○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子= ○
= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =
◇◆ 旅に出る理由 = 3/4= ◇◆
生きるということは一体何なのかわかるはずもないが、そこにつながる何かがあるような気がして、大学時代からバックパックをかついでさまざまな国へ旅に出ていたのだと思う。 この世界のすべてのものに意味や理由を求めていた私にとって、アラスカで感じた“理由なんてない”という感覚はとてつもない衝撃で、そのときの心の震えは“今自分が生きていること”そのものであり、“これから自分が生きていくこと”へつながるものでもあった。
感動や情熱を抑え込むことをやめてみよう、と決心することで、今の凍っている心をとかし、生きているという感覚を取り戻したかった。 そうしなければ、これから生きていけないような気がした。 そんなとき、さて、時間も何も気にせずに……と思った瞬間にふと出たのが、 “実家に自転車で帰ろうかな” という、なんてことのない考えだった。
普通、研究室で日々実験や研究に勤しんでいたこの頃ならば、絶対に無理なことだった。 だから、“自転車で帰ろうかな”と思い浮かんだとしても、“いや、今は休めないからできないな”と、大小さまざまな理由を挙げて気持ちを抑え、行動を起こさなかっただろう。
しかし、いつも通りここでこの気持ちを抑えてはいけない、色々な困難や面倒ごともあるが、そんなことを気にしていては動けない。 ただそんな思いで自分を激励し、力づけた。
今になってその頃の日記を読み返すと、まるで自分への果たし状のような気負った文面に気恥ずかしい気持ちになる。 しかし、その頃の私にとって、その自転車の旅はそれほど大きな意味を持つものだったのである。 かくして、私は自転車で旅に出ることにした。
何をするでもない、ただ自転車で京都から実家のある青森まで行く、それだけの旅。 2004年5月のよく晴れた朝、テントとシュラフ、ガスとコンロを積み込んで、私は自転車に乗り込んだ。 それは25歳、京都にはすでに初夏の薫りが漂っていた。
朝早いうちに京都の自宅を出発し、すぐに私は汗だくになった。 いくつの峠を越えただろうか。 キラキラと輝く琵琶湖を横目に湖の西側を通り、すっかり暗くなった頃にやっと日本海が見えてきた。 敦賀の港に到着して、ひとまずその周辺で一日目の夜を迎えることにした。 寒くもなく暑くもない、風のない静かな夜。 目の前の日本海は不気味なほどに凪ぎ、ほんのり湿気を帯びた空気が漂っている。
今夜、私はどこに寝てもいい。 不安など何もなく、ただそれだけのことなのに、叫びだしたいほどの自由がそこにはあった。
それから福井、富山、石川を通り、新潟へと進んでいった。 がむしゃらに進む日もあれば、のんびり進む日もあり、ぶらりと町や村や山、自動車の通れないような海沿いの崩れかけたトンネルに寄り道する日もあった。
北上するにつれ、日に日に気温は低下し、京都を出発した頃には半袖だったのが、新潟の北部に差しかかる頃にはその上に長袖とレインジャケット、さらに山形に入ってからは中にフリースを着込んでいった。 その辺りから、道端に生えている草が急激に変わっていき、木々の緑も深い色から淡い色になっていった。 遠くに見える鳥海山の残雪が美しかった。 初夏の薫りなどどこにもない、東北はまだ春の真っ只中にあった。
天気のいい日は海岸にたたずみ、日本海に沈んでゆく夕陽をいろんな場所で見た。新潟では入り組んだいくつもの厳しい峠を越えた。 山形では夜中に、小さな村の中心部にある足湯で温まり、村の人と話をしながら疲れを癒した。 秋田ではあまりの強風に、ペダルを漕いでも漕いでも進まなかったり、テントが飛ばされそうになったこともあった。 どしゃ降りの雨に打たれながら走ることもあった。
そして京都を出発してから15日目、ついに秋田と青森の県境を示す看板が見えてきた。 快晴の空の下、国道101号線をゆっくりと走り、私はあまりの嬉しさに大声を上げながら県境を越えた。
荒々しい岩に日本海の波が打ちつけ、背丈の低い草が海岸沿いで揺れていた。 そんな人を寄せつけないような風景がそこからしばらく続いていった。 1時間に自動車が1台通るかどうかで、民家も滅多にない。 波の音と風の音がただ聞こえている。妙に静かで妙に不気味な雰囲気が漂っていた。 自分の生まれ育った青森という土地。 それなのに、あまりにも殺風景なその雰囲気は、まるで地の果てにでも来たかのようだった。
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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