○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
探検家になるために必要な資質は、臆病者であることです =植村直己=
= Webナショジオ_“河江肖剰-新たなピラミッド像を追って”より転載・補講 =
☠ 自分が主役になるよりは常にメンバーを影でサポートするような立場でいたい ☠
◇◆ 故郷・・・・・・・・ =1/4= ◇◆
植村直己が亡くなった年、1984年の春に、私は初めて植村の郷里を訪ねた。 兵庫県城崎郡日高町上郷。植村が生まれた頃は国府村上郷で、現在は豊岡市日高町になっている。 兵庫県の中央の山地から西へ流れて日本海にそそぐ円山川。 川に沿って豊岡市と日高町が少し離れて並んでいて、日高町のほうが山寄りにある。 植村の生家がある上郷集落は円山川の右岸に位置する。 但馬盆地の一角である。
植村の父、藤治郎さんがまだご健在で、お会いした瞬間、植村に似ているなあ、植村も年をとったらこういう顔になるんだろうな、と変なことを考えたのを今でも記憶している。 なお、植村が末っ子らしく甘えることが多かった母・梅さんは、78年に死去していた。
この最初の郷里の家訪問では、長兄の修氏ご夫妻にたいへんお世話になり、勧められるままに2階の一室に泊めてもらった。 夜になって、こういうものがあります、と修氏が出してくれたのが、植村の1964年の日記だった。 この年の5月2日、植村は横浜港から「あるぜんちな丸」に乗ってアメリカに向かった。 足かけ5年に及ぶ世界放浪の旅の始まりである。
その第1日目に、次のような記載があるのを読んで、私は驚いた。 _____《 5月2日(土) 日本を離れる夢は今や実現した。横浜の桟橋から離れてゆくたくさんの見送りのテープに実感が初めてわいた。 小生は中学時代から外国への夢をいだき、地理を非常に好みとしていたのだった。 この乗船まで、右や左ところびつつ、きわどく今日に至る経過をたどってきた。 苦心さんたんの日々であったが、今日という日を待ちわびて乗船してみると、意外と気持ちはおちついたものだ。》
中学時代から外国へ行く夢をいだいていた。 私は植村から直接そういうことを聞いたことがなかった。 いや、子どもの頃から、学科として地理が好きで、外国の地図をよく眺めていた、というたぐいの話はとりとめもなく耳にしていた。 しかし、少年時代は誰もが他愛のない夢をもつもの。 大人になってからのその人間のたどった軌跡を、少年時代のさだかならぬ夢想に結びつけるのは、たとえば伝記作家がおかしがちな間違いである。 私はつねにそう思っている。
しかし、植村の「外国への夢」は、もう少しリアリティのあるもののようだった。 現実的なもの、というより、植村少年の心のなかでしつこく生きのびつづけ、消えようとしなかった強い願望というのがより近いいい方かもしれない。 願いは生きつづけて、いつのまにか強くて深いひとつの意志になった。
でなければ、船上のひととなった最初の日に、「中学時代から外国への夢をいだき……」とは書けるものではない。植村という男にある思いが宿るときの、その強さと深さを、私は日記の初日の一節を見て、改めて思い知ったのだった。
もちろん、願望の強さに比して、あまりに準備不足ではないか、飛び出せばいいというものじゃないだろうと、誰もが思ってしまうだろう。 64年という時代を考えれば、まだまだ外国へ行くのは大変なことだった。 貿易自由化によって、海外への観光旅行の道がわずかにひらかれた折とはいえ、為替レートは1ドル360円で、若者が気軽に出かけられるわけではない。 だとしたらいっそう、準備不足の観はまぬがれない。
植村はアメリカまでの船の片道切符代10万円をつくるのが手いっぱいで、あとはアルバイトで稼いだ4万円をドルに替えた110ドルが所持金のすべてだった。
要するに直観に頼って前後をあまり考えずに実行すること。それが植村直己流だった。 ただし、後で血のにじむような努力をして帳尻をきちんと合わせるのを含めて、植村流なのである。 それが果たされなければ、人びとが自分を信用しなくなるということを、植村はよく知っていた。 そのような植村流が、ここに始まっているのである。
ところで、私はこの初めての実家訪問で、植村が自分の身辺を語るときには、必ずしもすべてを真に受けてはならないと、改めて頭に刻みこんだ。 植村は、家は但馬の寒村の貧乏農家で、自分は7人きょうだいの四男坊、はみ出し者であると常々語っていた。当っているのは但馬の農家という点ぐらいで、あとはよほど修正する必要があることに気づいて、私はいかにも植村らしいと微笑せざるを得なかったのである。 寒村ではなく、古くからひらけた農村の、堅固な生活をたもちつづけている、存在感のある農家だった。
=補講・資料=
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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