってきた誠心誠意主義が通じなくなっている。 そういう場所に彼が立つに至っているのを私も思い知らされた。
夢の達成に向けて、もう一度仕切り直しをするにしても、少し休養して気持をほぐす必要がある。私はそんなふうに思い、帰国してからの植村に意識してたびたび会うようにした。
83年の5月8日と9日、雑誌「ビーパル」のインタビューをするためという名目で、彼を千曲川上流のキャンプに誘った。これは結果として『植村直己と山で一泊』(小学館文庫)という本になった。
この年の10月、アメリカに渡って、ミネソタ州の「ミネソタ・アウトワード・バウンドスクール」の視察をし、また若者たちの指導をすることにもなった。 それ以前に、北海道帯広で植村を慕う有志が集まって、植村を校長にした野外学校ができないかと模索しはじめていた。 二つの動きは、気分の上で繋がっている。植村はけっして南極をあきらめてはいなかったが、「南極後」に何をするか、ポツポツとではあったが考えはじめていたのである。
私は植村の気配を感じて、むりやりに『植村直己の冒険学校』(文藝春秋)という本をつくるための長いインタビューをはじめた。 8月から9月にかけて、全部で50時間に及ぶインタビューになった。 歩く。 退く。 休む。 眠る。 等々の項目を立てて、植村のサバイバルのコツを語ってもらったのである。
しかし、植村が翌年2月、厳冬期のマッキンリーから帰ってこなかったことで、本になるのは大幅に遅れた。同僚の設楽敦生の協力を得て1冊の本にまとまったのは86年の8月だった。 前の「公子さんのこと」の章で紹介した、植村公子さんへの長いインタビューがある(「コヨーテ」No.6 2005年6月)。 その中で、公子さんのある発言がずっと気にかかっていた。
《南極へ出かける一年ぐらい前かな、冬期エベレストで失敗して帰ってきた後ですけど、「夢は一つぐらい残しておいてもいいんだ」といったことがあって、私はそれを聞いてゾッとした。 心のなかがスーッと冷たくなりましたもの。》
インタビューアーの私は、この発言についてそれ以上突っ込んではいかなかった。 黙って、無視するみたいに通りすぎた。 たぶん私は狼狽したのである。 植村は、あの鋭い直観力で、夢が実現しないままこの世から去るのを予感していたのか。 そう思った瞬間に言葉が出なくなった。
いろいろに思いをめぐらせることができる、公子さんの発言であり、彼女が伝える植村の発言である。 めぐらせる思いのなかには、植村は43歳の生涯を84年2月に閉じ、私は馬齢を重ねて何のためともわからない植村についての文章をこうして書いているということがある。
=補講・資料=
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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