〇◎ “命のことを知らずして、命の大切さは理解できない” ◎〇
= 探検的調査を実践する “探検昆虫学者” 西田賢司 =
【この企画はWebナショジオ_“「コスタリカ 昆虫中心生活」” に追記・補講し、転載した】
☠ 中米コスタリカで新種の昆虫を見つけまくる男! 「バックマン」 ☠
曰く 『昆虫は、僕たちに自然の変化を教えてくれる一番身近な存在です』
◇◆ =102= 謎のトゲトゲ幼虫が成虫に、実は新種だった ◆◇
11月、コスタリカのモンテベルデは風が強くなってきた。晴れるとスグに乾燥が進み、雨が流されてくるとまたしっとり、を繰り返す。雨季から乾季へ向かうこの時期特有の天候に合わせて、多くの昆虫たちが渡りや移動など、乾季に向けた準備を始めたようだ。ハナジロハナグマのピソちゃんたちも、繁殖期前なのか、活発に動き回っている(次のページで紹介します)。
さて、前回見つけた謎のツノゼミのトゲトゲ幼虫はその後どうなったのか。スミソニアン自然史博物館のマケイミー博士から依頼され、3年越しの捜索でようやく探し出し、飼育をしていた。成虫になり、ハイフィノエ・ラティフロンズというツノゼミだとわかれば、博士の期待通りということなのだが。
飼育を始めて3週間、幼虫は無事羽化した。しかし、成虫になったそのツノゼミは、ハイフィノエ属ではなく、アスポナ属だった(上の写真)。ぼくたちが幼虫を捕まえたとき、近くでこの成虫を見つけていたので、もしかしたらという予感はあった。
期待とは違っていたが、それでもマケイミー博士は大喜び。アスポナ属の幼虫は、これまでに知られていなかったからだ。しかも博士が詳しく調べた結果、この種が新種とわかったのだ。ぼくは、このツノゼミにこれまで2回ほど出会っていて、てっきり既に記載され名前が付いているアスポナ・インテルメディア(Aspona intermedia)という種だと思っていた。
「ケンジが撮影したアスポナ属の幼虫の写真がスミソニアン博物館のニュースに載ったよ」と、博士がリンク先を貼り付けたメールを送ってくれた(リンク先はこちら)。スミソニアンのサイトにあるその写真のキャプションを見ると、「トゲに覆われたアスポナ属の1種。マケイミー博士は現在、この種の記述と命名に取り組んでいます」とあった。どんな名前が付くのだろう?
今回の調査で初めて明らかになったアスポナ属の幼虫、そして新種の生態を一部解明できたことは、小さなツノゼミの世界の大きな躍進となっただろう。ぼくもその役に立てて、うれしく思う。
屋根の上からピソちゃんに威嚇された
Ӂ 群れをはぐれた謎の幼虫、昆虫探偵が捜査 Ӂ
12月4日の風の強い午後。ラボの外でノートパソコンを開き、メールの返信などしていると(ここだとネットが繋がる)、Tシャツのお腹辺りを1匹の幼虫が登ってきた。 ハバチの幼虫だ(ハバチは第147回で紹介)。初めて目にする種だった。
ぼくはこれまでにモンテベルデの自宅周辺で8種のハバチの幼虫を確認しているが、そのうち5種について、エサとなる葉っぱ(食草)を記録したのはぼくが最初だ。それぐらい、中南米のハバチの生態はわかっていない。 ぜひ飼育してみたい。とは思うものの、飼育を始めようにもわからないことばかり。この幼虫がいったいどこから来たのか? 何を食べるのか? 「昆虫探偵ニシダ」の推理力が試される場面だ。
『今日、ぼくは森を歩いたりしていないので、幼虫はぼくにくっついてきたわけでなく、歩いてここまで来た可能性が高い。ハバチの幼虫の多くは、群れながら植物のやわらかい若い葉を食べる。近くの植物を食べていたと考えられる』
まずは幼虫のいそうな木を探してみた。条件は、若葉があること、色や模様が幼虫のものと似ていること、葉にかじられた痕がある、他にも幼虫たちがいることだ。
近くのヤブコウジ科の木に若葉がたくさん出ていて、食べられた痕があった。幼虫は見当たらなかったが、まずは可能性の高いこの葉を食べるか、試すことにする。飼育用のビニール袋の中に、幼虫と葉を入れてみた。あと、近くのフトモモ科、ミズキやコナラの若葉も入れておいた。
翌12月5日。最初の試みでは、幼虫はどの葉も食べようとせず、袋の内側の上の方を歩き回っていた。 『幼虫がサナギになる場所を探している可能性も捨てがたい。今度は幼虫を土、枯れ枝、小石などと一緒にシャーレに入れて、マユをつくるかを確認してみよう』
