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Channel: 【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》
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王妃メアリーとエリザベス1世 =19=

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○◎ 同時代に、同じ国に、華麗なる二人の女王の闘い/王妃メアリーの挫折と苦悩 ◎○

◇◆ メアリーと相次ぐ陰謀事件 ② ◆◇

  このころローマ教皇は、スコットランド女王メアリー・スチュアートとボスウェル伯ジェイムズ・ヘバーンとの離婚を認めていた。 裏でそれを働きかけていたのは、メアリーと結婚したがっていたノーフォーク公だったと言われている。 彼とローマの利害は一致していた。 ローマはローマで、メアリーとノーフォーク公を結婚させ、エリザベス1世を排除したあとにメアリーを女王とし、イングランドにカトリックを復活させる――という筋書きを書いていたのである。

 ところが、イングランド第一の名門貴族のおごりもあったのか、4代ノーフォーク公の大胆な目論見は、エリザベス1世の忠実な側近サー・ウィリアム・セシルの知るところとなり、彼女の耳にも入ってしまった。 ノーフォーク公は女王に呼び出されて詰問され、「そのような行為は反逆罪に問われる」と厳重な警告をうけた。 すると彼は、「そのようなことは考えたこともない」とその場を言い繕い、さらにそのあと、エリザベスに「メアリーとの結婚はあきらめた」などと偽りの手紙を書き送っていた。 しかしその裏では、着々と陰謀の準備を進めていた。

 その大胆不敵な行動は、ふたたびセシルの知るところとなり、1569年、ついにかれは反逆罪の疑いで逮捕されるのだった。 しかしこのときは、証拠不十分で、処罰されるまでにはいたらなかった。 一度は逮捕されたノーフォーク公だったが、かれはそれで簡単にあきらめるような男ではなかった。 彼は、メアリーと結婚し、彼女をイングランド女王に据えたあとには、いずれは自分が国王になる気でいた、とも言われている。 すぐにメアリーは反乱の焦点となった。 “北部諸侯の反乱”の首謀者たちは彼女の解放とノーフォーク公トマス・ハワードとの婚姻を策動した。 反乱は鎮圧され、エリザベスはノーフォーク公を断頭台へ送った。

 この経緯を窺えば、当時の政局で蠢く貴族たちの姿が浮かび上がる。 1568年5月にカトリックのスコットランド前女王メアリー(プロテスタント貴族たちに王位を追われていた)がスコットランドを脱出してイングランドへ亡命し、エリザベスに援助を乞うたが、そのままイングランドで軟禁状態に置かれていた。 また同年12月にはネーデルランドでプロテスタント反乱の鎮圧に当たるアルバ公への軍資金を乗せたスペイン船がイングランドに漂着するも拿捕される事件があった。

 こうした政治情勢から宮廷内ではレスター伯爵を中心に宰相ウィリアム・セシルを排除しようという動きが活発化し、また第7代ノーサンバーランド伯爵や第6代ウェストモアランド伯爵らカトリック北部諸侯の間ではメアリーをイングランド王位に付ける計画が推進されるようになった。 メアリーもその計画に前向きであり、彼女は自分とノーフォーク公の結婚計画を積極的に推進し、北部諸侯=彼らは結婚計画にはあまり乗り気ではなかった=の同意を得た。

 ノーフォーク公爵は自分はカトリックではないと主張していたが、最終的にはメアリーと結婚する決意を固めた。ただしノーフォーク公にとってこの結婚計画は大逆のためではなくイングランドの国益を考えてのことであった。 エリザベスがメアリーをスコットランド女王に復位させた時、イングランド貴族が夫になっている方がスコットランドとイングランドの関係が好転させやすいし、またメアリーをカトリックの陰謀から引き離すことができるからである。 しかしエリザベスがそのように捉える保証はなく、エリザベスが自分への大逆罪と認定した場合はノーフォーク公以下推進者は全員処刑されてしまうので、ノーフォーク公にとってもこの計画は博打だった。

 エリザベス女王にいつ、どのような形で結婚計画を上奏するか思案しているうちに噂が宮廷中に広まり、1569年9月頃には宮廷内の緊張が高まった。 計画から手を引いたレスター伯爵の告白を聞いた女王は「ノーフォーク公爵とメアリーが結婚すれば、私は4か月以内にロンドン塔送りとなるであろう」と激怒した。 女王の召還を受けたノーフォーク公は、やむなく計画の一部始終を女王に上奏したが、女王から凄まじい叱責を受けた。 これにより宮廷に居づらくなったノーフォーク公は1569年9月16日に女王の許可を得ることなく独断で宮廷を退去し、ロンドンの屋敷に引きこもり、病気を理由にして参内を拒否するようになった。

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