○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 南極の凍った湖に潜って、原始地球の生態系を追う =田邊優貴子= ○
◇◆ 第11回 「アザラシの丘」への散策に =2/2= ◇◆
Sealer Hillに向かう海岸線で出会ったのはそれだけではなかった。 海からはジェンツーペンギンやヒゲペンギンがどんどん上がってきた。 海に入って行ったり、浜辺で休憩していたり、何食わぬ顔でミナミゾウアザラシの横を歩いていたり、ペンギン達はとにかくどこにでもいた。 水族館で見たことはあったが、野生のジェンツーペンギンとヒゲペンギンに出会うのは今回が初めてだった私は、いちいち足を止めて見入ってしまうのだった。
大きな鳥が大群で座っているのにも出くわした。 オオフルマカモメだ。 “しらせ”で南極へ向かう時に海でよく見る鳥だが、こんなにも大群で、こうやって陸地にいるのを見たのは初めて。 近づくと逃げようとするのだが、身体が大きいせいかすぐには飛び立てず、みな陸上を急スピードで走って逃げる。 その様がなんだか可笑しかった。
ふと右手を見ると、鮮やかな緑色が一面に広がっていた。 コケのカーペットだ!! 喜んで近づいてみると、それはコケではなく、ナンキョクコメススキの緑のカーペット。 もちろんコケも混じってはいるのだが、とにかくそこは一面ナンキョクコメススキが群生しているエリアだったのだ。 まるで芝生の公園がどこまでも広がるような景色。
「うわあっ!こんなにも生えてるなんて!!」
ナンキョクコメススキの緑のカーペットでは、もうひとつ、印象に残る生き物に出会った。 たくさんのアザラシのミイラだ。 カーペットの上に横たわるミイラたちは、どれも昭和基地周辺で見るものとは違っていた。
『すてきな 地球の果て』(ポプラ社)という拙著の中で、“生と死の風景”というウェッデルアザラシの赤ちゃんの話を書いた。 できることなら詳しくはそちらを読んで頂きたいのだが、昭和基地周辺のアザラシのミイラは、身体がゆっくりとゆっくりと分解され、それを栄養にしてひっそりと緑のコケが周りに生えている、という状況だ。
周囲は荒々しい岩肌が露出し、栄養がまったくない中で、そのアザラシのミイラは重要な栄養源となってコケを育てる。 生命が次の生命へとつながっていくことを教えてくれる“生”と“死”があまりにもはっきりとした光景だ。 そしてそのアザラシのミイラはなんと約2000年の時を経て今に至っている。 身体はいまだ朽ち果てることなく、カラカラになってかなり形が残っている。 そばに近づいてもあまり匂いもしない。 低温、乾燥、分解者である微生物が少ない、という南極大陸ならではの環境によって、なかなか物が分解されないのだ。
ところが、今目の前にあるアザラシのミイラは、身体がかなり朽ち果てて原形をあまり留めてはいなかった。 ミイラというよりも、白骨に近い。 南極半島は南極の中でも温暖で湿度も高くて生物が豊かだ。 ここでは、大陸南極と比べて微生物も多く、その上微生物によって物が分解される速度がかなり速いのである。 大陸南極ではなかなか物が腐敗しないのだが、ここでは確実にすぐ腐敗するだろう。 つまりは、“生命の循環”、“物質の循環”がもっと速いということを意味する。生態系は死体の上に成り立っていると言える。 だからこそ、ここはこんなにも生き物が豊かなのだ。 それを今こうやって明確に見せつけられたのである。
ナンキョクコメススキの鮮やかな緑のカーペットの上では、アザラシのミイラがいくつも転がるいっぽうで、何頭ものミナミゾウアザラシの子どもがのんびりと昼寝をしていた。 上空にはキョクアジサシが飛び交い、浜辺にはミナミゾウアザラシやジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、オオフルマカモメが佇み、キラキラと光る海の上ではカモメの群れが騒がしく飛び回っている。 みな、太陽に照らされながら。
生き物たちの息づかいでとても賑やかな、ここはまさに生き物の楽園だった。
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森のなかえ
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