ちょっと間抜けで憎めない、いや、愛すべき容貌をしたクマムシ
低温にも負けず、高圧にも負けず、乾燥にも放射線の照射にも負けず
2700メートルの海底から標高5000メートルくらいの山まで、頑健丈夫な体で生き抜く
華の都パリでそんな“かわいいけど最強”の生物・クマムシを研究する栃本武良
【この企画はWebナショジオ_“日本のエキスプローラ”/研究室にいって来た”を基調に編纂】
(文=川端裕人/写真=川端裕人・堀川大樹 & イラスト・史料編纂=涯 如水)
◇◆ クマムシ/堀川大樹 : 番外編 エッフェル塔でクマムシ探し ◆◇
研究は、愛である。
対象への愛がないと、なかなか続けられない。というようなことを書いた。
ということで、ぼくは、最後の最後に、堀川さんとともに、パリのクマムシと愛を深めることにした。せっかくここまで来たのだからと、ぼくもその「深まり」に混ぜていただくのである。
というのも、前述の通り、ぼくは『クマムシ?!──小さな怪物』という本を読んで感激し、クマムシを観察するために双眼実体顕微鏡を購入したのだが、いまだ観察に成功していないのだ!
採集場所は地下鉄でほんの10分もかからないエッフェル塔にて。
平日の昼間というのに、ディズニーランドか! とツッコミを入れたくなるほど混雑した塔の下の広場を抜けて、観光客の流れをまるっきり無視しつつ、足下を見ながら歩いた。
「これ、どうですか」とぼくが路上の苔を指さしても、「うーん、いまいちですね」と堀川さんは首を横に振る。
クマムシは苔の中に潜んでいる訳だが、採集して観察しやすいものを探すにはそれなりの判断条件があるようだ。
「もっと乾いていないと……」と堀川さんは何度かつぶやいた。
そして、ここ! と堀川さんが指さしたのは、ぼくの目には苔には見えず、むしろ、茶色い土がむき出しになっているのでは、と思うほど乾燥しきった苔なのだった。
もちろん、緑色の湿った苔にもクマムシはいる。でも、ほかの小さな生き物もたくさんいるためクマムシを探し出すのが困難だという。その点、乾いた苔なら、乾燥に弱い生き物は死んだり逃げ出したりして、乾眠しているクマムシの割合が高まるから、発見が容易、ということらしい。
レッスン1 カリカリに乾いた苔を狙え!
この時点で、ぼくは自分がこれまで何度か試した際、クマムシを発見できなかった理由がはっきり自覚できた。ぼくは、はっきりと苔と分かる緑色のものばかり採っていたのだ。
とにかく、スプーンで軽く掘り起こし、封筒の中に収めた。
なお、はじめてクマムシ採集に挑戦するアマチュアの場合、発見できる可能性は20%くらいという法則があるという。だから、ここぞ、という場所があったら、できるだけ多く苔を採集しておくのも大事だという。
レッスン2 できるだけたくさんの場所から採集!
ちなみに、堀川さんのように「クマムシ眼」を身につけると、半分以上の割合で発見できるそうだ。というわけで、エッフェル塔のふもと、2カ所から苔を研究室に持ち帰った。
すぐにシャーレに移し、水をかける。
ここでさらにもうひとつ秘訣があった。
レッスン3 クマムシが乾眠から戻るのを待つには、水をかけて10時間!
なるほど、せっかちにすぐ観察しようとしても見つからないはずだ。自分のあやまちをまたも発見。
ただ、取材で研究室にお邪魔してそのまま10時間待つのも難しいので、とりあえず昼食を2人で食べることにした。最寄りの地下鉄駅パストゥールの直上にある、その名もパストゥール・カフェ。細菌学の祖の名を冠したカフェで、クマムシの乾眠あけを待つというのも、実にふさわしい。
かつて、クマムシの乾眠状態を「死亡している」とし、水を与えて活動し始めた状態を「乾燥した物質からの新たな自然発生」と考えられていた時期があるそうだ。パストゥールによる有名な「白鳥の首フラスコ」の実験などで自然発生説そのものが否定されたことで、乾眠は死ではない、という考えが定着するようになった、とか。
そんな蘊蓄などを語り合いつつ、メニューにあったパストゥール・バーガーなるものを食べ、お茶を飲み、ケーキをいただき、まったりとフランス風に2時間超のランチタイムを過ごしてから、研究室に帰還した。=写真=
2時間でも、乾眠から醒めて動き出す奴はいるらしいので、それに賭けて、観察開始。
堀川さんが、ライカ製の双眼顕微鏡をのぞき込み、しばらくすると、おごそかに、「いました」
と言った。
ピペットでそいつを吸って、取り分ける。見つけるたびに、同じことを繰り返して個体密度を高める。
その状態でぼくに見 せてくれた。
いるいる、パリのクマムシ。
堀川さんが飼育しているヨコヅナクマムシとは、風貌がかなり違う。そもそも体色がほとんど透明なのだ。チョウメイムシ属のクマムシだそうで、これもわりとどこにでもいるものらしい。
体が透明なので体内に卵を持っているものも分かりやすい。卵を持ったままさっきまで乾眠していたのかと思うと感慨深いものがある。
また、てくてく「緩歩」しているやつなど、実に愛らしい。たまたま目がこっちを向いているやつは、なんだか笑っているように見えた。
間違いなく愛の深まりを感じてしまい(笑)、帰国してから苔の採集のタイミングを待っているのだが、雨が多く乾燥した苔を見つけられず、今のところ果たせずにいる。
次回は新企画“国立民族学博物館 文化人類学 吉田憲司”に続く・
イラスト: 堀川大樹-052
◆ Water Bears in HD ◆
動画のURL: https://youtu.be/aHsVyb_VfeA
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