本日記載附録(ブログ)
ロシアがウクライナに侵攻した背景とその行方を広厚に理解すべく、旧ソ連諸国紛争や「未承認国家」「ハイブリッド戦争」の著作
日本の政治学者=国際政治・比較政治学・コーカサス地域が研究テーマ
=黒海地域の国際関係・政治経済変動などが主な業績=
研究課題“ロシアのハイブリッド戦争とその影響”/‘14年12月以降 継続中
【この企画はWebナショジオ】を基調に編纂(文責 & イラスト・資料編纂=涯 如水)
廣瀬陽子(07/nx)
◇◆ 第3回 ナゴルノ・カラバフ紛争と「旧ソ連の戦争の中身」 =2/4= ◆◇
使われる文字も、当時はキリル文字、より正確には、ロシア語のキリル文字とは少し違う、アゼルバイジャン語独特のアルファベットを含んだ、アゼルバイジャン・キリルが使われていたそうだ。それが、2003年1月に禁止され、アゼルバイジャン・ラテン文字に移行し、ロシアの文化圏から距離を取る動きが強くなっていく。
「それでも、年配の方の中には、ソ連時代は安定していた、文化に触れる機会が多くて豊かだった、余暇が充実していた、格差が少なかったとノスタルジーを語る方もいましたし、やっぱりアイデンティティが揺れ動いている時期だったんです」
ペレストロイカ後の分断されていく旧ソ連諸国、あるいは、分断後の旧ソ連諸国を見たいという目論見を持っていた廣瀬さんにとっては、やはり非常に適切な地域で、適切な時期だったといえる。
では、「ナゴルノ・カラバフ共和国」という未承認国家は、どのように誕生し、現在へとつながってきているのだろう。
最初に廣瀬さんは、大局的なことを述べた。
「ロシアにとって、旧ソ連地域は、『勢力圏』として堅持していかなければならないというのが最も重要な外交方針です。そして、勢力圏を守るためにロシアが使う手段として指摘できるのは、政治、経済、エネルギー、未承認国家の4つでした。勢力圏に留めたいのに、ロシアに対して従順ではない国に対しては、例えば関税を高くしたりとか、本来であれば旧ソ連諸国はビザなしで移動できるはずなんですけど、ビザを要求したりとか、いろんな形で圧力をかけてきます。そのような、政治、経済の部分での圧力があるわけです。また、エネルギー価格も友好国と非友好国で値段が違うんですよね。かわいい国には安くするけど、憎たらしい国には高くする。それらに加えて、未承認国家というのが、ロシアの外交カードだったわけです」
ロシアの行動原理として、その勢力圏を維持したいという強い方針がある。旧ソ連諸国は、その勢力圏を維持すべき最たる地域だ。そして、ロシアは、その手段の一つとして「未承認国家」を利用するというのである。
「ナゴルノ・カラバフは、アゼルバイジャンにありながらアルメニア人が多い地域で、ソ連時代は、アゼルバイジャンの自治州でした。それをアルメニアに移管してほしいという運動が1987年から88年頃にかけて起きました。まだソ連があった頃です。最初は平和的な運動だったのですが、88年、アゼルバイジャンで起きた『スムガイト事件』をきっかけに民族間の闘争になりました。そして、ソ連解体後には、激しい戦争になっていきます。アゼルバイジャンではアルメニア人が、アルメニア、ナゴルノ・カラバフとその周辺地域ではアゼルバイジャン人が、それぞれ民族浄化の対象になりました」
民族浄化とは、英語の「エスニック・クレンジング」の和訳で、1990年代の前半から使われ始めた比較的新しい言葉だ。複数の民族集団がある地域で、多数派が少数派を、同化、強制移住、大量虐殺などで、抑圧することを指す。アゼルバイジャンとアルメニアは、互いにその民族浄化を試みたため、大量の難民と国内避難民が生じた。
その引き金を引いたスムガイト事件とはどんなものだったのか。2000年当時、アゼルバイジャンで調査をしていた廣瀬さんは、真偽のほどが確認しようもない様々な物語を採録することになった。
