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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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現代の探検家《田邊優貴子》 =94=

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○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 南極の森 = 1/3= ◇◆

  朝になっても、いまだ嵐は続いていた。 結局、一晩中眠れずに過ごした。 私は眠くて重い体を起こして、2段ベッドから降りた。 風が容赦なく小屋の壁に砂を打ちつけ、轟音が止む気配はなかった。 天候を確認するために小屋の外へ出た途端、水しぶきと砂が混じり合った強風が全身に襲いかかってきた。 気を抜いて歩くと飛ばされてしまう。

 “雨……?!”

 南極大陸で雨が降るなんて、せいぜい10年に一度あるかどうかだ。 だから、そんな稀な機会に居合わせることなど滅多にないはずだった。 しかし、顔には確かに水気を感じる。まさか本当に雨が降っているのかと驚いたが、すぐにその水しぶきがどこからやって来ているのかわかった。 海岸沿いの、氷がわずかに開いて覗いている水面の海水を強風が巻き上げているのだった。

 海が細かい水の粒となって生き物のように空中に立ちのぼり、猛スピードで変幻自在にうごめいている。 いつもは決して目にすることのできない風、そして、つかみどころのない海の姿、それが今、肉眼で見える形になって、目の前に現れた。 風も海も叫び、荒れ狂っている。そんな彼らの激しい感情がまるでカタチあるものとなって、浮かび上がったかのようだ。 私は何か見てはいけないものを見たような気さえしていた。

 玄関先の壁沿いに張り付くようにして、風から少し避難しながらただ黙って立っていることさえも困難だった。 つかの間の外出ののち、私は退散するように小屋の中へ急いで戻った。

  仲間が気象を計測するために、重装備で外へ出た。小屋の窓からその様子を見ていると、小型の気象測定装置を風上に向かって握りしめ、決死の思いで足を踏ん張りながら風速を計っている。 今にも飛ばされそうなその姿を、ハラハラしながら見守った。 しかし、すぐに堪え兼ねて小屋に戻って来た彼はまるで戦地から帰ってきたかのような様相で、サングラスには小さなキズがいくつもついていた。

 「平均でも秒速18メートル。 瞬間的には25メートルくらい吹いてるよ! そんなに粘ってられなくて、正確には計れなかったけど……」 そう言っているのは無理もない。 さきほど外へ出て、嫌というほど嵐の怖さを私も思い知っていた。

 「雪が全然降ってないね!」

 「うん、願ってもない! このまま雪が降らずに嵐が続くことを祈ろう」

 ずっと待っていた嵐。 ついにそれが本当にやって来た。 私たちはこれにすべてを賭けるしかなかった。 この強風は湖に浮かぶ氷を大きく動かし、氷にはいくつもの亀裂が入るだろう。 そして、割れた氷が水面で大きく揺れ続ければ、一瞬で氷がなくなるのだ。

  なぜなら、今の時点で氷の下にある湖水の温度は5℃〜8℃もある。 グラスの水に浮かぶ氷をかき混ぜると勢いよく融けて無くなっていくように、そんな温度の湖水に浮かぶ氷は、強風によって撹拌されればすぐに融けてしまうだろう。 しかし、もし雪が降ってしまうと、それが氷の上に積もり、なかなか融けにくくなってしまうからとても厄介なのだ。

 だからこそ、初めに長池に張っている氷を見たときからこの10日間、嵐の到来を待ち続けていた。 そして、ついにやって来た嵐は素晴らしく好条件がそろっていた。 あとは、せめて今日一日中ずっと、雪が降らないまま嵐が持続することを願うばかりだった。

 私たちにとって、これが本当に恵みの嵐となった。 嵐は深夜まで続き、小屋を揺らし続けた。 いつの間にか嵐が去っていたのだろう、やがて訪れた静けさの中、昨夜は眠れなかったこともあってか、いつしか私は眠りに落ちていた。

 曇り空が広がる翌朝、私たちは長池の様子を偵察しに出かけた。 いつもの道を通り、四ツ辻につながる斜面を息を切らして登っていく。 そしてついに長池が見える手前まで到着した。 内心不安があったが、勢いよく小走りに斜面を上がった。

 「ない!!」  ユラユラと揺れる水面が目に飛び込んできた。 3〜5メートル四方の小さな氷が一つだけ浮いているものの、湖面の6〜7割が氷で覆われていた2日前の長池はどこにもない。 この湖岸にすわって、ため息まじりにながめていたのとはまるで違う湖のようだった。 私たちは胸を撫で下ろし、喜び合った。

 それにしても、頭ではそうなることを考えてはいたけれど、本当にたったの2日であんなにも大きな氷が消えてなくなるなんて。たかだか風。 しかしそれは、想像を絶する力だった。 改めて自然の力のすさまじさを思い知らされ、ただただ、私は偶然の風に感謝した。 そして肌には、あの荒れ狂った恐ろしい風を感じていた。

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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