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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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現代の探検家《田邊優貴子》 =76=

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○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ 北緯79度の花畑 = 2/3 = ◇◆

   なんと表現すればよいのか未だに難しいのだが、自分は地球に生きている、ということをはっきりと意識した瞬間だったのかもしれない。 私にとって、それは自然の風景だったが、誰しもがこうやって何らかの光景に大きな力をもらうことがあるのではないだろうか。

  10年前のことを思い出しながら、眼下に広がる島の海岸線と氷河が作りあげた山とツンドラの景色を飽きることなく見ていた。 アラスカで見たのと少し似ているようでまた違う。 20分ほどすると、セスナ機は徐々に高度を下げ始めた。 海岸沿いに小さな建物がまばらに建っている。 小さな滑走路らしきものも見える。

 平坦にならされた滑走路を目指し着陸態勢に入った。 大きなエンジン音とタイヤ音をたてて、急スピードでセスナ機は止まった。 ドアが開き、外へ降りると想像していたよりもちゃんとした滑走路であることに驚いた。 私は勝手にツンドラの原野へ降り立つことを想像していたのだ。

  それまで上空から見ていた風景が目の中に大きく飛び込んできた。 氷河で削られてできたU字谷、山と氷河の裾まで広がる緑の大地、振り返れば、入り組んだ海岸線と対岸に落ち込んでいる青い氷河が見渡せた。 冷たそうな海がキラキラと輝いている。 深呼吸して潮の匂いと草や土の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。

  すぐにでもツンドラの大地に駆け出したい衝動に駆られたが、先に済ませなければならないことがさまざま待ち構えていた。 私たちは荷物とともにバンに乗せられ、村の中心へ続く砂利道をガタガタと揺られながら進んでいった。 村の中心と言っても、時速20kmほどののんびりとした運転で、たった3分ほどで到着する。 途中、トナカイやグースの親子たちが道を横切るのを待って、すぐに小綺麗な建物の前に到着した。

   この村はノルウェー極地研究所とノルウェーの企業が一括して管理・運営している。 ここでまず入村の手続きを済ませ、先に航空便で送っていた荷物が届いているかどうかを確認した。 朝昼晩の三食はどこの国の研究者もここに来て食べることになっているとのことだった。

  手続きが終わると、またバンに揺られて、日本が借りている小屋へ向かった。 日本の小屋は村の中心から外れたところ、滑走路のすぐそばに建っていた。 おかげで、ツンドラの原野と氷河へのアクセスにはとても都合がいい。

   小屋の中は私が思っていたよりも綺麗で、部屋もいくつかに分かれており、キッチンや、実験室、倉庫、何部屋かある寝室にはベッドや机が備え付けられてあった。 寝室の窓からは切り立った山と氷河が見渡せ、窓から下をのぞき込むと、可憐な植物で埋め尽くされた急斜面が海へと続く素晴らしい眺めだ。  荷物を部屋の片隅に置き、これからここで1か月間過ごせるのかと思うと心が躍るようだった。

  昼食をすませ、早速、一緒に来ていた仲間とともに二人で原野に出かけることにした。 小屋の目の前にはツンドラの原野が広がっている。 途中までは植生が発達しているが、氷河から流れ込んだ沢によって礫(れき)がゴロゴロと転がり植生が一時的にまったくなくなる氾濫原がある。

氾濫原を越え、さらに氷河と山側に近寄っていくと、一部の植物がポツポツと礫の隙間に生えている程度になり、しまいには植物がまったくいなくなる。 正面にあるのは東ブレッガー氷河。 この原野は、東ブレッガー氷河が後退して剥き出しになった裸地に植物が定着して出来上がったものだ。

  長靴の底からフカフカの大地の感触が伝わってくる。 植物はみな、大きくとも足首ほどの背丈しかない。 切り立った山やダイナミックな地形、氷河ばかりに目を奪われていると、その存在に気づかず通り過ぎてしまう。

  私はその場に寝転んでうつ伏せになり、地面すれすれまで顔を近づけていった。 トナカイの角のような形、キクラゲのような形、霜が降ったような色、多様な形と色をした地衣類、黄緑色に芽吹いたモコモコのコケ。 チョウノスケソウの白、コケマンテマの濃いピンク、ホッキョクヒナゲシの薄い黄色、ムラサキユキノシタの赤紫、タカネマンテマの薄紫……。

  木の仲間であるキョクチヤナギが濃い緑色をした丸い葉をつけ、つやつやとしていた。 木とは言っても、葉のサイズは5mm~1.0cmほど、背丈も1cmほどしかない。 なんて可愛らしいのだろう。本当にこれが木なのかと疑いたくなる。

  辺り一面、色とりどりの可憐な花々が太陽の光を浴びていっせいに咲き乱れ、どこまでも続いていた。 時折吹く風が花畑を通り過ぎていく。そのたびに、花畑は光を反射しながら楽しそうにそっと揺れていた。 立ち上がっては地面にうつ伏せになる。 これを繰り返しながら植物の観察に夢中になっていると、いつの間にか時間が経っていた。 しかし、後ろを振り返ってみても、どうやら自分があまり前へ進んでいないことに気づく。

 

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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