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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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現代の探検家《田邊優貴子》 =85=

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○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 旅、旅、旅 = 2/3= ◇◆

 いまだにその光景は色あせることなく心に残っている。 あれから、アラスカ、カナダ、南極、さまざまな場所で満天の星空を目の当たりにした。 けれど、私の中で一番の星空は、やはり、あの夜の、チチカカ湖の島で見た星空だ。 南極や極北の地で見た星空にくらべれば本当のところ星々の明るさや数では劣るのかもしれないが、あの星空は私にとって大切なことを初めてはっきりと気づかせてくれた空なのだ。 

大いなる自然へのひれ伏すような心の震え。 今となってはもう当たり前で、とても単純なことでしかない感覚なのだが、あのとき、あの星空によって、私という人間を知ることができたような気がするのだ。

 ペルーから京都に戻ると、大学生としてのいつもの日常が待っていた。 あの旅のことを周りの友人たちにどんなふうに伝えていいのか、自分の中でどう吸収していいのか、いろいろ考えたのだが、無理だった。 結局、核心の部分は何も話すことができなかった。

 どこかに違和感を抱えながら大学のキャンパスを歩き、アルバイトでお金を貯め、時間を作ってはバックパックで旅をする。 そうやって時間が流れていった。 ペルーであの星空に出会ってからというもの、私の旅はもっぱら大きな自然を求めるものばかりになっていった。 大学4年になるころ、周りの友人たちは研究室に入り、卒業論文や就職活動に忙しそうだった。

 そんな中、私は大学を一年間休学することに決めた。 将来どうしたいのか何も見えないのに、このまま流されるように進んではいけないような気がしていた。 何よりも、私にはどうしても行きたいところがあった。 いつか絶対に行きたい、そう思い続けながら機会を逸してなかなか行けずにいた場所。 そこへ行ったからといって何があるわけでもない、確固たる何かを求めていたわけでもない。しかし、今、行かなければならないことだけはわかっていた。

 それが、アラスカだった。 小学生の頃、家でテレビを観ていた私は、突然流れ始めた映像に目が釘づけになった。 映っていたのは、夜空をゆらゆらと舞う神秘的なオーロラ、氷河とクジラの海、真っ白で険しい山々、ツンドラの原野、蛇行する川、そこに生きるグリズリー、カリブー、ドールシープ……。

 何の番組だったのかは覚えていない。 ただ、とにかくいても立ってもいられない気持ちになったのをよく覚えている。 それからというもの、近所の草むらで遊んでいても、フッと風が吹くだけで胸がワクワクした。 風が吹いて草がなびくと、その風をつかまえようと夢中で走って追いかけた。

 “この風はどこからやって来たんだろう? もしかしたら遠いどこかの国、いや、もっともっと遠い地球の果てで生まれてやってきた風なのかもしれない。 あのオーロラが空で揺れているとき、もしかしたらまさにその瞬間、この風はそこで生まれたのかもしれない” そんなことを思うようになった。

 とにかく、あの映像との出会いは、子どもながらに世界の広がりと時間の流れというものを初めて意識した出来事だったように思う。 大学を休学した私は、約8か月間ひたすらアルバイトをしてアラスカ行きの費用を貯めた。 その間も、旅の計画を練っては胸がザワザワするのを感じた。 はっきりとした行き先はなかなか定まらなかったが、出発時期だけはすぐに決まった。

 冬がいい。 12月になったら出発しよう。そして、まずはカナダのロッキー山脈辺りに行って、それからアラスカのブルックス山脈の周辺に行こう。 2000年12月、ついに私は日本を出発した。 不安なことなど何ひとつなく、これから向かおうとしている世界にただ胸を躍らせていた。 とにかく出発すること、それだけだった。 21歳の冬、もうあと数日で22歳になろうとする頃だった。

  まずカナダに入った私は、ロッキー山脈の麓の小さな町に滞在しながら旅をしてまわった。 気温はマイナス30℃まで下がり、すぐに夜が訪れる。 吐いた息ですぐに髪の毛が凍りつく、キンとした空気が漂っている世界だった。 山間部には、いくつもの氷河と湖があり、どの湖も分厚い氷で覆われていた。

 ある静かな夜、湖の氷の上に立つと、その氷が驚くほどどこまでも透明なことに気づいた。 足下をのぞくと、湖底に沈んでいる倒木や枯れ葉……分厚い透明な氷の下にある水中の世界がはっきりと見えた。 月の光が足下で柔らかく反射し、まるで自分が水の上に浮かんでいるような錯覚に陥った。 天上には満月が上がっていた。

 月夜の凍りついた静けさ。 山々は雪のベールで覆われ、湖の中の世界は氷づけにされている。 動くものは自分以外何ひとつない。 なんて美しいのだろう。 あまりにも神秘的で、時が止まったかのような夜だった。

 

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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