○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 世界中を飛び回り、恐竜の姿を求める / 小林快次 ○
◇◆ 第5回 恐竜を研究する意味・・・・ =3/3= ◇◆
恐竜研究は、人のためになっているのか
先の「先生にとって『大発見』とは何ですか」という問いに、私は次のように答えた。
「私たちの研究分野である恐竜は、非常に主観的です。 デイノケイルスに謎が多いというのも、私たち恐竜研究者がそう言うから、謎だということになっていました。
今回発表した発見についても、権威者がそう言うのだから大発見に違いない、世界最高峰の科学誌ネイチャーが論文を掲載するのだから大発見に違いないと、専門家でない多くの人々は考えるでしょう。言い方は悪いですが、専門家の言うことを信じるしかない。
そうなると、『大発見』とは、私たち専門家次第ということになってしまいます。 専門家が『これは大発見だ』と言えば、大発見になってしまう。 言い換えると、私たちが大発見を作り出してしまっていることになる。
しかし、私が考える大発見とは、実は私たちの身の回りに転がっていて、データも現象も見えているのに、それが他とは違う特別なものだと気づいていなかったことに『気づくこと』なのです。 大事なのは、大発見を大発見として認識する能力を高め、それを他の人にわかりやすく説明できるかだと思います」
つまり、「大発見」の基準は相対的なもので、ノーベル賞を受賞するような発見でなくても、ネイチャーに掲載されるような発見でなくても、自分が大発見だと思えば、大発見なのだ。これは私だけではなく、皆に言えることだと思うし、サイエンスの醍醐味につながると思う。
興味をもつこと、好きになることが重要であり、その先に、自分なりの大発見が待っている。
私はサイエンス中毒にかかっている。 サイエンスの面白さに病み付きなのだ。 今年は、カナダ、アラスカ、モンゴルでの調査を予定している。 私は、自分なりの大発見を探しに、世界へ足を運ぼうと思う。 そして、恐竜研究の面白さのほんの一部でも、皆さんに届けることができることを願う。
それと同時に、これを読んでいる皆さんにも、外に出て新しい第一歩を踏み出すことで、自らもエクスプローラーとなり、自分なりの大発見をしてほしいと思う。
ここで再度自問する。 「恐竜研究は、人のためになっているのか」
今、はっきりとした答えはない。 しかし、私が初めてアンモナイトの化石を掘りに行ったときに抱いた、ちょっとした興味。 これが、私の人生を変えた。 もしかしたら、恐竜を切り口に新しい道ができ、子どもたちの夢の選択肢が増えるかもしれない。
私は、自分がサイエンスの面白さを伝えるという重要な役割を担っていると信じている。 恐竜にはその力があり、その力を多くの人に伝える大きな責任が自分にあるように感じている。 非常に大きな責任だ。
私事だが、今年の4月11日に私のおいが亡くなった。 20歳の若さだった。朝、起きてくるのが遅いので部屋に起こしに行ったら、もう冷たくなっていたそうだ。 前夜まではいつもと変わらない生活をしていた。 「お風呂に入ってくる」という言葉を最期に、この世から去ってしまった。
4月13日、おいに会いに東京へ行った。 家に着いたのは夜中だった。 明るい部屋に入ると、真っ白なベッドに横たわるおいがいた。 まるでただ寝ているかのように、きれいな顔をしていた。 本当に今にも起きてきそうだった。
兄が涙をこらえて笑いながら、「どこかにスイッチがあって、そこを押すと起きるはずだ」と、おいの頭をなでて必死にそれを探す。 そんな私たちを見ているのだろうか、おいはうっすらとほほ笑んでいるようにも見えた。
私は、おいにいったい何ができたのだろうか。 確かに世の中の子どもたちには夢を与えられたのかもしれない。でも、すぐ身近にいるおいには何もできなかった。 忙しさに取り紛れて、おいに会うこともなかなかできなかった。悔いが残る。 手足がしびれるくらい、体の中が悔しさで一杯になる。
今、何かおいのためにできることはないのか。 私にしかできないこと・・・。
おいの部屋を見回すと、10年以上前にお土産であげた米国の国旗が下がっている。 あんな昔にあげたものを、取っておいてくれた。 でも、米国に連れて行ってあげることすらできなかった。
私は心に決めた。 今年はおいを一緒に調査へ連れて行く。 一生かけても行けないようなへき地、世界でもごく少数の人しか見られない絶景、厳しい自然に生きる美しい動物たち、経験したことのないようなおいしい料理とビール。 そして、新しい恐竜を見つける興奮。
今年の調査は、彼に捧げようと思う。 そしてフィールドで、彼と恐竜について語り明かそうと思う。
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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