12月6日。幼虫は土の中に潜らず、うろうろとシャーレのなかを歩き回っていた。サナギになろうとしているわけではないようだ。幼虫を飼育袋に戻し、別の植物(キクの仲間2種、ヤナギとマタタビの仲間)も追加したが、幼虫はやはり何も食べない。相変わらず、袋の上のほうをうろうろしている。
『どうしようか? あきらめて、このまま幼虫を保存(茹でてからエタノール漬けにする)しようか? そんなことを考えてしまう。いや、幼虫はまだ元気よく動いている』 もう一度、これまでの幼虫の行動を振り返ってみることにした。
『最初に出会った時、幼虫はぼくのTシャツを上へと登ってきた。袋の中でも上へ上へと向かう。高いところにある何かを目指しているのかもしれない』 幼虫と出会った現場に戻って、今度はそこにある木々を見上げてみた。
すると、ある木の幹の高いところ、地面から4~5メートルあるだろうかという位置に、アツイタ属のシダの仲間が着生しているのが目に入った。かじられた痕もある。シダを食べるハバチはいるけど、アツイタ属を食べるという話は聞いたことがない。でも、もしかしたらもしかするかも。高枝切りバサミで葉を2枚切り落とし、「食べてくれよ!」と袋の中へ入れてみた。
夕方、変化が訪れた。たくさんある植物の中、シダの葉の裏でジッとしている幼虫の姿があった。食べている形跡はないが、落ち着いた様子だ。フンがお尻にくっついていたので、顕微鏡で観察してみる。それは鉄の錆びた色というか赤褐色をしていた。
『あれ?この色・・・以前、アツイタ属のシダに潜るガの幼虫を研究したことがあるが、今回のフンは、そのときのフンを彷彿させる色だ。このシダを食べるかも・・・期待できるぞ!』 夜になってもう一度、袋の中をそっと覗いてみた。えっ、シダを食べている? たしかに食べているではないか!
ホッと一息。「はらぺこだったろうな、よっしゃ~!」 ぼくも晩ごはんを食べることにした。安堵感からか、いつもより食べ過ぎてしまった。翌朝には赤褐色のコロコロのフンもたくさん確認できた。快便のようで微笑ましくなる。「しっかり食べて生き延びてくれよ!」
さて、何を食べるかがわかった。でもハバチは、チョウやガの幼虫と比べると成虫まで飼育するのが難しい。もっと幼虫を見つけたいので捜査開始だ!
まずは、幼虫が食べ始めたシダが生えている木へ。ハシゴを立てかけ、高所にあるシダを調べてみたが、食べ痕のようなものは見つかるものの幼虫は見当たらない。もうどこかでサナギになる準備をしているのかもしれないなと思いながら、ハシゴを降りようとすると、別の木の枯れた太い枝の先のほうに、別のアツイタシダが生えているのが目に入った。
そこには何やらうごめくものが・・・目を大きく見開いた。 「おった~!おるやん!」2匹の幼虫がウロウロしている。そのシダはほとんどがかじり食べられていたので、幼虫たちは次の葉を探しているのだろう。 それは、同じアツイタ属のシダでも、葉がより分厚い種だった。「あんな分厚い葉のシダを食べるんや~」と心の中で繰り返しながら、カメラを取ってきてシダと幼虫を撮影し、何とか6匹の幼虫を採集した。
飼育袋に入れて、最初の1匹とご対面。3日ぶりの再会だったのだろう。分厚いほうのアツイタシダの葉も袋のなかに追加しておいたら、どうやらそちらを好んで食べるようだ。無事に成虫(ハチ)になってくれることを願うばかりだ。
今回の「事件」について、すぐにハバチの専門家と連絡を取ることができた。アツイタシダを食べるハバチの記録は、これが世界初だという。やはり、分厚くて硬い葉を食べるハバチも珍しいとのことだ。 翌日、「みんな無事かな~」と袋内の幼虫の数を数えてみると、8匹だった。あれ?1匹増えているではないか。 どこにいたのだろう?
おかげさまで、この連載は第150回を迎えることができました。いつも、ありがとうございます! どうかみなさまにとって、安全で有意義な年末年始になりますように!
・・・・・つづく
_ Monteverde Costa _
・・・・・・ https://youtu.be/Sfp9F1g26kY ・・・・・・
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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