◆ カール大帝によってでっち上げられた「ローマ帝国」が、ローマ帝国の面影はおろか神聖もなくしたフランツ2世がコルシカの山師の蹂躙によって800年以上の歴史に幕を下ろす(1806年)。 ◆ 戊辰戦争における官軍の英霊をもって、朝敵の怨霊を調伏する目的で靖国神社を鎮座せしめる(1869年)。 ◆ スイス在住のソフトウェア技術者・ティムが「こんなの作ったんだけど結構面白いwww」とインターネット上でWorld Wide Webを公言(1991年)。
◎ ◎ 特別企画:パリオリンピック2024に向けて、セーヌ川再生の物語 =前節= ◎ ◎
- - -「清流ではないが、水中にすむ生物にとっては健全な状態だ」- - -
=National Geographic Journal Japan 〉ニュース〉旅&文化〉
・・・・2024.06.29 / 文=Mary Winston Nicklin/訳=夏村貴子
15億ドルもの資金を投じて浄化作戦が進められているセーヌ川は、今年の夏に開催されるオリンピック・パラリンピックで主要な役割を果たすことになっている。パリの街を流れるこの川は開会式の舞台であり、すべてが計画通りに進めば、3つの水泳競技の会場になる予定だ。
かつてセーヌ川では、日光浴や川遊びに興じたり、川の水を使ったデリニー・プールでビキニ姿を披露したりと、パリ市民の遊び場だった。だが、そうした娯楽は水上交通や水質汚染を理由に100年以上前に禁止されていた。それが変わろうとしている。
セーヌ川の安全性をアピールしようと、パリ市長のアンヌ・イダルゴ氏は、五輪開幕前に川で泳ぐつもりだという。2024年6月末に予定していたが、フランス総選挙に配慮して「日程を変更する」と市長は記者会見で述べた。また、最近の水質検査で、川の水には安全ではないレベルのバクテリアが確認され、遊泳は市長の健康を害するおそれがあるという。
しかし、大会組織委員会は、オリンピックはこの歴史ある川の新時代の幕を開く、という期待を捨てていない。(参考記事:「オリンピックの驚きの歴史、古代ギリシャから東京まで」) https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/web/15/327803/070600036/
「私たちの目標は、オリンピック・レガシー(開催地に長期的に残る良い影響)をもたらすことです」と、オリンピック・パラリンピックおよびセーヌ川担当のパリ副市長であるピエール・ラバダン氏は言う。「つまり、あなたや私、あるいはパリを訪れる誰もが、セーヌ川で泳げるようになることです」
何世紀もの間、セーヌ川はごみ捨て場だった。洗濯で汚れた水や人の排泄物が流され、中世の頃の肉屋は処理した肉の残りを投げ捨てていた。
19世紀、工場や家庭から出る汚水はセーヌ川に直接流されることが多かった。19世紀後半に、セーヌ県知事で男爵のジョルジュ・オスマンによる都市大改造計画のもと、画期的な下水道網が新たに整備された。パリにとって工学的には大成功だったが、セーヌ川にとって衛生上は有害であった。
現在、新たな技術を駆使して川の再生が図られている。パリは2025年夏までに、川沿いに公共の遊泳スポットを3カ所オープンさせる予定で、汚れた川を美しく変貌させようとしている。
数十年に及ぶ河川の再生事業
セーヌ川の水質をめぐる潮目が変わったのは、1991年にEU(欧州連合)が水質汚染の主な原因である都市排水に関する法案を可決したときだ。
パリ首都圏の衛生当局は、下水道網の近代化に向けて大きな一歩を踏み出した。まず、首都圏の下水のうち、4分の3を処理するセーヌ・アヴァル下水処理場への大規模なインフラ投資などを行った。
その後、2015年にパリは「遊泳計画」を打ち出した。計画にはセーヌ川と支流のマルヌ川を浄化し、2024年のオリンピックまでにセーヌ川を泳げる川にするための具体策が盛り込まれた。これはオリンピック招致成功の決定打となった。(参考記事:「せせらぎの再生を目指して パリの地下に埋められた幻の小川」) https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/21/021700079/
この計画で、これまで未処理のまま排水を川に流していた2万3000戸以上の住宅およびハウスボートが市の下水道につながれることになる。 「オリンピックのおかげで計画が加速しました」とラバダン氏は言う。「オリンピックがなかったら、おそらくあと10年はかかっていたでしょう」
浄化の効果は下流の都市部流域で実感されている。
「セーヌ川の状態が今はよくなっていることを知らない人がパリにはたくさんいます。『清流だ』とは言いませんが、水中にすむ生物にとっては健全な状態です」と、環境教育施設「メゾン・デ・ラ・ペッシュ・エ・デ・ラ・ネイチャー」ディレクターのサンドリーヌ・アルミライル氏は説明する。「私たちは水質を、何が生息しているかという観点で見ます。生息している種が多いほど、環境は健全です」 (参考記事:「パリ、セーヌ川に戻ってきたサケ」) https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/1599/
パリ郊外で育ったというアルミライル氏が子どもの頃は、わずか4種類の、いずれも汚染に強い種の魚しか生息できなかった。事実、1970年代まで、パリのセーヌ川下流は生物学的にはほぼ死滅した状態だった。現在は、36種の魚が生息している。 「すなわち、水質は大きく改善しています」と、アルミライル氏は力説する。
施設の水槽には、700本の歯を持ち、アルミライル氏が「川のサメ」と呼ぶ獰猛(どうもう)なカワカマスなど、現在セーヌ川に生息しているさまざまな種の魚が展示されている。施設では魚の産卵に必要な水際環境の再生にも取り組んでいるという。施設周辺の河岸にはカワセミのつがいが巣作りをする姿が見られる。セーヌ川に巣作りをしに戻ってくる鳥が増えていることを示す一例だ。(参考記事:「千歳川、野鳥に近づけるカフェをつくった理由」) https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/112900520/
・・・・・・・・明日に続く・・・・・
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