〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇
= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =
☠ 青春を深海に掛けて=高井研= ☠
ᴂ 第6話 JAMSTECの拳―天帝編― ᴂ
◇◆ この研究計画はオレ様のために存在するのだ =3/4 ◆◇
最初に「アーキアンパーク計画」の話をした時も掘越先生の反応は否定的ではなかったし。 ところが返ってきた言葉は全く予想外のものだった。 「ウチのグループからその研究計画に関わることは一切禁じる」もだんだんアタマに血が上り、世に背を向け始め、挙げ句には酒とドラッグにおぼれる日々だった・・・、なんて、さすがにそんな三文小説にありがちな展開にはならなかったが、その後しばらくしても、「じゃあ、上の許可なんかいらねーよ。隠れて勝手にやってやる!」とヤサぐれていたのは事実だった。
しかし「アーキアンパーク計画」関係者にメールを書いて事情を説明しているうちに、どうやらその「不純異性交遊禁止」条例のモト種が、掘越先生ではなく、JAMSTECの上層部から発せられていることを知った。
その理由こそ、「アーキアンパーク計画の研究内容がJAMSTECで立ち上げようとしている地下生命圏研究と完全にバッティングしているから」というモノだったようだ。同じ科学技術庁(当時はまだ文部省と統合されていなかった)の管轄下で、同じような役所誘導型研究計画が二つ存在するのはおかしいという議論があったらしい。
そしてその議論は、ボクの最も恐れていた方向にも発展しようとしていた。つまり「アーキアンパーク計画」が深海熱水の地下微生物を扱うのならば、JAMSTECの地下生命圏研究は深海熱水の研究には手を出さないという霞ヶ関的論理に基づく「仕分け」が秘密裏に行われようとしていることだった。
それを知ったボクはさらに愕然とした。今度こそ、本当に酒とドラッグにおぼれる日々になりそうだった。ボクは「ずっとやりたくてやりたくて仕方のなかった深海熱水に生息する微生物の研究をする」ためにJAMSTECに来たのであって、JAMSTECに入るのが目的ではなかったのだ。JAMSTECで深海熱水の微生物が研究できないんなら、「今度こそJAMSTECなんてこっちからお断りじゃ」と腹を括った。
そんな覚悟を決めた憤りを掘越先生にぶつけてみると、また思いもよらぬ予想外な答えが返ってきたんだ。
「オレはアーキアンパーク計画に参加するなとは言ったが、深海熱水の研究をするなとは言ってないぞ。その研究はJAMSTECの地下生命圏研究の中に潜り込ませればいいだけの話だろ。要は相手よりいい結果を早く出せばいいんだろ。結果で勝てばいいだけだ」
つまり「アーキアンパーク計画には参加できないが、深海熱水の微生物の研究はやってもいい」と。そして「やるなら研究成果で示せ! 成果で勝てばJAMSTEC上層部も決して文句を言えないはずだ」と。
確かに、アーキアンパーク計画にはボクが望んでいた深海熱水を総合的に理解するための学際的な情報基盤や多分野の研究者が揃っているのは間違いなかった。ボクはそれをとても羨ましいと思ったし、参加すればオートマティックに深海熱水の分野横断研究が進むと薔薇色の未来を想像したりもした。
でも掘越先生の言葉を聞いた後よく考えてみて、ボクは今までそんな楽な道を歩んでこなかったはずだと思い至った。
自分がやりたいと思う方向であれば、どんな知らない世界でもまず身一つで飛び込んでみて、わからないことは論文を通じてなんとか理解した気になって、自分の力で考え抜いて研究計画を立て、成功するまで実験を繰り返し、最終的には自分の思い込んだストーリーに基づいて論文を書いて、強引に世界中の研究者にアピールしてきたんじゃないのか。
= 映像で伝わらない色彩――パイロットが語る深海調査の1日 3/6 =
スマホ持参で潜ります
しんかい6500は、定員3人。パイロットとコパイロットと、それから研究者が乗船する。
パイロット・コパイロットは潜航に慣れているが、研究者は必ずしもそうではない。狭いところが苦手な人もいる。
なかには、事前に直径2メートルのしんかい6500の居住スペースに入ってみて「ダメだ」と自ら判断をする研究者もいるという。
運航チームの若手、コパイロットの片桐昌弥さんは、潜っていく間、持ち込んだスマートフォンで、気分を高めるような音楽をかけることもあるという。
そういうもの、持ち込めるんですか。
「はい。スマートフォンは、海中だと電話としては使えませんが、電卓として使えますし、研究者の方が外国人の時には、辞書としても使えます」
なるほど。ただし、持ち込む物の重さは徹底的に管理されている。
他に持ち込むものの定番というと、海底地形図を読むのに使う分度器、ライト、サンドウィッチ、飴などがある。
「私はハイチュウが好きです」と片桐さん。
持ち込めないものもある。燃えやすい物だ。潜るとしんかい6500の内部は冷えるが、フリースは静電気を発生させやすいから御法度。
パイロットのお揃いの青い潜航服は、F1のレーサーが着るのと同じ、難燃性の素材でできている。オーダーメイドで、小倉さんとコパイロットの池田瞳さんは、袖口が白。片桐さんは黒。ポケットの位置なども選べる。
乗船者は、化粧NG。化粧品には、可燃物が多く含まれているからだそうだ。
潜って、目的地に到着すると、調査観測作業が始まる。つまり、しんかい6500の運転が本格的に始まるのだ。
「海底の泥を巻き上げたらダメです。視界が狭くなってしまいますから」と小倉さん。
泥を巻き上げないようにするには、どこに気をつけたらいいのでしょうか。
「しんかい6500は、地べたを這っているのではなく、浮いて航行しています。まず、その地べたとの距離を適切にとり続けること。一度止まったら、必ず浮いてから航行を再開します。それから、バックをしないことです。海底航行時はどうしても泥を巻き上げますが、バックをすると、その巻き上がった泥の中を行くことになるので、狭い視界が、ますます狭くなります」
水が澄んでいても、ライトで照らしても、視界は10メートルから15メートル。それが深海だ。
そのなかをしずしずと、最大速度2.7ノット、つまり秒速1.4メートルほど、つまり時速5キロほど、早歩きくらいの速度で進む。
・・・・・・・・つづく・・・・・・・
生命の起源はいつか・生命とは何か : 高井 研
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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