〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇
= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =
☠ 青春を深海に掛けて=高井研= ☠
ᴂ 第二話 JAMSTECへの道・前編 ᴂ
◇◆ その1 東京地検特捜部か、ノーベル賞か =3/3= ◆◇
実際3回生のときに学科対抗ソフトボール大会で、「水産学科代表チーム」に選出され1番ライトで打率9割を超える俊足好打好守の「イチロー」(当時はイチローはデビューしてなかったのでシノズカと呼ばれていた)のような選手だった。大会は3連覇を達成した。
ちなみに「巨大翼竜は飛べたのか――スケールと行動の動物学 」(平凡社新書)や「ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ──ハイテク海洋動物学への招待」(光文社新書)の著者である佐藤克文東京大学大気海洋研究所、国際沿岸大気海洋研究センター准教授※は、ボクの2年先輩で俊足好打好守のセンターであった。水産学科サッカー代表チームではキャプテンを務めていた。研究しろや、オマエら!!
「もうすぐ研究室の野球のキャンプインがあるから、参加せえよ。でも今日は、違う話や。オマエ、海外留学したないか?」
研究室に配属される前から「留学」ってどういうこと? とかなり混乱しつつも、短絡気味のボクは、もう既にあこがれの金髪美人女子学生と英語で愛を語らう近未来の留学中の自分を想像して「えーなあー」と思い始めていた。
「よっしゃ、じゃあ留学先を決めなあかんから、まずは研究テーマ決めよう。研究テーマが決まったら、それに合わせて留学先決めて、来年か再来年行ってこい。わかったな。じゃあキャンプインまでに自主トレで体作っとけよ」
そして研究テーマを決めるために当時研究室の助手だった左子芳彦先生(現京都大学農学研究科海洋分子微生物講座教授)に会いに行った。
ボクが事の経緯を話すと、水産微生物学研究室のエースと呼ばれていた左子先生は開口一番「キミ、研究ナメとるんか?」と若干怒気を含んだ冗談を言った。でも左子先生は、「チョー生意気な3回生」で顔を売っていたボクを結構気に入ってくれていたようで、親身に相談に乗ってくれたのだ。
「研究テーマとして、貝毒(フグ毒と似た牡蠣などの貝の毒)の生成細菌やウイルス、その原因遺伝子の研究というのと、ボクが個人的に興味を持っている超好熱菌の研究というのがあるけどどっちがいい?」
その話を聞いたとき、ボクは「おお、遺伝子! やりたかった分子生物学ではないか。しかもウイルスって、分子生物学の花形やん」と心が躍った。当時ボクが読んだ科学雑誌「ニュートン」の特集に、「レトロウイルス」というRNAを遺伝子に持つウイルスが肝炎やエイズの病原体とされ、「ノーベル賞級」の熱い研究トピックであると書いてあった。「ニュートン」、読んでてよかったー。
「ぜひ、毒ウイルスの研究をやりたいです」と即座にボクが言うと、左子先生はちょっと寂しそうに「えー、毒の方がいいの? でも、超好熱菌っておもしろいんだよ。キミは深海熱水噴出孔って知ってる? 温泉の温度は高くても120℃くらいだけど、水深2500mの深海になると水圧がかかって350℃くらいの熱水が噴いているんだよ。そういうところに超好熱菌という微生物が生息していてね。
そいつらのタンパク質は、沸騰するお湯の中でも変成せずに働くんだよ。すごいと思わない? さらに、そういう超好熱菌はね、地球上最古の生命と考えられているんだよ。そいつらの生命活動の仕組みがわかると生命の起源の謎が解き明かせるかもしれないんだよ。
でね、実はここだけの話、最近三菱重工業が、水深6500mまで潜れる「しんかい6500」という有人潜水艇を造ったんだよ。それがね、ジャ、ジャム、ステックっていう横須賀の研究所にあってね。
ボクはそこに顔が利くから、もしかすると超好熱菌の研究をしているとその有人潜水艇に乗れるかもしれないよ」とまくし立てた。
これがボクとJAMSTECのホントに最初で最初の出会いだった。深海、350℃の熱水、超好熱菌、生命の起源、しんかい6500、そしてジャムステックとかいう正体不明の研究所。そしてそれを話す左子先生の嬉しそうな表情と情熱に溢れた話は、今でも鮮明に覚えている。「研究が大好きで情熱を傾けるテーマを持った研究者って、こんなに眼が輝いていて、嬉しそうに話す姿が可愛らしくてカッコええもんなんやな」とちょっと驚いたのだ。
でもボクはそんな左子先生のアツーイ情熱を華麗にスルーして、「時代は分子生物学なんで。毒ウイルスの研究がいいです」とまたしても間髪入れずに答えた。
左子先生は「わかった。とりあえず、毒ウイルスの研究をやっている先輩を紹介するから、話を聞いてきなさい。そして、もう一度よく考えてみよう。一週間後にもう一度話し合って研究テーマを決めよう」と優しい英国紳士のような対応をしてくれたのだ。
=有人潜水調査艇・しんかい6500=
システム(2/2)
主蓄電池
海の中には空気がありませんから、エンジンは使えません。そこで「しんかい6500」は専用に開発された2台の油漬均圧型リチウムイオン電池によって電力をまかなっています(2004年から。それ以前は酸化銀亜鉛電池)。潜航で使用した電池は潜航終了後、夜の間に充電できるので、効率よく潜航作業が行えます。
投光器
水深200mを過ぎると太陽の光はほとんど届かなくなり、深海では全くの暗闇です。「しんかい6500」の投光器は1灯で自動車の強力なヘッドライト3~4個分の明るさがあります。しかしマリンスノーなどの懸濁物が少なく海水の条件が良い海域で、全灯(7灯)を使って照らしても視程は10m程です。※可動する様子を写真でご覧いただけます。
同期ピンガ
母船には「音響航法装置」が装備されており、数秒の一定周期で連続的に自動で潜水船の位置を知ることができます。同期ピンガはこの音響航法装置のために一定周期で音を発します。
研究調査では海底で何かを発見することがありますが、この時の位置を記録することはとても重要です。陸上ではGPSなどが使えますが海中では電波が使えないため、代わりに音波を使って三角測量を行っています。
スラスタ
水中で自由に動き回るために水を噴き出す装置です。筒の中にプロペラが入っており、電動機で動かします。水平スラスタ、垂直スラスタ、主推進装置(メインスラスタ)とそれぞれ2基ずつ合計6基を装備しています。
・・・・つづく・・・
動画 : 2016年度定期検査工事の様子
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