○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子= ○
= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =
◇◆ 旅、旅、旅 = 3/3= ◇◆
1月になり、ついにアラスカへ旅立つことにした。 バンクーバー空港からアンカレッジへ向かう飛行機の中、私はずっと窓ガラスに顔を押し付けて外の風景を見ていた。 眼下には、竜の背中のようなゴツゴツとしたロッキー山脈がどこまでも広がっている。
雲が徐々に増え、いつのまにか機体の真下はすっぽりと雲に覆われてしまった。 すると、突如、その雲を大きく突き抜けて赤く輝く山が見えてきた。 それこそが、かの有名な山、マッキンリーだった。太陽高度がどんどん低下し、雲はオレンジ色とピンク色に染め上げられた。
いつかテレビで観た映像と目の前の風景がオーバーラップし、私はどうしていいかわからない思いで見つめていた。 その後すぐ、飛行機はアンカレッジ空港に到着した。 アラスカに降り立つと、すぐにブルックス山脈の周辺を目指した。なんとか人口50人ほどの小さな村へたどり着き、その村にしばらく滞在させてもらえることになった。 ちょうど北極圏に入った辺りに位置している村だった。
果てしなく広がる雪原に、まばらに生える針葉樹林。 大きくそびえ立つブルックス山脈の峰々は分厚い雪に包み込まれている。 昼間になると辺りはピンク色の光で染まり、すぐに暗い夜がやって来る。 そして、夜になると気温はマイナス45℃まで下がる。 そこは一日のほとんどが夜に支配される世界だった。 ずっとずっと憧れ続けていた世界が、まさにそこにあった。
私がその村を目ざした理由のひとつは、オーロラだった。 その村はオーロラ帯の真下の山麓に位置し、町からもはるか遠く離れ、周囲から隔てられている。絶対に素晴らしいオーロラが見える確率が高いと思っていた。 私は映像でしか観たことのないオーロラを、どうしても自分の目で見てみたかった。
それも、町の中ではなく、真っ暗な原野の中で、とびっきりのものを見たい……そう考えたのだ。
しかし、毎晩のように待ってもなかなか見ることができずに時間は過ぎていった。 ある快晴の夜、今日こそはと祈るような思いで私は空を見上げていた。 真っ暗闇の中、天上には無数の星。北極星はほぼ真上に瞬いている。 こんな快晴の日は今までになかった。 足下からどんどん体温が奪われ、痛いほどの冷たさが伝わってくる。 フェイスマスクを外して直接空気を吸うと、鼻と肺が痛い。 時折吹く小さな風がわずかに木々を揺らし、かすかな音が聞こえる。
やがてすっかり風は止み、木々が揺れる音も闇の中に消えていった。空 ににじんでいる星の光さえも凍りつき、今にも落ちてきそうな夜だった。 じっと見つめていた北極星の横に、ぼんやりとした細長い煙のような雲が現れ、やがて緑色の光となって揺らめき始めた。 それはゆらゆらと、ゆっくり形を変えながら上空いっぱいに広がっていった。
「わあ───っ!」 初めて見たオーロラだった。 無意識に声が出て、寒さも忘れ、私は雪原の上に寝転んだ。 オーロラはみるみる輝きを増し、激しく形を変えながら一瞬にして全天を覆ってしまった。 オーロラの光で針葉樹林のシルエットが浮かび上がり、一瞬燃えるような強い光に変わると、周囲の山々が緑色に染まった。 不気味なほどの静寂の中、空から音が聞こえてくるような気がした。
私の鼓動は速くなり、もはや言葉も失っていた。気がつくと涙がにじんでいた。 この旅を、最後の長期バックパックの旅にするつもりだった。 学部を卒業すれば、もうこんな旅はできなくなるだろう。 だからこそ1年間休学をして、念願だった極北の地へ旅をすることに決めたのである。 大学の4年間、さまざまな旅をしてきたが、これほどまですべての物事に心が震え続けた旅はなかった。 最後の旅としては最高の締めくくりだった。
京都に戻った私はそのまま大学院に進学し、研究者を志し始めた。 しかし、研究室での毎日に追われながらも、心の片隅にはいつもどこかにあのアラスカでの日々があった。 冬の寒い朝、大学までの道を歩いているとき、実験室で作業をしているとき、研究室の窓から見える空が夕焼けのオレンジ色に染まったとき。 アラスカのほんのりピンク色に染め上げられた雪の世界と、オーロラがゆらゆら舞う夜空を想った。 それだけで世界が果てしなく無限に広がるように感じ、日に日に思いは募っていった。
2003年8月、私はアラスカ行きの飛行機に再び乗りこんでいた。 もはやじっとしていられない。 もう一度行きたい。 ただそれだけだった。 それは24歳の夏。 あれから2年が経っていた。
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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