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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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未知なる深海へ 高井 研 =037=

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〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇

= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =

☠  青春を深海に掛けて=高井研=  ☠

ᴂ  特別番外編  「しんかい6500」、震源域に潜る ᴂ

◇◆ その3  震源の海底で、地震に遭う =1/3= ◆◇

2011年8月5日。「しんかい6500」はいよいよ東日本大震災の震源域の海底に潜航しようとしていた。映画「日本沈没」のラストシーン(=地震の乱泥流に巻き込まれ海の藻屑に・・・)を思い描き、少しビビリつつも、高井研は「しんかい6500」の耐圧殻に乗り込んだ。

「しんかい6500」のコックピットでは、連載第1話で詳述したような潜航準備作業が進んでいく。今回の研究調査に際して、ボクがちょっとビビッていたように、「しんかい6500」の運航チームの中でも、映画「日本沈没」のラストシーンのような状況を想定してかなり真剣に議論していたらしい。そしてやや「昭和風味人情・仁義志向の強い」陸上勤務のJAMSTECの男衆たちは、「悲壮な決意の技術者達」ムードを盛り上げつつあった。

しかし、「しんかい6500」に乗り込んだパイロット達とボクには、そんな地震後の海底に挑む「気負い」や「悲壮感」は全くなかった。いつものように準備し、いつものように潜航調査を行うという感じだった。テンパリ具合は第1話で書いたインド洋熱水発見の方が遙かに強烈だった。

「しんかい6500」がチャプンと海水に浸かる。ボクは観察窓にへばりついて大好きな海の色彩を楽しむ。日本海溝の海水はインド洋や太平洋のど真ん中の海に比べると明らかに濁っている。汚いというのではなく一次生産が高いのだ。「プランクトン多めにしておきマシタ」という「のだめ」*の名セリフがぴったりだ。

「潜航を開始する」の連絡とともに沈み始める。水深20mまでの海では、塊になった粒が肉眼で見えるほどプランクトンが増殖しているのを観察した。日本海溝域でプランクトンの大増殖が起きるのは3-6月の春期のはず。8月になってまでこんな大増殖が見られるのは、やはり地震や津波によって沿岸から栄養塩が供給されたことによるのだろうか? 残念ながら専門家ではないので答えは分からない。しかし、ボクが初めて見る光景だった。

今日の潜航は水深3600mの海底である。片道1時間半の潜航は長い。潜航前に少しだけ飲んだ酔い止めクスリの影響もあって、いつの間にかボクはスヤスヤと眠りに落ちていた。ふと我に返って目を覚ますと、チバさんやイシカワさんも時折ウトウトしているようだ。みんなやはり特に緊張している風はない。

海底近くになって下降用の重りを捨て、ゆっくり海底に降りてゆく。普通なら海底からの高度10mぐらいで見えてくる海底がなかなか見えない。高度2mくらいまで近付いて、ようやく海底がクッキリ見えた。つまりそれだけ海底付近の海水が濁っているのだ。

「こりゃ今日の潜航は大変だ」

ボクはいきなり憂鬱になった。海底の濁りが強いと有人潜水の楽しさや調査効率は激減する。観察窓からはわずか数m先の海底しか見えないので、目標の微生物マットや断崖を見つけるのがとても困難になる。

案の定、微生物マット探しは難航した。潜航前には、海底下の断層に沿って直線状にズラーと微生物マットが広がっていると予想していたのに、思ったよりも広がりが乏しい。断層から漏れ出ずる「地震汁」なんてないんじゃないのか? 強い不安がよぎる。

そしてようやく、それなりの規模の微生物マットを見つけて、その試料採取に取りかかろうとした矢先、音響通信に船上からの指令が飛び込んできた。

= 極限環境で生命の起源を探る・高井研 : 2/3 =

カギは400度の熱水噴出孔、何千mもの深海で微生物を探す(2/2)

──世界にはそんなにたくさん生命起源の誕生スポットがあるんですか? ということは、今でも新しい生命の起源が生まれる可能性があるということになりますよね。

高井 そうです、今でも生まれている可能性はあります。

──なるほど。それはすごいことですね。でも先生のおっしゃる通りなら、生命の起源がもっとたくさん存在してもいいのでは? 私たちの祖先は系統をたどると一つに集約されるとされていますから、なんだかそれと矛盾しているような気がするのですが。

高井 確かにそう感じるかもしれませんね。ただ、進化というものは「淘汰」をします。もし、今新しい祖先となる種が生まれたとしても、それはあまりにも弱々しい存在。生き続けることはできないでしょう。人間の祖先は、他の祖先に勝ち抜いて生き残ってきたものなのです。勝ち抜いて地球全体に広がりました。全体に広がれば、隕石が降ってきても火山が爆発しても、どこかで生き延びられますから。

──生命とは、誕生は簡単だけど生き続けることが難しいものなのですね。

海のある星を調べれば、生命体発見も遠い夢じゃない (1/2)

──先生は宇宙での探査にもかかわっていらっしゃるとか。深海の調査とどう関係するのでしょうか。

高井 微生物が、過酷ともいえる極限の環境で生きていける原理が分かれば、どこでだって、例えば地球の外でも生きていけるのではないかという考え方も出てきます。だったら火星や月に生命体がいてもおかしくないですよね。

──海さえあれば宇宙にも生命体がいるかもしれないということですね。

高井 その通りです。しかも太陽系には最大13個、海がありそうな衛星があります。今、JAXA((独)宇宙航空研究開発機構)と協力して、こうした衛星から海水のサンプルを持ち帰って調査したいと考えています。生命が存在する条件をクリアしているか、生命の痕跡があるか、生命誕生の可能性を探ってみたいんです。ただ、発生の仕組みが同じでも地球と同じ生命体ができるかというと必ずしもそうではない。環境が違いますからね。宇宙ではまったく別の生命体になっていてもおかしくはないですね。

・・・・・・・・つづく・・・・・・

動画 : 改造後の「しんかい6500」

  https://youtu.be/Eveqb4d5D_s  

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