○◎ 同時代に、同じ国に、華麗なる二人の女王の闘い/王妃メアリーの挫折と苦悩 ◎○
◇◆ 16世紀後半のイングランド、処女王・エリザベス1世 ◆◇
エドワード6世のプロテスタント時代には、異端とされたカトリックが火刑になることはほとんどなかった。 それがメアリー1世の時代になると、プロテスタントの多くの司祭や信者が火刑にされるようになった。 その数は、メアリー1世が統治した1553年から1558年までの5年間で、3百人にたっしたという。 彼女が「ブラディー・メアリー/血まみれのメアリー」といわれる由縁である。 プロテスタントにたいする激しい弾圧がつづくようになると、カトリックは、イングランド人の目には非愛国的で残酷な外国の信仰と映るようになった。
スコットランドの宗教改革者ジョン・ノックスは、この時代の3人のカトリックのメアリー、すなわちイングランドのメアリー1世、スコットランドのメアリー・オヴ・ギーズ、そしてその娘メアリーによる統治を、「女による奇怪な統治」と非難したという。
カトリックの復活に燃え、意気込んでフェリッペと結婚したメアリー1世だったが、その結婚生活はうまくいかなかった。 なにしろ結婚したときの花嫁は37歳で、花婿よりも10歳も年上だった。 そのうえ、メアリーはプロテスタントにたいする憎しみを、狂ったようにたぎらせていたからである。 夫フェリッペの目には、メアリーはただの狂った老女にしか映らなかった。 そして、もともと政略結婚だったとはいえ、フェリッペはメアリーにまったく魅力を感じていなかった。
フェリッペは、結婚後1年あまりはイングランドにいたが、その後スペインへもどり、1556年にフェリッペ2世として即位した。 かれは1年半後にふたたびイングランドへやってきたが、3カ月あまり滞在しただけで、すぐにスペインへ帰ってしまった。
メアリー1世のプロテスタントにたいする憎しみは、異母妹のエリザベスにたいする憎しみでもあった。 エリザベスは、ヘンリー8世と2度目の王妃アン・ブリンとのあいだに生まれた子だった。 離婚を認めないカトリックにしてみれば、エリザベスは私生児だった。しかもプロテスタントだった。
メアリー1世に子ができれば、イングランドのカトリックは安泰だった。 しかし子ができなければ、王位はプロテスタントのエリザベスに移る。 プロテスタント勢力が期待するのはそこだったが、メアリーはそれだけはなんとしても阻止したかった。
メアリー1世の結婚に反対して反乱を起こしたワイアットは、エリザベスの母親アン・ブリンのいとこだった。 そして、反乱のときにかれがエリザベスに出したという手紙が押収されていた。 そのため、エリザベスは反逆者とみなされ、「逆賊門」を通ってロンドン塔に投獄された。 この門は、反逆者が投獄されるときに通る門で、そこからロンドン塔に入った者は、生きては二度と出られない、といわれていた。
メアリーとカトリック勢力は、エリザベスが反乱に加担していたとして、彼女を反逆罪で葬り去りたかった。 しかし、エリザベスはワイアットとのかかわりを否定した。 また、彼女が関与していたことを示す決定的な証拠も、ついに出てこなかった。 結局、エリザベスを有罪とする確かな証拠がなく、彼女は2カ月後に釈放され、ウッドストックの離宮に軟禁されたのだった。 ところが、エリザベスはワイアットの反乱にまったく無関係ではなかった。 彼女は、ワイアットからきた手紙にはすべて口頭で返答し、証拠が残らないようにしていた、というのである。
メアリー1世は、世継ぎが誕生することを切望し、夫にも何度か「懐妊した」と言っていたという。 しかし、ついに彼女に子供が生まれることはなかった。 40歳もすぎると、もはや世継ぎの誕生は絶望的になった。 そして、病におかされたメアリーは、しだいに衰弱していった。 結局、1558年11月16日、メアリーは失意のうちに枢密顧問官たちの要請を受け入れ、エリザベスへの王位継承を認めた。 そして翌17日、42歳で他界したのである。
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