〇◎ “私が知りたいのは、地球の生命の限界です” ◎〇
= 海洋研究開発機構(JAMSTEC)及びナショナルジオグラフィック記載文より転載・補講 =
☠ 青春を深海に掛けて=高井研= ☠
ᴂ 第一話 実録! 有人潜水艇による深海熱水調査の真実 ᴂ
◇◆ その4 その瞬間 稲妻が走った =1/3= ◆◇
2009年10月のインド洋。高井研を乗せた「しんかい6500」は、いよいよ水深2600mの海底に到着した。熱水噴出孔に近づくにつれ、深海の生き物の密度が濃くなってくる。そして、目の前に現れたのは・・・・・・
海底から10mぐらいのところで、観察窓に顔を押しつけて海底を探していたボクの目に、うっすら海底が見える。この瞬間がとても楽しい。
ボクは小さい頃、川や湖に水中メガネをつけて潜るのが、人生最大の楽しみだった。川や湖の底の景色は、普段目にする陸上の風景とはどこか違うように感じる。水を通して届く光の色調のせいなのか、水を伝わって耳に届く水の効果音のせいなのか、体に感じる水の感覚のせいなのか、そして、水の中で活き活きと動く魚や至近距離まで近づくと分かるいろんな種類の小動物や植物のせいなのか、とにかく心が躍動するとともにものすごく落ち着くあの水中の景色。
今見えているのは当時見ていた川や湖の底とは違う、深海の海底なんだけど、まったくボクの中では違和感なく、昔見た風景のように飛び込んでくる。
すとんと、水深2600mの海底に着底する。人の頭ほどある黒っぽい溶岩、玄武岩の「れき」の海底だ。簡単な報告を済ませると、時間がもったいないので早速、熱水活動域へと探査を進める。
今日は目的の熱水域まで200mぐらいしか離れていないところに降りたはず。実は前日に、潜水艇ではなくて、ケーブルに繋がったカメラを沈めて熱水の大体の位置とか粗い風景は分かっていた。本当は、そんな情報もない勝負探査が多いので、結構やみくもに(もちろんいろいろ作戦は立てるよ!)捜索し、かなりの確率で空振りし、徒労感に襲われることが多いけれど。
走り始めるとすぐに、岩の表面に白いイソギンチャクとシンカイミョウガガイとフジツボの仲間がペタペタと見え始めた。うん、熱水は近いな。普通の何もない海底では、こんなに大きな生物はたくさん見かけない。熱水が、エネルギーとなる物質を海底に運び、それを微生物が有機物に変換し、その微生物のおかげで栄養が豊富だからこそ、深海生物がたくさん生息できるのだ。
だから、熱水に近づくと生物の数、種類が飛躍的に増えてゆく。
しんかい6500の特等席、一番真正面の観察窓を見ながら操縦しているヤナギタニさんが、「あー熱水が噴いてるの見えましたー!」とやや興奮気味に伝える。
それを聞いて、海底をずっと眺めてたボクは、カメラモニターに目を移し、ヤナギタニさんが見た熱水チムニーにカメラを向け、アップにして映し出す。
「おー、噴いてる噴いてる。いいねえ、いいねえ」などとはしゃぎながら、 「よし、じゃあ、もうそのまま前進して、今の角度でいいからチムニーの真ん前に着底して」、「まずチムニー採って、大きくなった熱水の噴出口から採水します。順番は保圧2本行きます(採水器の名前)」と、的確な指示を速やかに飛ばす。
このあたりは、ボクはさすがなのだ。ベテランなのだ。しっかりしているのだ。すばらしいのだ。
ヤナギタニさんが熱水チムニー前50cmのところにしんかい6500をベタ付けしようとしている間、海底を観察する。「うーん、むっちゃいろんな熱水生物がいるぞ。イソギンチャク、シンカイミョウガガイ、ヒバリガイもいる、ゴカイの仲間もいる。リミカリスとコロカリスというインド洋に典型的なエビもたくさんいる。なんか気色悪いくにゃくにゃのみたことない寄生獣もいるぞ(漫画の題名です。気にしないで下さい)。よっしゃ、よっしゃ、いい感じ」。そんな感じでどんどんアドレナリンが沸騰して来るボク。
観察窓から見える生物で賑やかな海底の風景の遠くに、何か白くて茶色い生物の集団がいる・・・・・・。ちょっと肉眼では見えない。
=補講・資料=
高井研・深海で生命の起源を探る(9/9)
──JAXAに期待することは何でしょうか?
JAXAというかJAXAで働く人達みなさんに期待することは、JAXAで働く事に誇りを感じてほしいということと、JAXAの研究や開発に覚悟を持ってやってほしいということです。何か偉そうな事を言ってすみません(笑)。僕は何も考えていない能天気な人間に見えるかもしれませんが、実は、自分の意見を言うときに、覚悟を持って発言しています。これで JAMSTECをクビになっても構わないと、常にそう思いながら発言しています。覚悟を持って、これが正しいと信じて発言すれば、悪気がないことは相手に伝わるだろうし、その覚悟も絶対に伝わっているはずなので。だからみんながその覚悟を持って仕事をすれば、もっと素晴らしい組織になると思います。
JAXAは JAMSTECよりかなり大きな組織ですが、そのせいか個人があまり目立たないような気がします。もしも組織がそれを目立たないようにしているとしたら、おかしいと思うんですね。例えば僕は、「しんかい12000」で何かあったら自分が責任をとりますと言っています。もちろん本当は責任をとるのはもっと上の人間なので、何かあったら理事長が責任をとればいいと思っています(笑)。そのような個人の覚悟や想いをもっと外に見せられるような自由で風通しのいい明るい組織になれば、JAXAももっと魅力的な研究機関になると思います。これも偉そうな事でホントすみません(笑)。
ただ、JAXAも清く明るく楽しい研究所になって、「楽しくて何がダメなんですか」と堂々と言ってほしいなと(笑)。だって、サイエンスってめちゃくちゃ楽しいものなんだから!
・・・・つづく・・
動画 : しんかい6500
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