〇◎ “命のことを知らずして、命の大切さは理解できない” ◎〇
= 探検的調査を実践する “探検昆虫学者” 西田賢司 =
【この企画はWebナショジオ_“「コスタリカ 昆虫中心生活」” に追記・補講し、転載した】
☠ 中米コスタリカで新種の昆虫を見つけまくる男! 「バックマン」 ☠
曰く 『昆虫は、僕たちに自然の変化を教えてくれる一番身近な存在です』
◇◆ =085= ツノゼミのお母さんはじっと卵を見守っていた ◆◇
3月半ば、一時帰国していた日本から、約2カ月ぶりにコスタリカのモンテベルデに戻ってきた。こちらは乾季の終盤で、気温が上がり始め、目にする昆虫たちの数も少しずつ増えつつある。
今回は、去年の12月からラボの横の庭で観察していた、アルキズメ属のツノゼミを紹介しよう。アルキズメ属は中南米に分布、その多くは雲霧林などの山岳地帯に生息している。ツノゼミの中でも比較的大きな種(といっても1センチ程度)でツノ(頭の上からお尻にかけて伸びる)が大きい。上と左右に突き出る部分と、後方に細長く伸びるツノが特徴的なグループだ。
上の写真のアルキズメと庭で出会ったのは、12月10日の雨の日。アクニストゥス・アルボレセンスというナス科の木の枝を歩いていた(記載写真)。これまでも何種かのナス科の木で、同じ種のツノゼミが生活しているのを見たことがある。メスが産卵場所を探しているのではないかと、ぼくはにらんだ。
3日後、再び同じ木を見に行くと、ぼくの予想は当たっていた。枝の先のほうにある大きめの葉の裏で、アルキズメのツノゼミが卵を抱いてじっとしている(次の写真)。
それからぼくは毎日のようにこの木に足を運び、卵を抱くメスの様子をうかがった。1週間経っても、2週間経っても卵から幼虫が生まれてこない。卵が少しずつ大きく膨らんできて、色も黄色くなってきている(次の写真)。いったいどれだけの日数がかかるのだろう・・・。
雨の日も、風の日も、晴れの日も、曇りの日もお母さんツノゼミは卵のそばから離れない。お母さんツノゼミは卵を抱いて守っている間、なにも食べないわけではない。どうやら卵と卵の間にある隙間にストローのような口を差し込んで、植物の汁を吸っているようだ。
そして、ついにその日はやってきた。産卵から1カ月以上経った1月16日、小さくて黄色い体に、赤い眼をした赤ちゃんたちが孵化し始めていた!
ぼくは、レフ板(光を反射させる銀色の板)を使って、太陽光を葉の裏に当てながら写真を撮った。すると、お母さんツノゼミが急に勢いよく翅を羽ばたかせ始めた。「ブ~~~ン」
動画: タイのツノゼミ(Alchisme cf. grossa)図鑑
https://youtu.be/Rh389uBEj8k?list=PLz57Y9cxGsdd3vwllptJuuEzPxCStaPC1
レフ板を外すと、ブ~ンという羽ばたきが収まる。最初はお母さんツノゼミがこちらを威嚇しているのかと思ったが、何回か光を当てたり外したりして観察するうちに、別の考えが浮かんできた。暑いから羽ばたいているのではないだろうか・・・?
この日はよく晴れていた。そのうえレフ板からも光が当たるものだから、ツノゼミたちは暑かったのではないだろうか。少しでも涼ませてやるため、お母さんは生まれてくる赤ちゃんたちに風を送ってやっていたのではないかと思ったのだ。本当のところは、もっときちんとした実験をしないとわからないけれど。
お母さんツノゼミと幼虫たちを観察していると、お母さんのブ~ンという羽音(振動)に誘われたのか、もう1匹別のメスのツノゼミがやって来た。それに気づいたお母さんツノゼミは、やってくるメスの方に歩いて行き、「こっつんこ」をした(下の写真)。
お母さんツノゼミは、やって来たメスを「怪しい者」ではないと認識したのか、安心したように反転し、卵から出てくる子どもたちを見守り続けた。
1月18日、日本へ一時帰国する前にもう一度様子を見に行ってみると、ほとんどの幼虫が孵化していた。黄色から茶色に変色し、体が硬くなった赤ちゃんたちが、お母さんの方に向かって並び、植物の汁を吸っていた(下の写真)。
3月、日本からコスタリカに戻って来て、早速ツノゼミたちがいた庭の木を確認しに行ってみた。大きくなった幼虫たちがいないかと、あちこちを探してみたけれど、1匹も見当たらなかった。成長して「巣立っていった」のか、どうなのか?
どうしても大きくなった幼虫たちを見たくなったので、以前このアルキズメツノゼミを確認したことのある場所へと車を5分ほど走らせた。そこには、背中から4本の黒いトゲが生えた幼虫がいた。大きく成長した幼虫だ。ほかにも羽化してそれほど日が経っていない成虫もいて、合わせて30匹ほどのツノゼミが見つかった。
やがてみな成虫になっていき、独り立ちするときがやってくるのだろう。「元気に巣立っていってや~」
Ӂ 育ててみたら『鞍馬天狗』ツノゼミになった Ӂ
あるツノゼミの幼虫を飼育観察してみることにした。 きっかけは2008年の9月に出会ったツノゼミの幼虫(上の写真)。地を這うように生えているウリ科の植物の茎にいたのだが、ぼくはこのとき写真を撮っただけで、飼育はしなかった。どのツノゼミの幼虫なのかも、わからないままだった。
その後、数多くのツノゼミと出会うなかで、ウリ科の植物で成虫が確認されたのは3種。その中からぼくは、幼虫の形や大きさ、住んでいるウリ科の種などを総合的に検討して、写真の幼虫はハイフィノエ・アスファルティナ(Hyphinoe asphaltina)であろうと予想した。
でも多様性の高い熱帯では予想が外れることがしばしば。きちんと確認しないと間違ったままの「単なる思い込み」になってしまう。最近、再びその幼虫に出会うことができたので、こんどは飼育観察してみることにした。
見つけて飼育し始めてから約10日後、その幼虫は成虫になった。 体長は10ミリ程度。ツノの前の方が「壁」のようになっている。飼育前に予想していた通り、それはハイフィノエ・アスファルティナだった。幼虫と成虫がハッキリ繋がり、脳もスッキリ。
それにしても、このツノゼミの変貌ぶりは印象的だ。成虫は幼虫から想像もつかないかたちと色をしている! 「どこかで見たことのあるような姿やな~」と思い、何に似ているのかを調べてみたら、古い映画に出てくる頭巾をかぶった『鞍馬天狗』にたどり着いた。だから、このツノゼミを見るたびに、ぼくは、『鞍馬天狗』を思い出してしまう。
ついこの間も、この『鞍馬天狗』のような成虫を見つけ採集してみたところ、網の中で動かなくなっていた(下の写真)。どうしたのか? 網から取り出そうとすると、木の破片のようにコロコロと転がる。 これは・・・ 死んだ振りをして木の破片になりすましているのではないか? オモシロイ! このツノゼミの色とかたちの意味が、浮かび上がってくるように思えた。
・・・・・つづく
_ 魅惑の楽園コスタリカ 冒険と感動9日間 _
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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