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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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現代の探検家《田邊優貴子》 =20=

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○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 南極の凍った湖に潜って、原始地球の生態系を追う =田邊優貴子= ○

◇◆ 第7回 湖底はまるでSFの世界 =3/3= ◇◆

小さな発見、大きな発見

 結局、キャンプ地を閉めるまで、私は延べ5回の潜水調査をした。 研究室に戻ってから分析・解析しなければ分からないことばかりだが、小さなものから大きなものまで色々な発見があった。

 まず小さな発見は、気温マイナス20℃近くて風が少し強めのコンディションで潜水をすると、潜水後にキャンプ地に到着するころには冷たい風でドライスーツが凍り、上半身がスノーモービルのハンドルを握る形状に固定されてしまうこと。 これはまるで魔女に魔法をかけられて“かかし”にされたかのようだった。テント内のヒーターの前で5分~10分間ほど待って、スーツが融解するとともに私も魔法から解ける。

 大きな発見は、湖底の光合成生物群集、つまりあの不可思議なドーム状の構造体は、ほぼシアノバクテリアだけで形作られているということ。 実際に潜って試料を採取して調べるまで、私はなんだかんだでもっと藻類が存在しているに違いないと思っていた。 ところが、シアノバクテリアと藻類それぞれの光合成活性を測定したところ、藻類のシグナルがまったく検出されなかったのだ。 顕微鏡で観察してみると、わずかに珪藻が見つかることもあるがそれもかなり稀で、一般的に淡水環境によく暮らしている緑藻はまったくもって見当たらなかった。 つまり、湖底の生態系は、厚さ4mの氷を通して湖底深くに達する光エネルギーで成長するシアノバクテリアによって保たれている、ということなのだ。

 ちなみに、南極は環境の厳しさの違いから、南極半島のような温暖な気候の『海洋性南極』ともっと厳しい気候の『大陸性南極』に分けられる。昭和基地周辺とアンターセー湖があるエリアはどちらも大陸性南極なのだが、昭和基地周辺の湖にはシアノバクテリアと同じくらい緑藻が存在し、さらにコケも共存する。 そして湖底には不思議なタケノコ状の群落が形成されている。

糸のような形状をしたシアノバクテリアは太さが約1ミクロン以下だが、糸状の緑藻は10ミクロン近くと、約10倍も太い。 さらにコケともなると太さは約1ミリ、つまりシアノバクテリアの1000倍ほども太いのだ。というわけで、太いコケが骨格を作れば、しっかりとしたタケノコ状の構造物もある程度出来やすいはずである。 ところがここアンターセー湖のドームは、か細いシアノバクテリアだけで作られている。 どうやってシアノバクテリアだけであのドームが出来上がるのか。

30億年前と同じ生態系?

 約30億年前(ちょっと前までは35億年前と言われていたけれど、今は27億年前だと言われている)、酸素発生型の光合成ができる生物が誕生した。 それは限りなくシアノバクテリアに近い生き物で、葉緑体の祖先だと言われている。

 オーストラリアのシャークベイという場所にかの有名な(?)ストロマトライトが現生している。 ストロマトライトとは、ドーム形をしたシアノバクテリアの塊。 その化石は世界中で見つかっていて、約30億年前に現れ、先カンブリア時代に繁栄していたと考えられている。

 おかげで地球は大量の酸素で包まれるようになった。 地球生命史のなかで、かなりのビッグイベントである。 ところがその後、酸素を必要とする生物がどんどんはびこり、彼らを食べる生物が出現したために、地球上に広がっていたストロマトライトたちは急激に減少していった・・・らしい。

 分厚い氷で長い間閉ざされ、今現在ひっそりとアンターセー湖の湖底に広がるシアノバクテリアドームの世界。 コケどころか藻類さえもほぼ存在しない、シアノバクテリアが支配する生態系。これはまさにストロマトライトが繁栄していた時代の生態系の様子そのものじゃないだろうか。 私が思っていた通り、やはりアンターセー湖は地球上で唯一、30億年前の原始の地球の生態系を見ることが出来る場所なのだ。

 さて、とにかく私はこのアンターセー湖にやって来て、実際に自分の足で、自分の目で、自分の肌で体感し、今できる限りのことをした。 そしてそこから多くのことを見つけ、多くの疑問が生まれ、多くのことを考えた、いや、現在進行形で考え続けている。これから先、私を待ち受けているのは、持ち帰る試料を分析し、データを解析して、この湖底に広がるシアノバクテリアドームの生態系の謎に迫る答えを見つける、というもう一つの冒険だ。それは私の頭の中で繰り広げられる。

 フィールドワークは知的探究心を自らの身をもって表現するものだが、脳内での思考作業はそこで見つけた現象を深く追求し論理的に理解し表現するものだ。 自然、それから地球を相手にしたサイエンスではこの二つがあってこそ真理に迫れるんじゃなかろうか。 そして何よりもそのほうが格段に面白いしワクワクする。 誰も見たことのない世界に行って、誰も見たことのない世界を描き出すのだ。

  「ユキコ、お前は昭和基地周辺の湖で初の女性ダイバーだ。でもこれで、アンターセー湖、いや、それどころかDroning Maud Land(南極大陸の5分の1ほどの面積を占める各国の基地が集まるエリア)でも初の女性ダイバーだよ」

  最後の潜水調査が終わった夜、ジョニーウォーカーの“Explorer’s club collection”という名前のウィスキーをキッチンテントの中で飲みながらデイルが言った。

 その4日後の2014年12月11日、約1カ月にわたるアンターセー湖での私のキャンプ生活は幕を閉じた。 もう1週間も前から体力も気力も消耗しきって疲労のピークに達していた。 思い返せば南極入りしてからの1カ月ちょっと、一度もゆっくりと深く眠れた日はなかった。 けれど、その心身の疲労は調査の終わりとともに達成感と清々しさに変化していった。

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・・・・・ 南極点到達競争 =壮絶な英国隊・スコットの遭難= ・・・・・・・

 

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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