○◎ Great and Grand Japanese_Explorer ◎○
○ 南極の凍った湖に潜って、原始地球の生態系を追う =田邊優貴子= ○
◇◆ 第4回 ヌナターク =1/3= ◇◆
「わーーーーー南極だーーーーっ!」
すっかりテンションが上がってしまった私は、大声でそう叫んでいた。この1年間での大きな声ベスト1だったと思う。もちろん、エンジン音と裸氷帯の上を走る振動音がけたたましく響いて、それは誰にも聞こえないのだけれど。
ノボラザレフスカヤ基地をスノーモービルで出発して最初の30分は雪上を走っていたのだが、そのあとは裸氷帯に入った。そこは一面ツルツルの青い氷の風景。太陽でまぶしく輝く、デコボコの不思議な形をした氷の地面が、視界の先にどこまでも果てしなく広がっている。その風景は圧倒的で、私は思わず声を上げたのだ。
振動と気合いのスノーモービル
ところが、それはすぐに違う感情に変わっていった。デコボコを通り越し、尖った形になった氷の上を走ると、小刻みな衝撃と振動が延々繰り返されるのだ。脳と体全体にその振動が加わり続け、脳がしびれたような感覚になってきた。あまりスピードを出すと、体はもちろん、橇に載せている荷物やスノーモービル自体にもよくないので、その間、アクセルを微調整し続けなければならない。
ノボラザレフスカヤ基地を出発してから8時間。このアクセル微調整が、スノーモービル隊を苦しめていた。私たちが採ったのは、途中にあるクレバス帯を避けながら大きな“くの字”を描くようなルート。それまで1~2分程度の休憩を3回取っただけで、私たち3人はひたすら大陸氷床の上を内陸に向かっていた。
私たちが運転していたスノーモービルには、右ハンドルのそばに親指を使って操作するアクセルレバーが付いている。右手の親指からその付け根辺りでアクセルをコントロールし、他の4本指でハンドルを握る。おかげで、さすがにそれが7時間半以上も続いた頃には、アクセルをちょうど良い加減で握る力もなくなってきて、とにかく気合いだけで腕と手を保っていた。
ノボラザレフスカヤ基地から離れるにつれ、遮るものがなくなっていった。空は真っ青で雲一つない。一見すると風が強いようには見えないが、氷床上には凍てつく強風が吹き続けていた。顔を覆っているフリース地のフェイスマスクは私自身の息ですっかり凍りついてパリパリになっていた。
先頭を行くデイルも、スノーモービルを停めるたびに右手をプルプル揺らしたり、グーパーを繰り返していた。いくつものクレバス帯を迂回し、あとどれくらいで着くのだろう、このまま青白い世界が永遠に続くんじゃなかろうか・・・指と手が完全に限界を超え、強風に吹かれながら、私はすっかり意気消沈気味になっていた。もはや、今年ベスト1の大声を出した7時間半前が遠い昔の出来事で、若気の至りだったとさえ思えてきた。そんな頃、視界の先、白い地平線の向こうに、山が見えてきた。
「陸地だ!!」
と咄嗟に思ったのは、嬉しさでちょっと気が動転していたからに違いない。もちろん私はずっと陸地を走ってきたわけで、向こうに見えたのは “ヌナターク”=内陸の大陸氷床から高く突き出た峰々だ。そして、何を隠そう、それが私たちの目指すアンターセー湖を抱くグルーバー山地(正式なその辺りの山岳地帯の名前は“Otto-von-Gruber山地”)だった。
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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽 憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・
森のなかえ
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