「スムガイトというのは、アゼルバイジャンのカスピ海に面した都市です。そこで、アゼルバイジャン人がアルメニア人を『虐殺』したことがきっかけになって両方の民族浄化にまで至ったという話なんですが、これを、アゼルバイジャンで聞くのと、アルメニアで聞くのでは、全然、違うんです。もちろん、アルメニアでは、『アゼルバイジャン人によるアルメニア人の虐殺』ですが、アゼルバイジャンでは、全部アルメニア人がソ連共産党の支援も得て仕組んでやったとされます。つまり、アルメニア側の陰謀だという話です」
・・・・・・・・明日に続く・・・・・
【参考資料】 : =国際秩序のゆくえ= : ロシアと「近い外国」(2/3)
Ω・Ω・Ω 廣瀬陽子─ウクライナ危機で変わる関係性─2022/07/05 -- Ω・Ω・Ω
つまり、ウクライナ軍は大きく変貌していたにも拘らず、プーチンはクリミア併合の成功体験をそのままウクライナ全土で再現できると考えていた節がある。しかし、ウクライナ軍の士気は高く、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領のリーダーシップが発揮され、そして国民が一丸となってロシアに立ち向かってきただけでなく、国際社会はウクライナ支援で堅固にまとまり、経済制裁など様々な手段がロシアに対して講じられている。
他方、ロシア軍の士気は低く、補給や指揮命令系統もうまく機能せず、そもそも長期戦を想定していなかったため、全てが準備不足という状況で、苦戦を強いられている。
そのような中で、ロシアの当初の目標とは悉く逆行する現実が浮かび上がっている。特に大きなものは以下の3点だろう。
第1に、ロシアはNATOの東方拡大を阻止したいという目的を持っていたはずだが、今回のロシアの暴挙を受け、これまで長年中立を維持していたフィンランドおよびスウェーデンがNATO加盟申請に踏み切ってしまった。現状では、NATOメンバーのトルコが同2カ国の加盟に反対しているとはいえ(6月現在)、NATOの「北方拡大」はほぼ確実になったと言えるだろう。
第2に、世界でロシア語を話す人やロシア正教を信じる人の連帯を示す「ルスキー・ミール(ロシアの世界)」を振興するなかで、ウクライナをしっかり取り込むことを目指していたはずだが、ロシアの一連の戦闘や残虐行為により、ウクライナ人の反露感情は究極まで悪化したことは間違いない。このような状況では、仮にロシアがウクライナを軍事的に制圧できたとしても、抗議行動など、ウクライナ人による激しい反発が永遠に継続していくと考える。
第3に、ロシアの影響圏をしっかり手中に収め続け確保するという目標も、ロシアが影響圏の中でも最も重要だと考えている近い外国がロシアを軽侮しはじめたことによって、崩れつつあると言える。何故なら、ロシアから見ればウクライナというのは、ロシアと比して、軍事規模も全く異なる小さな国のはずであるが、そのウクライナ相手に苦戦するロシアの姿は、これまで「長兄」としてロシアを恐れてきた多くの旧ソ連諸国にとっては衝撃的であった。すなわち、旧ソ連諸国は「今まで恐れていたロシアはこれほどまでに弱かったのか」と驚き、もはやロシアは恐れる対象ではないと感じたのだった。そうなれば、もはやロシアは近い外国を統制できなくなり、旧ソ連諸国もロシアに対して遠慮をしなくなるはずである。つまり、ウクライナ侵攻という泥沼から抜け出せなくなっている間に、ロシアの影響圏は自壊しつつあると言ってよい。
次回は“座談会:ウクライナ侵攻後 世界はどう変わるのか”
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https://youtu.be/sFoLujbPhAQ ==アゼルバイジャンとアルメニア、戦闘の理由は==
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