○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
探検家になるために必要な資質は、臆病者であることです =植村直己=
= Webナショジオ_“河江肖剰-新たなピラミッド像を追って”より転載・補講 =
☠ 自分が主役になるよりは常にメンバーを影でサポートするような立場でいたい ☠
◇◆ 公子さんのこと・・・・・ =1/4= ◇◆1974(昭和49)年5月、植村直己は野崎公子と結婚した。植村はこのとき33歳、公子さんは少し年上の姉さん女房である。植村はどこかの組織に所属して公的な役割を担ったりしたことはなかった。だから公私二つの顔をもつ必要もなかったのだけれど、冒険家として名前を知られるようになると、彼のふるまいのなかで多少は公私の区別というのが意識されはした。その区分でいえば、結婚と家庭は私的な部分である。
私は植村の生きた軌跡を追いかけてみようとしてはいるが、もったいぶった評伝を書こうとしているのではない。だからそれを理由に「私的な部分」にどさどさと踏み込んでいくつもりもないし、また必要もない、と考えている。
しかし、いっぽうで思うのは、植村直己という、全人格が冒険家で成り立っているような男にとって、この結婚はじつに大きな意味をもっていた、ということだ。植村について何事かを語ろうとするとき、公子さんとの生活を無視するわけにはいかない。
お断りしておきたいのは、公子さんとは植村亡き後もずっとつきあいが続いて、今に至っている。だから率直にいって書きにくい。書きにくいけれど、自分が植村夫妻のことをどう見たかについて、できる範囲で記しておかなければならないと考えている。結婚する相手が見つかった、という照れくさそうな、また嬉しそうな植村の話を聞いてまもなく、つまりは電光石火という早業で彼は結婚した。
相手は植村の住んでいた下宿の近く、板橋区仲宿にある江戸時代から続く豆腐屋の娘で、野崎公子さん、といった。ここで私の個人的な思いを書いてもしかたがないが、少しずつ公子さんと話をするようになってもつようになった印象は、じつによくものが見える、賢いひとだなあ、ということだった。その賢さをキラキラと表に出しているのではなく、あったかい雰囲気のなかにくるみこんでいる。そしてこの印象は植村がいなくなって28年経た今でもゆらぐことなく、変わらない。
同じ仲宿の商店街で、公子さんの友人である加藤八重子さんが営むトンカツ屋で顔を会わせたのが、2人の出会いだった。
前年の73年7月、ほぼ1年間のグリーンランド滞在から帰国した。このグリーンランド滞在は、南極横断のために犬橇の操縦を身につけるためのものだったが、帰国早々に植村は別の企画、北極圏一万二千キロの犬橇旅行の構想を語りはじめていた。息せき切って、来月からでも出かけたいという彼に、もう少し時間をかけて準備する必要があるのではないか、といった覚えがある。彼は74年11月にふたたびグリーンランドに渡るまで、約1年間の時間的余裕をもった。そのときに、公子さんとの出会いと、結婚があった。
ただ、私は当時、公子さんとの結婚のいきさつについて、ほとんど結果を知ったのみだった。詳しく知るようになったのは、むしろ植村が居なくなってから、というより、2005年2月にこころみた公子さんへのインタビューで、ようやく全体の流れを知ったのである(インタビュー「しんしんと積ってくるもの」は、雑誌「コヨーテ」の同年7月号に掲載)。
この公子さんへのインタビューは、「私的な」植村を知るための、貴重な記録である。それはこの文章が依拠することになるものの一つである。
会ったのは73年の7月というから、植村が帰国して間もなくである。以下、特に注記がないかぎり、公子さんの話である。《夏の夕暮れだったんですね。えーと、一九七三年の七月です。トンカツ屋さんが始まった時刻に、「公ちゃん、この人さ、このあいだグリーンランドから帰ってきたんだってよ」と紹介してくれた。へえ、と思って見たら、お風呂帰りだったんです。お風呂帰りの艶やかな顔にしては汚かったんですよ。なんだかちびたものを身につけていて。へえ、とか思ってそれだけでした。》
この通りだったのだろうけれど、この話の向うに、一目惚れしてドギマギしている植村がいる、と思うと微笑ましくなる。8月に1回、9月に1回というふうにトンカツ屋で会って、植村がエベレスト登頂者であることなど、彼が何者なのかをしだいに公子さんが知るようになった。11月には、加藤さんも一緒に三ツ峠にハイキングに行ったりして、少しずつ親しくなった。というより、植村が加藤さんに「公ちゃん呼んでください」と頼むことがしょっちゅうになった。
=補講・資料=
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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