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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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現代の探検家《田邊優貴子》 =63=

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○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ ユキドリの舞う谷 = 1/3 = ◇◆

  私はヘリコプターの窓ガラスに顔を押し付け、眼下にどこまでも広がる一面真っ白な世界に見入っていた。 2009年12月18日13時15分、ちょうど30分ほど前に大型ヘリコプターCH-101で砕氷船「しらせ」を飛び立ち、生物調査のために南極大陸を目指していた。 時折、ビッシリと分厚い氷で覆われた海氷に穴があいた氷山の周りに、氷上に横たわるウェッデルアザラシが小さな灰黒色の点で幾つも見える。 ヘリコプターの音に気づき、頭を上げてこちらを向く者もいる。
 
 2年前の2007年12月、私は昭和基地近くの海氷上で調査の手伝いをしていた。 作業も一段落し辺りを散策していると、白い雪と氷、透き通るように青く光る氷山が続く起伏のなかに、灰色の塊がニョロニョロと動いているのが目に飛び込んできた。 はじめてはっきりと見るウェッデルアザラシだった。 起伏のためその存在に気づかず、発見した時にはもはやすぐ目の前まで近づいてしまっていたのである。 こんなにも近くで、しかも生きものの気配などまったくない氷の上で、野生のウェッデルアザラシに出会うなんて。

 よく見るとすぐ傍らには穴が開いており、海水面が見えている。 すぐに海の中へエサを採りに行けるよい場所なのだろう。 丸々と太っていて、ものすごく大きい。 体長3メートルくらいはありそうだった。 お互い完全に視線が合い、アザラシはジーッとこちらを見ている。 張りつめた空気が流れ、まるで時が止まってしまったかのような瞬間だった。

 私が動かずに静かにしていると、ほとんど警戒することはなく、安心したのか前鰭の先に突き出た尖った爪でボリボリと腹をかき、目をつぶって眠ってしまった。 アザラシが腹をかく音、呼吸音がしっかりと聞こえる。アザラシのそばで私も氷の上に寝転び、そんな悠々とした姿をしばらく見つめた。

 太陽で辺り一面キラキラとしている。 空は深い青、風のない静かな午後のことだった。 なんて不思議な時間なのだろう。 決して私たち人間と交わることのない時間の中、はるか遠いところで生を営む野生の動物と私の間に、そのとき確実に同じ時間が流れていた。 ヘリコプターから見下ろすと、あんなにも大きなウェッデルアザラシが、見渡す限りの氷の世界の中で、ほんの小さな点でしかなかった。 それも、じっくりと目を凝らしてみなければ気づくことさえないだろう。

 けれど、その小さな小さなアザラシの姿は、今目の前に存在している、気が遠くなるほどの空間の広がりを私に強く感じさせ、同時に、小さな点でしかないアザラシの息づかいがその広大な世界をより一層際立たせていた。 そして、生命を全く寄せつけないはずの凄まじい世界がほんの少しだけ私に近づき、わずかだが、つかみどころのあるものに感じられた。

 ヘリコプターの中は隣にいる人にさえ声が届かないほどの爆音が響いている。 その爆音のせいも少しあるが、大陸へ向かうヘリコプターの中で、私は明らかに気分が高揚気味だった。ついに南極大陸が遠くに見え始めた。 どんどん胸が高鳴る。 初めて南極大陸が見えたときのことは今もはっきりと覚えている。 それまで南極大陸と言われても、いまいちピンと来ていなかった。もちろん、知識として大陸があるということはわかってはいるのだが、私の頭の中にある「南極大陸」という像はあくまでもぼんやりとしたものだった。

 ヘリコプターに乗り、真っ白な氷原の向こうに茶色い岩肌が見えた時、私は本当に大興奮した。 何よりも、約1か月ぶりに見る陸地。 オーストラリアを出港してからというもの、ひたすら南へ行けども周りは見渡す限り大海原。 この世界に自分たち以外は存在しないのではあるまいかとさえ思えてきて、ずっとこの先、このまま何もない氷の世界だけが存在しているのではないかと考えていた。 本当に、いわゆる何もない地の果てのような場所を目指しているような航海だった。

 けれど、眼下に見えたのは、私が想像していたような真っ白な地球の果てとはまた違った、もっと力強い、地球そのものが見えるような地球の果てだった。 本当に南極は大陸なのだと、知識としてではなく、自分の中で実感として持てた気がしたのである。

  船を飛び立って約1時間、ついに、私たち生物研究者のチームがこれからしばらく調査活動をする、ラングホブデという名のついた露岩域(南極大陸の約97%を覆う氷床から解放され、大陸岩盤が剥き出しになった地帯)が見えた。 ラングホブデとは、ノルウェー語で「長い頭」という意味を持つ。 昔、名前をつけたノルウェー人には、きっとこのラングホブデ露岩域が長い頭のような形に見えたのだろう。 言われてみれば確かにそんな形に見えなくもない。

 1957年1月29日に第1次南極観測隊が上陸するまで、この周辺は前人未踏の地だった。 しかし、それをさかのぼることさらに20年。 1937年に、ノルウェーの探検隊が水上飛行機によって撮影したこの辺一帯の写真をもとにして主な露岩域や島々に名前がつけられた。 そんな歴史があって昭和基地の周辺には ノルウェー語の地名が数多く付けられている。

 

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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