◆ 年増の人妻と駆け落ちした兄貴に代わり今の女王様の親父がイギリス国王になる(1937年=ジョージ6世の戴冠式が行なわれる)。 ◆ 世田谷区民が米よこせと赤旗を振りながら、畏れ多くも有史始まって以来最初に宮城に押しかける(1946年)。 ◆ 四川大地震で中国の人口が0.007%減少する(2008年)。
◎ ◎ 希少なイルカを探知、「イルカ犬」がウォッチング船で活躍中 ◎ ◎
- - イルカの鳴き声を聞き取る優れた聴覚、ツアーに欠かせない仲間に、NZ - -
=National Geographic Journal Japan 〉旅&文化〉 文=Natasha Bazika/訳=三好由美子
大海原を見渡すようにボートの右舷側をゆっくりと行ったり来たりしていたイヌの「バスター」。その耳が突如ピンと立つ。何かが見えた、というより何かが聞こえたのだ。 「イヌは優れた聴覚を持っています」と、ニュージーランドでネイチャークルーズを催行する「アカロア・ドルフィンズ社」の共同オーナーで、クルーズ船の船長を務めるジョージ・ワグホーンさんは説明する。「イルカが仲間同士で会話する時に出すクリック音やホイッスル音が聞こえるんです」 バスターは集中した面持ちで頭を海の方へ傾けた。まるでイルカたちの会話を立ち聞きしているかのようだ。彼が滑らかな海面を見つめていると、2頭のイルカが深みより現れた。ツアー客が歓喜の声を上げ、急いで右舷に集まる中、ひと仕事終えたバスターは静かにたたずんでいた。 「イルカ犬」のバスターの任務は、最小のイルカの部類で、非常に希少なセッパリイルカ(Cephalorhynchus hectori)を見つけることだ。セッパリイルカは、ほっそりとした体に丸みのある背びれと、体全体にある白と黒と灰色が入り組んだ模様が特徴で、ニュージーランド南島の町アカロアの沖合50キロほどまでのところにしか現れないと、ジョージさんは説明する。現在、この海域に7000頭ほどが残っているだけだ。
独特な雰囲気が漂う小さな町
ツアーでは、ジョージさんはアカロアの歴史にもふれる。ワグホーン家が7世代前から暮らしているアカロアは、マオリ語で「長い港」という意味で、バンクス半島の火山のクレーターが海とつながってできた形に由来する。細長いアカロア港を取り囲む急斜面の山々をジョージさんは指さし、「もしぜんぶの山をぴったりくっつけたら、一直線に並びますよ」と言った。 アカロアはクライストチャーチから車で1時間半ほどの距離にあり、週末は都会から遊びに来る人々でにぎわう。
独特な雰囲気が漂うわけは歴史にある。1840年代、フランスがアカロアからニュージーランドの植民地化をもくろむなか、英国が先んじて先住民族であるマオリ族とワイタンギ条約を結び、ニュージーランドを植民地にしてしまった。町にフランス風と英国風の名前をもつ通りが混在するなど、今もフランスと英国からの入植者の影響が残っているのはそのためだ。町は小さく、端から端まで15分ほどで歩ける。 フランス人と英国人の両方を祖先に持つワグホーン家。ヒューさんとピップさんのワグホーン夫妻が農場を売り、アカロア・ドルフィンズ社を始めたのは20年前のことだ。 イルカウォッチングツアーを中心にネイチャークルーズを提供してきたが、趣味の延長線上で始めた仕事であり大きな成長は期待していなかった。今日、アカロア・ドルフィンズを運営するのは子どものジョージさんとジュリアさん、そして人とイヌの頼もしいスタッフたちだ。 「イヌたちもスケジュールに沿って仕事をします」とジョージさんは言う。愛犬であるイングリッシュ・スプリンガー・スパニエルの「アルビー」は成犬になるかならないかの頃からツアーに同行している。「イルカの出す音を聞き分ける能力が優れています」とジョージさんが説明する間、アルビーは腹ばいになり、デッキから精一杯首を伸ばし、海を眺めていた。
「魔法でも見ているようでした」
イルカ犬たちは空港探知犬などとは異なり、最低限の訓練しか受けない。「生まれながらの本能を伸ばすことがより重要なのです」とジョージさん。吠えるとイルカをおびえさせてしまう恐れがあるため、吠えないことを教えるのが訓練の主な目的だ。訓練中のイヌには指導役の先輩犬が付く。 クルーズに同行するようになった初めてのイヌはヒューさんとピップさん夫妻の愛犬でケアーン・テリアの「ヘクター」だった。船に連れて行くうちに、イヌにイルカの鳴き声が聞こえていることに気付いたのだ。 「ヘクターは船の中を走り回り、まるでイルカと追いかけっこをしているようでした」とピップさんは語る。「動物には人間にない能力があるのですね。魔法でも見ているようでした」 イヌの特異な能力を偶然に見出して以来、イヌは家業の一員となった。それは運命に導かれたかのようだった。
アルビーが家に来た日のことをジュリアさんはよく覚えている。ある地元住民が、プライベートなツアーの対価にアルビーを持ち掛けてきたのだ。オーストラリアン・ケルピーの「ジェット」は、オーストラリアのアウトバック(内陸部の砂漠を中心とする広大な地域)で暮らしていたジョージさんが母親のピップさんに説得され、アカロアに戻ってきた際、一緒に連れてきたイヌだ。ジェットが家業に加わったのは幸運だったとピップさんは言う。
ペンギンやオットセイにも
セッパリイルカが大きな注目を浴びるようになり、イルカウォッチングツアーを催行する旅行会社も増える中、アカロア・ドルフィンズは観光系の会社としてはニュージーランドで初めて環境や社会に配慮した公益性の高い企業として「B Corp認証」を獲得している。 「イルカと泳げるツアーなどを手掛ける会社もありますが、私たちは賛同できません」とジュリアさんは言う。「私たちは教育者としての役割を大切にしています。ツアー参加者にはまたとない体験をしてもらう一方、環境への影響は最小限にとどめるよう努力しています」。それがアカロア・ドルフィン社の理念のようだ。 2014年、ピップさんとヒューさんはイルカだけでなく、ハネジロペンギンやニュージーランドオットセイなどを保護するためのアカロア海洋保護区の設置に尽力した。2時間のツアーの間、こうした生き物たちの群れにも出会うことができた。湾の出口付近ではシロビタイアジサシが荒波の上を軽やかに飛んでいるのも目にした。 港への帰り道、バスターが誇らしげに船内を歩き、乗客からなでられたり、ほめられたりしていた。船の周りにはイルカがいたが、この時ばかりはバスターが注目の的だった。
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