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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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現代の探検家《小林快次》 =36=

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○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 世界中を飛び回り、恐竜の姿を求める / 小林快次 ○

◇◆ 第6回  “師匠"フィリップ・カリー教授との議論 =6/9= ◇◆

 タルボサウルスの鋸歯の幅は、1ミリと大きく、デイノケイルスに残された痕と一致する。  さらに、その鋸歯の形から推測される溝の形もU字型であり、これも一致する。 デイノケイルスを食べていた犯人は、ティラノサウルス科であるタルボサウルスだったのだ! さらに興味深いのは、その傷が残されたのが腹肋骨であるということだった。  デイノケイルスの産地からは、肩の骨、腕の骨、そして脊椎骨が発見されているが、それらには噛み痕がない。

  一方で、お腹に位置する腹肋骨に噛み痕が集中しているということは、タルボサウルスがデイノケイルスのお腹の部分を食べていたということを示す。 巨大で獰猛なタルボサウルスが、血まみれになりながら巨大なデイノケイルスの内蔵をあさっていたことが想像できる。

 デイノケイルスの産地に残されたたった2本の腹肋骨。 これらの骨から多くの情報を得ることができた。  しかし、それでも私たちが追い求めている「謎の恐竜デイノケイルスの解明」にたどり着くことはできなかった。

  「もっと骨化石が残ってると思ったけど無かったね。  一体どこにいけばデイノケイルスの化石が見つかるんだろうか……」

 私はつぶやいた。  やはり、謎の恐竜は謎のままで終わってしまうのだろうか……。

  カナダ・アルバータ州では、恐竜研究が盛んである。 アルバータ州の州都のエドモントンには、アルバータ大学のフィリップ・カリー教授。  アルバータ州最大の都市であり1988年冬期オリンピックが開催されたカルガリーには、カルガリー大学のダーラ・ザレニトニスキー助教。 そして、ドラムへラーという小さな町にある、世界最大級で最高級の恐竜展示がある王立ティレル古生物学博物館の学芸員のフランソワ・テェリエン博士。

 どの研究者も、恐竜研究では第一線を行く人たちである。 彼らがベースにしている発掘地は、アルバータ州南部に広がる世界有数の恐竜化石産地だ。

 この中でも、特に有名なのがアルバータ大学のカリー教授。 私たちは通常フィル(Phil)と呼んでいる。 特に、獣脚類恐竜の研究では有名で、ティラノサウルスを始め、獣脚類から鳥類への進化についても多くの論文を執筆している。

 ちなみに、私の博士号の指導教員の一人でもあり、一般的にいうと私の“師匠"ということになる。 私たちは、現在も謎の恐竜デイノケイルスの正体を解明しようと一緒に研究を行っている。

 風もなく静かな夜、ゴビ砂漠に建てられたテントの中で私が話を切り出す。

「ねぇフィル、デイノケイルスって一体何者だと思う? 確かに全身が発見されるまで解明できないのはわかるけど、すでに発見されている肩と腕の骨だけでも十分なヒントが隠されていると思うんだけど……」

 「デイノケイルスは、不可思議な恐竜だ。あれだけ大きな腕を持っているということは、その体はとてつもなく大きい。その大きさ重要な情報だと思う」
 フィルは、パソコンに写されたデイノケイルスの論文を見ながら答える。

 「以前ヘルシンキの企画展で展示されていた本物の標本を観察した時には、あまりにもオルニトミムスの仲間(オルニトミモサウルス類)の腕に似ていてびっくりしたよ。全く先入観なしで、展示室に入って角を曲がったら、そこに巨大な腕があって、『こんなにでかいオルニトミムスの仲間なんていたっけ? あ、デイノケイルスか!?』と思ったくらい。デイノケイルスって、オルニトミモサウルス類だと思うんだけどな〜」

 モンゴルのオルニトミモサウルス類、ガリミムスとアンセリミムスの骨格の写真を私のパソコンに写しながら答える。

 「デイノケイルスが発見されているネメグト層という地層からは、同じように腕のでかいテリジノサウルスという恐竜が発見されている。 これだけ巨大な腕を持つ恐竜同士は、何らかの関係があったに違いないんじゃないだろうか。 デイノケイルスはテリジノサウルスに近い恐竜だと思うよ。バルズボルド博士(モンゴルの恐竜研究者)が1976年に提唱しているようにね。 デイノケイルスとテリジノサウルスで、“デイノケイルス類"ってね……」

 決して自信がある言い方ではなく、肩をすくめながらフィルは答えた。

 この連載の第三話でも少し紹介したが、私はオルニトミモサウルス類の恐竜を研究している。 私の考えでは、デイノケイルスはオルニトミモサウルス類の仲間である可能性が高いと考えていたが、ここで“師匠"であるフィルと意見が割れてしまった。 この会話の時に、私は研究上のバトルを宣告した。 と言っても、非常に友好的なバトルであり将来の研究につながる意見の不一致であった。

  「じゃあ、フィルはテリジノサウルス類、俺はオルニトミモサウルス類という意見だね。どっちが正しいか。将来の発見と研究が楽しみだね!」

 少し話は逸れるが、「新聞やニュースで、歯化石一本から恐竜を特定していたりしていますが、どうやってわかるのですか? どの程度の骨格が発見されれば新種かどうか断言できるのですか?」と聞かれることがある。
 簡単にいえば、その恐竜にしか見られない特有な形(固有派生形質という)が見つかれば、歯一本でも同定できる。逆に言うと、どれだけ多くの骨が発見されても(例えば肋骨)、その骨に特徴が無ければ同定は困難を極める。

 主なデイノケイルスの化石は、肩の骨と腕の骨。これだけで、十分ではないのか? これまでの研究では、“不十分"と見なされ、謎の恐竜として有名になってしまった。 ヘルシンキで見た時に、確かにオルニトミモサウルス類の腕にそっくりだった。しかし、そっくりだということでは化石の同定にはつながらない。

 ただ私には、デイノケイルスがオルニトミモサウルス類であるという根拠があった。オルニトミモサウルス類の仲間たちのみが共有する特徴(共有派生形質)が、デイノケイルスに見られるからだ。それらの特徴の三つを紹介する。    ・・・・・続く


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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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