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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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現代の探検家《田邊優貴子》 =90=

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○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 旅に出る理由 = 4/4= ◇◆

  さて、今日はどこに寝ようか。 無意識のうちに、夕方になると寝るのによさそうな場所を探しながら走る癖がついていた。 結局その日は海岸沿いで寝ることにした。 コンロを出し、数日前にスーパーで買ったウィンナーをコッヘルで焼き、おにぎりと一緒に食べた。

  目の前の日本海が荒々しく波の音を轟かせている。 海からの強い風が顔にまっすぐ吹きつけてくる。  空には雲一つない。 太陽が水平線にどんどん近づいていき、波で削られたゴツゴツの奇岩群が真っ赤に染まっていった。 その赤い大きな岩々に幾度も荒波がぶつかっては、砕けたしぶきを水平線に沈む夕陽がオレンジ色に染め上げていった。

 なんだか涙がこみ上げ、溢れそうになった。 目の前で繰り広げられている光景の美しさとともに、“私は生きている”という感覚が爆発したかのように押し寄せ、私の心を震わせていた。 そして、太陽は水平線の向こうへ消えてなくなり、一瞬のうちに世界は夜になった。 海からの風が強さを増してきた。

  翌朝8時、5月の澄みわたった空の下、私は勢いよくペダルを踏み、意気揚々と出発した。 福井に出てからずっと日本海沿いを走ってきたが、ついにこの日、進路を東へと転換させた。 懐かしい匂い。

 まだ頂上に雪を冠った岩木山がそびえ立つ津軽平野には、りんごの白い花がどこまでも咲き乱れていた。 午後4時過ぎ、とうとう実家に到着した。 自転車に乗って実家の庭に帰ってくるなんていうのは高校生以来のことだった。

  自転車に乗って京都を出発してからというもの、毎日、寝る場所を探し、テントをたて、朝昼晩の食事の心配をし、空を見上げては天候を読み、風の匂いと目の前に広がる風景から季節を知った。 いくつもの心震える風景、できごとに出会った。 私にとって、その一日一日が“生きている”ということを実感させるものだった。

  いつ歩けなくなるかわからない、という単なる漠然とした感覚が、いつの間にか自分の中ではっきりしたものに変わっていた。それは、自分の生きる時間が有限であるという実感だった。 そしてそのことはむしろ、生きていくことへの大きなパワーになりうるものだった。 心震えること、自分の持ち時間が限られていること、これらは私が生きる大きな原動力なのだとわかった。

  凍っていた心はすっかり融けきって、それどころか、これまで感じたことのないようなスーッとした気持ちが芽生えていた。 胸のなかがスッキリと晴れわたっていた。  “好きなことをしよう”  なんでもない、ただそれだけのことだった。

 ペルーで出会ったあの星空、エチオピアで見たオレンジ色の月の出、アラスカで出会ったいくつもの風景、出来事、急激に訪れた秋、生きものたちの輝き、人の気配のない世界、果てしない原野の広がり、雪と氷に覆われた世界……。


  いくつもの心震える光景が浮かんでは、どんどん強い光となって煌めき始めた。 “とてつもなく大きな自然とかかわって生きていこう。 そう、それも地球の果ての”

  それから一年後、私は東京へ引っ越すことになった。 京都の家を引き払い、友人たちに別れを告げて出発した。 東京へ向かう車のなか、ステレオにつなげたiPodから、くるりの「ハイウェイ」が流れてきた。 “僕が旅に出る理由はだいたい100個くらいあって……”  

   私は口ずさみ、これから始まる北極や南極での研究に胸を踊らせながら、自転車や引っ越しの荷物をいっぱいに詰めた車で高速道路を軽快に走っていった。

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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